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いたちごっこの、モグラ叩き

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 だが、しょせん、交通事故のニュースはその後に事態が急変とかでもしない限り、数日で忘れられていくのが運命ではないか。どんなに悲惨な事故であっても、身内以外は、それほど気にすることはない。毎日のように、重大事件が新聞を賑わせていると、交通事故は本当に忘れ去られるものだ。
 もちろん、運転手が飲酒をしていて、被害に遭った人間が、幼い子供だったりすると、話題にはなるだろう。だが、そうでもなければ、現場に花やお菓子を手向ける人がいるという程度で、局地的な話題でしかなくなるのも無理もないことで。この事件のように、状況とすれば悲惨な事故であり、爆発炎上という意味でセンセーショナルであるが、その現場をカメラがとらえていたわけでもないので、話題としては印象に残ることはないはずだ。
 そんな事故も、類に漏れず、数日で世間は忘れてしまっていた。ただ、出会いがしらの事故ということもあり、しかも、このあたりはこれから開発が進む道ということで、当初は計画になかった信号機が取り付けられることになったのは、いいことだったに違いない。
 少しずつ住民が増えてきて、学校もできることから、
「ここに信号があるのとないのとでは、まったく状況が違うわよね。子供たちが事故に遭ってから、やっと、このあたりが危ないと言って、信号をつけるようになることを思えば、あの時の事故がきっかけいなったということで、あの時の二人の死は無駄ではなかったということよね」
 と、住宅街に引っ越してきた、子供を持つ母親たちの間で言われてようになったのだった。
 ここに信号が設置されたこともあって、この時くらいから、暴走バイクがいなくなった。仲間が、事故で死んだというよりも、信号がついたことの方が、やつらにとっては、もうここで暴走行為を繰り返さないということへの警鐘になったようだった。なぜそんな心境に至ったのかは彼らでないと分からないが、暴走バイクにとって、どうやら信号一つで、自分たちのテンションが変わるもののようだった。
 暴走バイクが離れたちょうど同じ頃くらいだっただろうか、急におかしな話題がこの近所で囁かれるようになった。
 例の事故の件が話題になっているのであるが、
「あの時の事故は、実は車を運転していた人が何かの原因で意識を失ったことで、バイクを跳ね飛ばしたのではないか?」
 という話だった。
 事故処理としては、どちらが悪いというわけではなく、まったくの出会いがしらで、お互いに避けることができなかったという結論にはなったのだが、車の運転手側の遺族は、本当は納得していなかったようである。
 車を運転していたのは、市役所に勤める公務員の人だった。その人は、新興住宅街に対して、市から派遣されて、現地を調査したり、業者と話をする部署にいたのだった。その日も、ちょうど、業者と現場を見ながらの検証をいろいろ行っていて、それが終わっての帰りだったという。
 事故が起こった時間としては、午後八時にもなっていない時間で、同じくらいの時間に帰るのは今までで初めてではなく、何度もあったということなので、慣れている道だったはずだ。
 当然、暴走バイクが若干いるということも分かっていて、大通りに出る時は、一旦停止はいつもしていたはずである。
「それを暴走するなどありえない」
 というのが、奥さんの言い分だった。
 奥さんは、ちょうど身重で、運転者であった男性にとって、初めての子供だったということで、
「そんな主人が、危険な運転をするはずもない」
 と言って、警察には話していたが、警察としては、
「そんな、幸せな気分だったということで、余計に運転に集中できなかったのかも知れませんね。浮かれた気分の時は、いろいろと運転しながらでも想像を膨らませていると、ついついいつも一旦停止しているところも、油断して、そのまま行くこともあったりするかも知れませんよ」
 というのだった。
 確かにそれは言えるかも知れないと、奥さんもひるんでしまった。ここでひるんでしまうと、もう警察の話に逆らうことはできないだろう。
 無念な気持ちはあるが、いくら警察に何かを言って、旦那の無罪が証明されても、旦那が帰ってくることはない。自分もこれから、小さな子供を抱えて大変な状況なので、この事故のことだけをいまさら蒸し返していいわけではない。
 それを考えると、ある程度まで話をすると、その後はどんどんテンションが下がっていって、そうなると、警察も事件のことが過去になってしまう。
 誰かがいうから、忘れずにいるだけで、警察としても、日々新たな事故がどんどん発生して行っているのだから、その場のことはその場で済まさないとやっていられないというのが本音だろう。
 奥さんもさすがに、もう警察に異議申し立てをすることもなくなって。事故は完全に風化していった。
 暴走バイクの方の家族からは、一切何も言ってこなかった。
 家族も暴走バイクを走らせる息子に手を焼いていた。暴走バイクを走らせるだけではなく、喧嘩をしたり、ちょっとしたことで、警察の厄介になることもしばしば、何度母親が警察の少年課に謝りに行って、身元引受人として息子を引き取ることになったか、さすがに警察の方でも、毎回のことにウンザリしているようだった。
「死んでしまったということは、悲しい事実だけど、あの子からもう迷惑を掛けられることはないということに関しては、ホッとしている気もします」
 というのが、母親としての本音だった。
 だが、このことが原因で、家族は崩壊してしまったようだった。父親からすれば、
「母親のお前がしっかりしていないから、こんなことになったんだ」
 と、一方的に旦那に責められて、奥さんの方もさすがにキレてしまったようだった。
 二人は元々一触即発だったようで、売り言葉に買い言葉が、一気に離婚に走らせて、母親の方とすれば、この家庭崩壊は自分にとってありがたいというくらいに思えていた。
 子供は、この不良息子一人だけだったので、家族三人で暮らしていたのだ。
 元々、父親が不倫をしていて、奥さんも、そのことに気づくようになっていた。さすがに、たまにしか家に帰ってこなければ、いくら旦那が、
「仕事が忙しい」
 とはいえ、そんな家に帰ってこれないほどのブラック企業でも、忙しい会社でもないのは分かっていた。
 そこまで仕事をしているのであれば、入ってくる収入があまりにも少なすぎるというのも、旦那の浮気を疑うには十分だった。
「きっと不倫相手に貢いでいるんだわ」
 と思っていた。
 奥さんは、昼間のパートで家計を支えなければいけないくらいだった。息子に対しても、ほとんど相手をしてやれなくなり、いつの間にか悪い連中の仲間に入ってしまっていたようだった。
「人様に迷惑をかけてはいけない」
 というのが母親の口癖で、母親に不満を持ったことで不良になったのだから、当然その言葉に逆らうのは、自然の摂理であろう。
 そうなると、暴走バイクなどが一番手っ取り早い。ストレス解消と、母親に逆らうというのを両方叶えられて、それほど大きな罪になるわけでもない。彼は暴走バイクにそうやって嵌って行ったのだ。