いたちごっこの、モグラ叩き
などと言ってくると、本を出したいという人がどんどん減ってくる。つまり友人のような冷めた考えの人が増えてきて。会員が増えても、本を出したいという人がまったく増えなければ、どんどん経費を垂れ流すだけになってしまうのだ。
「店を開けているだけで、それだけで赤字だ」
という状態と一緒である。
そもそも零細企業の自転車操業なので、そうなるとひとたまりもない。
他の出版社も多かれ少なかれ、ほとんど同じことをしているのだから、訴える人も出てくれば、本を出す人も激変する。そうなると、連鎖倒産が相次いで、倒産していくことになるのだ。
ちなみに業界のウワサでは、
「生き残った会社のどこかが、裏で糸を引いていて、最後は自分たちだけが生き残り、会員を独占するのが目的だった」
ということだが、その目的のために払った代償は、ひどいものだっただろう。
そんな時代が、今から十年くらい前に終わったのだが、それ以降は、ネットの発展によって、
「書籍界は、紙媒体によるおのではなく、電子書籍に力を入れていく」
というような状態になっていった。
本を出すという目的が失われたこともあって、結局は自費出版系の会社も、いずれはなくなる運命にあったのかも知れないが、そこに至る前に、詐欺まがいの悪徳商法として時代を作ったという意味で、よくも悪くも、小説執筆人口が、前に比べて減ったのかどうなのか疑問であった。
電子書籍になってから、その友達は小説を書くのをやめたということであったが、
「小説を書いている時期は、結構楽しかったな」
と思っているようだ。
今は他の趣味に走っていて、鶴岡も、小説を書くことはやめていないが、絵画に走ったのと同じ気持ちではないだろうか。
鶴岡にとっての小説は、別にプロになりたいとかいう欲があったわけではない。
「あわやくば、本を死ぬまでに一冊くらい出せたらいいな」
というもので、それは、別にいわゆる、
「自費出版」
でもいいというものであった。
それだけに、最初から冷静に自費出版業界を見ていたので、協力出版などには最初から乗っかるきはなかった。あくまでも、企画主パンを目指すというだけで、ただ、
「利用してやろう」
というくらいに思っていたのだ。
最初から、やつらが詐欺集団であるということも分かっていたのだろう。それを口にすると、批判されるだろうからしかなっただけで、後から思えば、
「騙される方も悪い」
と言いたいくらいであった。
やはり、プロになろうなんて欲は、持たない方がいい。簡単にプロになれるくらいなら、プロというもののステータスは、その程度でしかないということだからである。
そんなものに、お金をかけるなど、ナンセンスで、鶴岡にとっては、最初から手の届かない値段であったことで、
「騙されてはいけない」
という防御本能が働いたのだろう。
「詐欺って、こういうものなんだろうな」
と、鶴岡は思っていたのだった。
はやて詐欺
今から数年前に、パンデミックが起こったということは前述しておいたが、その時の話として、詐欺にまつわるものが結構あった。
その中でも、問題となったのは、当時、諸外国で予防のためのワクチンが日本にも入ってきて、全国で摂取を行ったが、その間に問題となったのが、副反応問題であった。
ワクチンというのは、特効薬というわけでも、伝染病に罹らないためというためのものではない。
「発症させないためのものであり、万が一発症したとしても、重症化を最大限に抑えるという効果があるのだ。だから、発症率を公示して、あくまでも、伝染率を促しているものではない」
それがワクチンであり。従来のインフルエンザワクチンなども、同じ効果である。
このワクチンは、今までなかった未知のウイルスに対してのワクチンであり、流行から一年ちょっとで開発された、いわゆる、
「突貫作業」
で作られたワクチンなので、その効果も副反応も、未知数であった。
そのため、ワクチンに対してのいろいろなデマが流れて、
「妊婦が打つと流産する」
あるいは、
「一生消えない後遺症が残る」
などという風評が広がってしまった。
しかも、このウイルスは、当初、
「若年層では、重症化しない。かかったとしても、無症状が多い」
などと言われていたので、風評もあってか。若年層でワクチンを打つ人が少なかった。
そんな中で、
「アメリカの学者が開発した、ワクチンの副反応や、後遺症が残らない薬が手に入る」
といって、ネットで一時期、販売されていた。
だが、ウイルスが変異を起こすことで、どんどん強いウイルスが流行ってくると、若年層も、重症化しやすくなり、ワクチンを打たないという選択肢が狭まって行った。
そんな中、ネットで騙される人も出てきたようで、いくら気を付ける年代だとはいえ。一定数の騙されやすい性格の人はいるもので、彼らは破格の値段で副反応に罹らない薬と称したものを騙されて買わされることになった。
しかし、さすがに、そんな怪しいサイトはすぐに見つかるもので、当局が怪しいということで調査に入ろうとした瞬間、そのサイトは消されてしまった。
彼らはサイバーにも長けているようで、専門家が、なかなか追跡ができなかった。戸惑っているうちに、完全にネットでの追跡はできなくなってしまったのだ。
あっという間に開設し、あっという間に逃げていった彼らを、
「はやて詐欺」
などと呼ぶ人がでてきて、その言葉が彼らへの名称となったのだ。
それでも、結構騙された人たちもいて、数百人が全国で彼らに引っかかった。そのせいで、被害総額は、数億だという。
被害者は。お金を払っても、何もこないので、消費者センターに問い合わせたりしたが、すぐにサイバー詐欺だということが判明し、タイミングよく、サイトは抹消されたのだ。
「やつらのスパイが、サイバー警察の中にいるんじゃないか?」
というウワサもあった。
「いや、サイバー警察隊の一部が詐欺を行った可能性もある。どちらにしても、彼らの行動はこちらの情報を得ていない限りできることではない」
ということになった。
しかし、彼らだって、自分たちのセキュリティは、当然のごとく完璧にしているはずだった。
「何しろ、相手に先を越されると、こっちは何もできないからな」
ということで、スパイに関しては、かなり警戒をしていた。
スパイの線も捨て去ることもできずに、内部犯行説に基づいて捜査を行ったが、まったく身内からは怪しいものは発見できなかった。実に巧妙な手口であった。
だから、彼らが味をしめて。また同じような詐欺を働いた時に、いかに先手必勝で行くかということに力を注ぎ、情報の収集が一番の効果的な捜査であったが、彼らが動きを見せることはまったくなかった。
二年、三年と時間が経つが、そんな秘密結社の暗躍もなければ、実際に詐欺が行われているという情報もない。彼らは完全に雲隠れをしたのか、それとも、その一回こっきりで、満足したということなのか。
確かに再犯は、どんどん危険が増してくるというのも当たり前のことで、彼らがうまく立ち回ったということになるのだろうか?
作品名:いたちごっこの、モグラ叩き 作家名:森本晃次