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逆さに映る

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 それを解消するには、
「女性とは浅く広くがいいんだ」
 という感覚で、
「好きになったから、抱きたいのであって、飽きる前に、いいタイミングで離れる」
 というのを繰り返すのが、今の年齢の自分なのではないだろうか?
 そんなことを考えているこの男は、名前を大村彰浩という。彼は、もうすぐ三十歳になろうとしているが、若い頃から女性からモテていた。イケメンという雰囲気ではないのだが、彼の佇まいが優しくみえたり、癒しを感じさせたりするのだろう。
 そういう意味では、
「俺って得な性格なんじゃないだろうか?」
 と思っていた時期もあった。
 だから、女性をとっかえひっかえする性格であっても、女性から、やっかみを受けることはなかった。ただ、男性からは女性の分までやっかみを受けるのだが、
「どうせ、男性なんかどうでもいいので、気にならない」
 と言っていた。
 それでも、女子は自分の思い通りに接してくれている。
「俺って、そんなに女の子から気を遣われるタイプなんだろうか?」
 とも思ったが、考えてみれば、女性の方も、同じように、
「そんなに男性に依存ばかりするようなことはしない」
 と思っている人だけが集まってくると思えば、別に自分に気を遣ってくれたり、それでも自分のことが好きだというほど、都合よく考えられるわけではなかった。
 そんな時にでも、さすがに不特定多数というのは、男としてのプライドが傷つけられるような気がして、最初こそ、不特定多数の女性を相手にしてみたが、その中から、身体の相性が合っている人であったり、一緒にいて、癒しを感じさせてくれる人であるとか、今までなら、絶対に付き合っていたなどと思える人を数院ピックアップして、彼女たちと複数において付き合うことにした。
 中には自分の性格について一切話をしない人もいるが、逆に、自分の考えをすべて曝け出し、相手に分かってもらおうと思った相手もいた。
 もし、それで分かってもらえないとすれば、その人を好きになるということはないだろう。それを思うと、相当、割り切った付き合いを女性たちとはしようと思っているのであった。
 お互いにそんな関係でいられたのは、やはり自分が自分に合う人を引き付けるだけの才能のようなものを持っているからではないかというような、本当に都合のいい考えができたからではないだろうか。
 自惚れであっても、その自惚れのせいで、何か問題が起こったわけではない、却っていいように回ってくれたことが、今後も自分の考えが間違っていなかったということを証明しているようでよかったと思っている。
 そんな女性たちとの関係が三年以上続いた。
 最初は、
「三年なんて気が遠くなるような時間」
 と、三年間をまるで、宇宙にでも飛び出したかのくらいに感じていたのに、三年が近づいてきた頃には、当着地点が近づいてきたかのように感じられ、これまでの道のりが、まるでそこらへんだったくらいにしか感じなかったのだ。
「百里の道は九十九里を半ばとす」
 という言葉があるが、まさにその通りであろう。
 三年で終わりだということが、その時に分かったはずはないので、きっと、三年が経って、終わりに気づいた時、目の前まで来ていた時に、ゴールが見えていたかのような感覚に陥ったことを、自分で感じたのだろう。
 それを証明してくれたのが、彼女たちであった。
「私、今度会社を辞めて、田舎に帰ろうと思うの」
 と最初に一人の女の子が言い出したことを皮切りに、他の子も、微妙に違う理由で自分から離れていった。
 まるで、三人が示し合わせたようなタイミングだったことが、少し癪に障ったが、タイミング的には本当によかったのだろう。最初の彼女が田舎に帰るという理由を聞いた時、
「元々、三十歳までに結婚できなかったり、仕事でも何かの形を示さなかったりした時は、田舎に帰ってお見合いでもして結婚するという約束だったのよ」
 ということであった。
「あなたには、私と結婚してくれるという感じはないし、お互いに別れるタイミングさえ間違いなければ、蟠りなく別れられるということを考えると、私は、あなたとお付き合いできたことを嬉しく思うわ」
 と言っていた。
 彰浩は、彼女は自分以外にも他に男がいると思っていた。そうでもなければ、その気もない男と付き合っていくのに、自分が利用されているように思えて、我慢できない、あるいは、プライドが許さないという思いに至るだろうと思ったのだった。
 だが、彼女は彰浩が思っているほど、強かな性格ではなく、自分が好きになった人には従順な性格の、普通の女の子だったのだ。
 そんな女性がタイプで、本当なら好きだったはずなのに、彼女に対しては、
「恋愛対象としてというよりも、結婚相手として見てしまうタイプなのかも知れない」
 と感じたのだ。
 逆にそんな彼女だったからこそ、普段なら分かるはずのない終焉に時期を、想像できたのかも知れない。
「もし、これが真剣に結婚を考えている時期だったら、よかったのかも知れない」
 と思ったが、やはり、彰浩には、彼女は結婚相手というよりも、恋愛相手としか見えなかった。
 だから、彼女を最初に好きになったのだし、三年という期間が彼女との期間だということが分かったのではないかと感じたのだ。
 他に三人の女性を好きになり、付き合っていたのだが、後の三人においても、最初に好きになった彼女に対してと同じように、もっと強かだと思っていたのに、皆それぞれ、純粋で、その純粋ま気持ちの上で、彰浩を愛してくれているということが分かると、彼女たちがこれから、自分自身のために生きていくという選択をするのだとすれば、それは嬉しいことであった。
 その気持ちをいかに自分なりに表しているかということを考えると、この恋愛期間について、
「三年間だったんだ」
 と感じたことに、正直な気持ちでの信憑性が高いということなのだろうと、感じたのだった。

                 吊り橋効果

 彰浩には、年の離れた妹がいた。自分はすでに三十歳になっていたのに、妹はまだ十代である。そのあどけなさは、
「まだ処女ではないのだろうか?」
 と思わせるほどに、純粋であった。
 彰浩がモテることを、妹はことのほか喜んでいるようで、
「お兄ちゃんが、本当に羨ましいわ」
 と言って、あどけない表情で微笑んでいた。
 最初の頃は、それも嬉しかったのだが、実際には、モテているというよりも、すぐに飽きっぽいという理由から、数人の女性と自分の欲を分かち合っていただけで、そこに果たして愛情が存在したのかどうか、自分でも分からない。
 そんな毎日を過ごしていると、本当の愛情が何なのか分からなくなってしまっていて、倫理的な発想など、生まれる余地はないのではないかと思えてくるほどだった。
 どうしてこんなに年が離れているのかというと、元々、自分の父と母は、二人とも未成年(当時青年は、まだ二十歳)だった頃、いわゆる「できちゃった婚」で、なし崩し的に結婚したという、当時としては、そうも珍しくもないことだった。
 しかし、母親の方が、若くして結婚したことに対して、不満を持つようになった。
作品名:逆さに映る 作家名:森本晃次