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逆さに映る

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 思春期に突入すると、それまで感じていたお姉さんに対しての思いが、恋愛感情ではないことに気づいた。いや、気付いたからこそ、自分が思春期に突入したと自覚できたのかも知れないが、いくつかの今までに感じたことのない感覚を感じたことで、
「今が思春期だ」
 と感じるようになったのだと分かった時、
「思春期の感情は、それまでにないくらいにループの速度が早いことを思い知らされた気がした」
 と感じたのだった。
 それを教えてくれた思春期と、お姉さんへの思いが交錯し、母親としてお姉さんを受け入れることができるようになったのだと思うのだった。
 父親とお姉さんが結婚すると、すぐに三人は家族になった。お姉さんからすれば、彰浩は義理の息子というよりも、弟ができたというような感覚だったかも知れない。その分、いきなり息子ができたという感覚になっていないことが、家族として溶け込めるようになった最大の理由であろう、
 彰浩の方も、最初から彼女のことはお姉さんだった。
 名前を、咲江といい、最初の頃から、
「咲江姉さん」
 と呼んでいたので、家族になってからも、同じ呼び方をしていた。
 さすがに最初には、父親が、
「彰浩、咲江姉さんはまずいだろう。お義母さんと呼びなさいとまではいわないが、他に何か言い方があるだろう?」
 と言われたが、
「じゃあ、どう呼べばいいのさ」
 と聞くと、さすがに父親もすぐには思いつかず黙っていると、
「いいのよ、今まで通りでいいわ。私もそれが嬉しいもの」
 とおどけた調子で言っていたので、彼もそれでいいと思ったのだが、そのおどけた様子の中に、若干の寂しさが籠っていたことを、彰浩は想像もつかなかった。
「結婚したんだから、すぐに子供ができるだろう」
 ということは覚悟していた。
 子供ではあったが、そういう自分にとって不利なことはなぜかすぐに思いついた。それは、自分がその状況に耐えられるように、最初から覚悟を持つための時間を与えることができるようにするためだろうと思っていた。それだけ自分が小心者で、それだけの時間がないと、なかなか切り抜けられないということの証明ではないだろうか?
 ただ、彰浩にとって、子供というのはどういう存在になるのかを考えてみた。
「たぶん、咲江姉さんが子供を産めば、その春化から、僕は本当に義理の息子ということになってしまうんだろうな?」
 と感じた。
 少し不思議な感じがしたのは、子供を産んだ咲江さんは義理の母親で、生まれてくる子供は義理の子供なのではない。あくまでも腹違いの兄弟ということになるのだ。大好きな咲江さんが義理の関係で、その咲江さんと超えることができなかった関係を生まれてくるであろう子供の方が、血の繋がりがあるというのも複雑な気持ちだった。
 しかも、腹違いという中途半端な関係、父親が違うが、母親は同じという関係よりも、血の繋がりは薄いような気がするのだが、関係性としては同じなのだ、このあたりの関係に対して、中学生になろうとしている彰浩は不思議な感覚を持っていた。
 そして、
「これが咲江さんの計画だったのか?」
 と思うほど、実に正確なタイミングで、咲江さんは懐妊した。
 もうその頃には、好きだった咲江さんの面影はどんどんとなくなっているような気がした。
「子供の目から見た咲江さんが好きだったんだ」
 と彰浩は感じた。
 思春期になると、
「どうして、あんなタイプが好きだったのだろう?」
 と思うほど、感覚が違ってしまった。
 後から思うと、
「やっぱり俺はそのつもりはなかったが、咲江さんを母親を慕うような気持ちで見ていたということなのだろうか?」
 と感じたのだ。
 しかも、どんどんお腹が大きくなってきて、相撲取りのような滑稽な動きをする咲江さんに、女として見ることができなくなり、
「姉というよりも、やっぱり母親何だろうな」
 という感覚に陥ったのだった。。
 だから、その頃になると、
「咲江さんに対しての想い出は、やっぱり初恋だったんだ。初恋は淡くて、実らないものだと言われているが、まさにそんな感覚なんだろうな?」
 と感じたのだった。
 そんな初恋がどんどん妄想に変わっていくように、咲江さんのお腹は大きくなっていった。
 いずれ、子供が生まれて、元の咲江さんに戻るように、自分の気持ちも、一度、破裂することになるのだろうと感じていたのだ。

               SMの関係性

「中学生になって妹ができるなんて」
 と、最初は自分に弟か妹ができることに、感動も何もなかった。
 それよりも、咲江さんの滑稽に見えるお腹がちゃんと前のように小さくなればそれでいいとしか思っていなかったので、それを思うと、、
「せっかく小さくなったのに、何か以前の咲江さんとは違う人のようだ」
 と感じたのは、急におばさんのようになったのを感じたからだ。
 それでも父親は喜んでいる。
「でかしたぞ、咲江」
 と言って、手放しに喜んでいる。
 その様子を見ていると、
―ー子供ができるって、そんなに嬉しいことなのか?
 と喜んでいる父親の姿が、まるでお腹が妊娠中の咲江さんのようで滑稽にしか見えなかったのだ。
 生まれてくる子供が女の子であるということは、数か月前から分かっていた。父も咲江さんも二人して子供の名前を考えていたようで、生まれてきてすぐに、名前を呼んでいた。
「初めまして。いちかちゃん」
 と二人で名前おw読んでいたので、すぐに妹の名前がいちかだということは分かった。
 さすがに産婦人科の先生も看護婦さんも、いきなり子供の名前を呼んでいる親を見て驚いている様子はなかったので、結構最初から名前を決めている親も多いのだろうと思った。最初から性別は分かっているので、それも当然に思えるが、昔からの命名式のようなものがないのも寂しい気がした。
 彰浩が初めて妹を見たのは、ベビールームでたくさんの赤ん坊が並んでいるところであった。
 どの子供も同じように、等間隔のベビーベッドに寝かされている。その姿を見た時、
「これじゃあ、名札を付けていなければ、どれがどの子なのかって分からないよな」
 と感じた。
 それにしても、生まれてきた子供は皆見分けがつかないということは分かっていたが、こうやって十人以上の子供が並んでいると、爽快というか、滑稽というか、ほのぼのした光景に感じられた。
 産婦人科というと、他の病院とはまったく違う。病院という雰囲気はまったくせず、子供と母親のホテルと言った赴きに感じられるのはビックリだった。
 妹が生まれるまで入ったことがなかった産婦人科という空間には、ビックリさせられるばかりだった。
 実際に子供が生まれてしまえば、母親は栄養を取らなければいけないということで、夕食は天ぷらだったようだが、まるでホテルの食事のようで、病院食がどういうものなのかを以前、父親が入院した時に見ていたので、分かったのだが、天と地ほどの差があると言ってもよかった。
 さすがに子供を産んだ翌日の咲江さんの姿は憔悴しきった様子で、子供を産むということが本当に大変なのだということがよく分かった。
作品名:逆さに映る 作家名:森本晃次