いたちごっこの、モグラ叩き
それが、本来事件になっていることだが、捜査本部が解散してしまい、未解決事件として、迷宮入りしそうな事件なのか、それとも、まだ犯算が発生しているわけではないが、犯罪の匂いを感じたとして、事件を未然に防ごうという考えのもとに、何かを探っているということなのかの、どちらかではないかと思うのだった。
そんなことを考えていると、鶴岡自身は、何かの事件で未解決になっていることを自分なりに捜査していた。
いや、これは未解決などではない。鶴岡が事件だと思っているのを、警察の方で事故として片づけられたことなのだった。
鶴岡は見たのだ。ある事故が実は事件ではないかということをである。
そのことをF警察署に何度もいってはみたが、
「どうにも確証がなく、事件性がないということで、捜査することはできません」
というのが、警察の言い分だった。
その事故というのは、例の住宅街から街に向かっている車ががーとレールをぶち破って、そのまま川になっているところに転落した事故だった。
顔は判別できないほどに潰れていて、それも車が爆発炎上したことで、被害者の検死すらまともにできない状態だったということだった。
ただ、警察の方でも少し気になることがあったようで、
「あの時の事故なんだけど、爆発して炎上しただろう? でも、その炎上は一つだけではなかったんだよ。表は落ちたショックで燃え広がったんだけど、車内は車内で、何かに引火してあんなにひどくなったみたいなんだ。誰かの意図が働いているとすれば、これは事故ではなく、事件なんじゃないかと思うんだけどね」
と言っていた。
どうやら、その男は鑑識官のようだったのだが、それを聞いていた同僚が、
「じゃあ、ちゃんと、捜査一課に話をしないと、下手をすれば、これは殺人なんじゃないかい?」
というのだが、
「もちろん、警部に話を持って行ったんだけど、その時は分かったといって、俺が調べたことを聞いてくれたんだけど、その時に、誰にも話してはいけないとも言われたんだ。変だなと思っていると、結局、その件は事故として処理されてしまって。俺の話は無視されてしまったというわけさ」
というではないか。
鶴岡はその話を聞いたことと、その事故のことを怪しんでいると思われる人が他にもいるのを知っていたからなのだが、なぜ、他の人があの事故に関して違和感を持っているのかがよく分からなかったが、
「人は見方を変えるだけで、それまで見えていなかったものが見えてくるものなんじゃないかな?」
という話をよく聞かされた気がした。
この時に、この事故が事件ではないかと言っている人の中に、この言葉をそのまま話している人がいたのを思い出し、鶴岡も放ってはおけないと思い、いろいろと探ってみたところ、
「このまま放っておくわけにはいかない」
と感じたのだった。
「この事件は、思ったよりも、結構ややこしい気がするんだけどな」
と鶴岡は感じた。
ただ、それも事件にしてしまうと、という意味で、事故で片づけられれば、それで何もなかったことになる。それをどうしてもできないのは、スズランの存在があったからだ。
その時に亡くなった運転していた人は、主婦だったというのだが、その人に対しては、
「元主婦」
という言い方をするのが正解だったようだ。
彼女は未亡人となっていて、死んでしまった旦那さんは、自殺だったという。
自殺のことを調べてみると、その男性は毒を煽っていたということで、その毒というのが、スズランの毒だったのだ。
おかしなことに、その元奥さんは、元々スズランが好きだったというのは分かるが、旦那が死んで、それが自殺で、しかも、煽った毒牙スズランの毒だということになれば、普通であれば、
「スズランなど、見たくもない」
と思うに違いない。
それなのに、彼女の部屋にはスズランがずっと飾られていて、旦那が死ぬ前よりもさらにたくさんのスズランが家の中で、所せましと栽培されているというのだった。
それを見て、近所の奥さんがウワサをしているのは、
「あの奥さん、いずれ自殺をするつもりなんじゃないかしら? スズランをあれだけ植えているということは、自分も旦那と同じような死に方で後を追うつもりなのかも知れないわ」
と言ったが、
「でも、その割には、まだ普通に生活しているわよね。ただ、魂が抜けたみたいになっているけど」
と、話をしているもう一人の奥さんは、そういった。
「そうなのよ。だから何か気持ち悪くてね。でも、あれだけ仲が良かった夫婦なんだから、奥さんの気持ちを考えると、身につまされるものがあるわよね」
と言っていた。
鶴岡が調べたところでは、旦那の自殺の原因というのが、どうにも分からないというのが不思議だった。
警察が公表するわけではないが、誰かが自殺をすれば、まわりの人間がいろいろ憶測する中で、親しい人がその大方お理由に気づいて、ほぼ、自殺の原因を間違いないと思われるところに落ち着かせるものだが、今回の旦那の自殺については、納得できる理由を持った自殺の原因は見当たらなかった。
どこからも、ウワサらしいものは聞こえてこないし、少なくとも、不倫などのような色恋沙汰が原因ではないということは分かっているようだった。
「一体、どういうことなのだ?」
考えられることとしては、
「国家権力が、死因を探られたくないということで、もみ消しを図った」
ということと、
「事件の裏には、何か大きな組織が暗躍していて、国家権力とは違った大きな力が秘密保持のために動いている」
という考え方に分けられる気がする。
だが、どちらにしても、こんな発想はどう解釈すればいいのか、想像もできず、しかも、自分のような素人が一人歩きしていて大丈夫なのか?
という不安もあるのだった。
「ところで、鶴岡さん。私が刑事を追いかけている時ですが、あの人は敏腕なんでしょうね。僕がつけていたのを看破していたようなんですよ。いきなり声を掛けられてしまいました。これ以上、私では彼の尾行はできないと思います」
というのを聞いて、
「いいさ、桜井刑事ならそれくらいのことが分かって当然だからな。俺は気付くのが遅いくらいなんじゃないかって思うくらいさ。ひょっとすると、本当はもっと前から知っていて。わざと今、君に気づいたかのような素振りを見せたのかも知れないな」
というと、
「それはどういうことですか? 僕が嵌められたということなのかな?」
と秋月がいうと、
「そうじゃない。ひょっとすると、桜井刑事は元々我々の味方で、今のタイミングであれば、我々に自分が気付いたということを知らせるちょうどいいタイミングだということを知らせているのではないかな?」
と言ったが、これは、自分たちにとって、都合のいい解釈で、本当にそれが正しいのかどうか、自分でも疑問なのかも知れない。
「ところで、桜井刑事というのは、どういう人なんですか?」
と秋月がいうと、
作品名:いたちごっこの、モグラ叩き 作家名:森本晃次