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逆さに映る

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 もし、血がつながっていない、近所の妹のような女の子であれば、これだけ年の差があっても、気にすることはなkったのかも知れない。むしろ年が離れているからこそ、慕ってくれるのだと思うと、罪悪感が薄れてくるのではないかと感じたのだ。
「はっ、何を考えているのだ?」
 と感じた。
 これでは、年の差のあるカップルを容認しているようなものではないか。よくドラマなどで年の差結婚の話があったりしているのを見ているからか、どこかほのぼのした関係に見えていたので、その分、血の繋がりがなければ、このまま、いちかのことを好きになって、付き合うくらいはあってもいいのではないか? と思うに違いないと思うのだった。
 だが、実際には、いちかも自分に対して兄以外の意識はないように見えるのはよかった気がする。
 もし、言い寄られてしまったら、なんといって拒否すればいいのか、果たして拒否ができるのか。そのあたりが気になるところであった。
 腹違いとは言え、兄妹なのだ。近親相姦であることに違いはない。
 そもそも、女性に関しては晩生であり、初体験も大学の先輩から連れて行ってもらった風俗という、
「童貞にとっての最後の砦」
 だったのかも知れない。
 妹のいちかをそういえば、会社に入ってから誰にも紹介したことがなかった。そもそも、妹がいることを話したこともなかった。昔ならいざ知らず。今は人の過程のことを聞き出してはいけない時代だからである。
 いちかは、どうやら告白してくれた彼と別れたようだ。
 いや、別れたというよりも、
「お付き合いを丁重にお断りした」
 と言った方が正解だったようだ。
「結局、付き合わなかったのか?」
 と聞くと、
「うん、私が好きになれそうな気がしなかったの。やっぱり好かれたから好きになるという感覚はちょっと違うのかも知れない」
 というので、
「どうしてそう思うんだ?」
 と聞くと、
「確かに好かれたから好きになるという付き合い方もありだろうと思うんだけど、でも、付き合うということを考えた時、自分から相手を好きになるというときめきと、告白されたから、初めてその人を見るという気持ちでは、すでに自分が置いて行かれている感覚になるのよね。だから、ずっと彼の背中しか見えておらず、その背中の先にある顔の表情がどういうものなのか分からず、追いかけていると、振り返った時、まるでのっぺらぼうだったというイメージが想像されて。怖かったのよね」
 と、いちかは言った。
「なかなか想像力が豊かだね。でも、いちかはそれでよかったのかい?」
 と言われて、
「ええ、いいの。私は結局その人のことを好きになれるという感情はなかったの。それにね。私はいつも誰かの背中ばかり見つめながら歩いてきたの。この期に及んで他の人に対して同じような感覚になるというのは、嫌なのよ。私の中でその人に失礼だと思うし、そもそも比較するということ自体が間違っているという感じがするのyね」
 と、いちかは言った。
「なるほど、いちかはちょっと話をしていない間に大人になったんだね? まるで芸術家のような言い回しなんだけど、内容は科学的な理屈でありながら、話は非科学的なのっぺらぼうという発想が出てくるというのは、面白い気がするんだよね」
 と、彰浩は言った。
「お兄ちゃんは、私が見ているその後ろ姿って、誰のことだか分かっているの?」
 と聞かれたので、
「いいや」
 と答えた。
 彰浩自身は、嫉妬も半分あるので、本当は軽く聞き流したところであったが、逆にいちかの方が意識するということは、遅かれ早かれ言いたかったのだろう。
 すぐに、
「それは、お兄ちゃん、あなたなのよ」
 と言いたかったのはやまやまだったが、それを言ってしまうことで、兄を悩ませ、結局自分に自己嫌悪を押し付けてしまうことになると感じたいちかは、すぐに何も言えなくなったのだった。
 そんないちかの素振りを見ていて、
「何かがおかしい」
 と感じていた弘彰浩だったが、いちかに何か言えるはずもなく、二人の間に不穏で緊張した、さらに湿気を帯びた重たい空気がその場に充満していた気がした。
 それは、まるで水の中にいるような感覚で、必死になって平泳ぎで手を掻きだそうとするのだが、前に進んでくれない。そんなわだかまりのようなものを感じていたのだ。
「だが、どうして、重たい空気を感じた時、平泳ぎでその場から逃げ出そうとするのだろう?」
 そんなことを考えていると、まっすぐに前を見ているつもりでも、違うところを見ているようだ。
 そんな時ふと、
「吊り橋効果」
 という言葉を思い出した。
 ハッキリとは覚えていないが、確か、人を見て。恋を感じるまでの過程に、二重の感覚があるというようなことを、吊り橋の上で感じることで証明しようという考えではなかったか。
 極限の緊張感の元であれば、それまでにはない感覚を覚えたり、本当の自分を発見できたりする感覚。それが自分にとって、いちかがそばにいることだった。
「俺はいちかを好きなのか?」
 と思った。
 そして、その過程がいかなるものか、考えようとするが、よく分からない。最初の緊張から、このよく分からないという感覚を含めて、そのすべてが恋愛感情なのではないかと思うと、彰浩には、またしても、いちかが妹だということを、妄想の中で、結界があるということを感じさせ、その結界が、
「近親相姦という禁断の果実」
 だと感じるのだった。
「禁断の果実」
 あれは、旧約聖書の中に出てきた、アダムとイブの章でのこと。
 リンゴだと思っているが、果たして何だったのか、今から思えば改めて考えさせられる。
 ちなみに、この、
「禁断の果実」
 というのは、
「善悪の知識を知るものだ」
 ということである。
 それまで神により、楽園にいたアダムとイブは、神から、
「食してはいけない」
 と言われたその果実を、イブが好奇心から食べてしまい、アダムにも分け与えてしまう。
 二人はそれにより、裸を恥ずかしいものとして感じ、イチジクのはで身体を隠そうとしているのを神が見て、
「なぜ、イチジクの葉をまとうのか?」
 と神に聞かれた二人は何も答えられなかった。
 それで神は状況を把握し、二人が禁断の果実を食べたということを理解し。二人に、死という定めを与え、楽園からは追放し、生きるには厳しすぎる環境を与えたということであった。
 この話は、旧約聖書の、「創世記」という話の中にあることであるが、この話には人間の基本的なことが入っている。
 まず一つは、
「恥じらいを感じ、無垢ではなくなった二人は、隠すことを覚えた」
 そして、
「禁断の果実とは、善悪の知識を持ったものであり、二人は善悪の感覚を知った」
 ということ、さらには、
「人間はすべて、死という運命から逃れられない」
 ということが、神の命令に従わなかったことで、課せられることになるというお話であった。
 つまりは、近親相姦という、いわゆる、
「タブー」
 と言われることを犯してしまったら、何が課せられるか分からない。
 それを思うと、近親相姦が禁断の果実であるということは分かっていることだ。
 つまりは、禁断の果実の話は、
作品名:逆さに映る 作家名:森本晃次