いたちごっこの、モグラ叩き
「ああ、知っていたよ。俺たちが追っている事件が、単発ではないような気がしていたので、この前に何かがあって、そこからの派生した事件なのではないかと思っていたのさ。だから、きっと、その事件について誰か捜査をしているのではないかと思っていたところに、桜井刑事が、スズランの毒を気にしているようだったので、それwp探ってみたかったんだ」
と言った。
「さっきの言葉ですけどね。あれは、鶴岡さんは、真実の方を事実よりも重んじて考えているということですよね? だから、先に真実の方を口にしたんですよね?」
と桜井刑事に言われて、
「ああ、この事件に前があると思った時、事件全体を真実のように感じ、それぞれの事件を事実として見ることを考えたんだよ。いわゆる、各論と総論みたいなイメージかな? それに対して、事実と真実という言葉を組み合わせると、事実というのが、二つの間に共通点を持たせることだと感じたのさ。その共通点を、俺はスズランの毒ではないかと思ったんだ。つまり、スズランの毒によって、両方の事件は引き起こされているとね。そこで、桜井刑事がこの間、聞き込みをしたという松崎というのは、実は俺が君よりも前に見つけていて、話を聞いたんだ」
と鶴岡は言った。
すると、それを聞いた桜井刑事が、
「そうなんですね。じゃあ、僕が、あいりという女の子に、先に話を聞いていたことはご存じでしたか?」
と、言われ、少しビックリしたように、鶴岡は目を見張った。
「いつも俺のバスに乗ってくれて、明るく挨拶をしてくれるあの女の子かい? 彼女がこの事件のどこかで関わっているというのかな?」
と、鶴岡が聞くと、
「ええ、彼女が私が追いかけている第一の事件で、亡くなった被害者の妹さんなんですよ」
というのを聞いて、桜井は少しビックリしたかのように、
「えっ? そうなんですか? 私は第一の被害者の人は、自殺だったと思っていたんですが違ったんですか?」
というと、
「何をいっているんだ。君は最初自殺だと思っていたようだけど、今はだいぶ他殺に気持ちが変わってきたんじゃないかな? もしあの後に事件胃続きがあったのだとすれば、殺人だと思っていたと感じたんだけどね」
という鶴岡の言葉を聞いて、
「ええ、さすが鶴岡さん、鋭い指摘ですね。はい、確証はないんですが、鶴岡さんが何かを調べているというのを聞いて、やはり、事件には続きがあると感じたんです。その時に、最初の被害者は自殺ではないと思ったんです。いわゆる、スズランの毒を使っての殺人ですね」
と桜井刑事は言った。
それを聞いて秋月は、
「えっ? 私にはいまいち事件の概要がまだよく分かっていないんですが、最初の事件というのは何を意味しているんですか?」
と秋月が聞くと、
「最初の事件というのは、君は覚えていると思うんだけど、前に『はやて詐欺』というのが流行ったのを覚えているかい? 実はその被害者の一人が、毒を煽って死んだということだったんだけど、どうにもその事件を怪しいと思って僕は一人で捜査し始めたんですよ。そこで、あいりさんに会ったんです。そして彼女の出現が、この事件にその後があるということを教えてくれたのです」
と桜井は言った。
「そういうことだったんだね。俺たちの方の事件は、その後、車が側道を飛び越して、川に転落して、爆発炎上したというものだったんだけど、あれを見た時、俺は、あの事故は仕組まれたものだと思ったんだ。最初から殺しておいた人を車に乗せ、爆発させて、身元が分からないようにして、完全に事故に見せかけたかったんだろうね」
と鶴岡は言った。
「じゃあ、犯人は同じ人物?」
と桜井刑事がいうと、
「いや、そうではないと思う。第二の犯罪。つまり我々が追いかけている事件の真犯人というのはいないと思うんだ。もちろん、車に乗せて走らせた人はいるんだろうけどね。だけど、これは殺人でも何でもない。自殺した人間の顔をあらかじめ潰しておいて、そこで焼いておいた。だから、顔は判別できなかったわけだが、事故で損壊したのとはどこかが違っていた。それを鑑識から聞かされて、一人気になっていた刑事が、俺のところに相談に来たんだ。それで話を聞いてみると、この事件には、何かウラがあると思ったんだ。しかもその裏というのが、こっちの事件の方が裏で、桜井刑事の事件の方が表に見えるかのようだということで、こっちが二番目の事件だということを感じたんだよね」
ということであった。
一拍間があったが、さらに鶴岡は続けた。
「人間というのは、一つのことでは我慢できるけど、二つ重なると我慢できないということがよく言われているけど、今回の事件もそれなのかも知れない。俺たちが追いかけている事故の自殺した人も、最初の事件だけであれば、自殺までは考えなかったかも知れない。だけどあの事件が実は殺人であり、そこに、自分が騙されたことで、最初の被害者が殺されることに、間接的だが関わってしまったということを知り、さらに、自分がその時、詐欺に遭っていたということの両方のショックを浴びてしまったことで、精神的に二進も三進もいかなくなってしまったのだろう。それが、この事件の本質なのかも知れない」
と、言った。
「じゃあ、我々が追っている事件の黒幕というのは?」
と秋月に聞かれて、
「それは、詐欺グループの連中だろうね。やつらからすれば、自分たちの手を汚すことなく、自殺した人間を葬ることができた。しかし、あれを自殺ということにされると、最初の殺人が露呈しないとは限らない。それは困るということで、我々が追っている事件を、あくまでも犯人がどこかにいると思わせる必要がある。だけど、彼がスズランの毒を煽ったということを知られたくもないし、自殺のカモフラージュとも思われたくない。だから、あんな形で、車を爆発炎上させるしかなかったということなんだろうね」
と、鶴岡は言った。
「ええ、私もその通りだと思います。私が知らべた内容も、鶴岡さんの話を加味して考えれば、すべて理屈が通る気がします」
と桜井刑事も言った。
二人の捜査内容は、桜井刑事を通して公安の方に捜査の依頼が入った。
詐欺グループに関しては、公安の方でも内偵がついていて、証拠固めを進めていたようだ。
そして、内偵の方でも、鶴岡が突き止めた内容まではいかないまでも、ある程度のところまで近づいていた。
しかし、スタートラインにも立っていなかったというわけだ。
それでも桜井刑事のもたらした内容が、
「はやて詐欺」
の黒幕を突き止めるための大きな力になったことは間違いなかった。
今回の事件を解決しただけでは、本当の意味での事件解決にはならない。なるべくなら、やつらの組織を完膚なきまでに叩き潰すという目的が果たせなければ意味はないだろう。
特に詐欺グループというのは、もぐら叩きのように、事件が本当に世間にもたらす意味を理解したうえで、再発防止できなければ、事件を解決できたと言えないのだろうと、鶴岡も、桜井刑事も感じていた。
だが、内偵の方でも、ある程度までは組織を叩き潰すことができるだけの証拠もあったので、やつらの組織も風前の灯と言ってもいいだろう。
作品名:いたちごっこの、モグラ叩き 作家名:森本晃次