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トラウマの正体

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 二十歳の誕生日にはまだ研修期間中で、誕生日にまだ研修期間中だというのは、珍しかった。
 研修期間が終わってからの彼は、即戦力になっていた。大学卒業者が入ってくる頃には、すでに現場のチーフをやっていた。大学卒業者の研修担当を、泰三はやっていた。
 泰三が二十四歳になった時、新卒で入社してきた連中の研修を彼が行ったが、それまでは毎年一人くらいは高卒も採っていたが、その年からは基本的には大卒しか採らないようになっていた。その一番の理由は、
「高卒で入社してきた連中が、研修期間という二年の間にほとんどが辞めてしまう」
 というのが理由であった、
 正直、高卒の普通のレベルではこの会社の二年間の研修についてこれない人が多かったということだ。
 大卒の人でも、入社半年で、残るのが、三割くらいというのに、高卒であれば、なかなか残らないというのも、会社側には分かっていたことだろう。
 それでも、高卒を育てたいという思いは、社長が一番感じていることのようだ。
「大卒の連中は、一年間の研修を乗り越えたとしても、この会社のような中小であれば、大手から引き抜きがあった時、ごっそりと抜かれてしまう。新薬の開発を突貫で行わなければならない時など、大手は、使い捨ての駒としての大卒の連中を引き抜かれてしまう」
 という状況が最近は結構あるようだ。
 せっかく育てても、大手から引っこ抜かれてしまっては、何をしていたのか分からなくなってしまう。
 それどころか、
「手土産」
 として、今まで開発してきたノウハウを、捧げることを条件に、大手で高額の条件で引き抜かれることになる。
 本来なら、会社の機密事項を話すことは違反であるが、最近の製薬会社では、大っぴらに行われていて、
「カネがあるところが強い」
 と言われるようになっていった。
 それも、ここ数年で流行った伝染病が、全世界で猛威を振るい、それまでの世間の常識が通用しなくなるほど、世間は混乱していた。したがって、かつての常識は、今では非常識になってしまっていると言っても過言ではないだろう。
 そんな世の中になってしまった理由の一つに、政府の迷走があった。
 混乱の中で政府が確固たる姿勢を見せず、何もできないだけではなく、何も言わない。世間が知りたいことを政府は情報として掴んでいながら、国民に示そうとはしなかった。経済の低迷を招いたのは、国が理由も示さない、ある一定の企業に対する、
「一方的な攻撃」
 だったのだ。
 世間において、世の中すべてが、伝染病に襲われるという状況なのに、
「経済のすべてを止めてはいけない」
 という理由で、一番感染の可能性のある業界を一方的に締め付けて、時短営業や、酒類の販売一時的に中止という政策を取ったりしたので、飲食店、特に、酒を提供する飲食店は大きな痛手だったのだ。
 それが一つの例として、政府は保証もほとんど出すこともなく、飲食店を締め付けたため、不公平さが生じてしまい、
「生態系のバランスが崩れた時」
 のような状態になっていった。
 生態系というのは、循環しているので、
「風が吹けば桶屋が儲かる」
 ということわざにあるように、すべての生物が連携していると言ってもいい。
 ある種の動物が絶滅にひんするとすれば、その動物をえさにしている動物もえさがなくなるわけなので、死に絶えていくことになる。すると、その死に絶えた動物を主食にしている動物も……、ということになり、どんどんバランスが崩れていき、逆にある動物の数が減ったことで、彼らが主食にしていた生物が今度は増えてしまうことになる。
 かたや、ある種別はどんどん減っていき、違う種別はどんどん増えてくるということになる。ただ、どんどん増えて行ったとしても、えさになるべき種族が増えていないのであれば、結局増えた種族も増えた分、餓死していくことになるだろう。
 生態系というのは、うまくいくようにバランスが取れている。そのどれか一か所が崩れると、果たしてどのような生態系の変化が待っているというのか、分かる人などいるのだろうか?
 そういう意味では、政府も大変であっただろうが、まったく国民に訴える声が聞こえてこない。そうなってしまうと、誰も何も言わなくなってしまい、それぞれが好き勝手に動くことになる。
 誰も何も言わないので、無政府状態になって、伝染病の猛威で死んでしまうか。自分のところだけ助かろうと、出来上がった特効薬などをいち早く受けようと、弱い国を戦争で潰していくことになる。
 そうなると、やはり人間のそれぞれ勝手な都合での殺し合いが引き起こされ、人類の滅亡を招くことになる。
「戦争というのも、一種の生態系のバランスが崩れることで、引き起こされるものだ」
 と言えるのではないだろうか。
 世間はそのせいで、業界ごと、あるいは、時には業界を跨いで、起業の存在バランスが崩れてしまった。それにより、
「今までなら、倒産するはずもなかった大企業が倒産の危機に陥ったり、中小企業による下剋上も起こるようになってきた。その始まりが、
「新人採用」
 の段階であり、これまでは弱いとされた企業に優秀な人材が回ってくることになった。
 そのため、企業の大小の差がほとんどなくなってしまった。
 今までの大企業が大企業であるというメリットがなくなってきた。下請けでも、新薬開発ができてしまうと、大いに下剋上を果たすことができるようになった。
 伝染病が流行った時、国が大企業、中小企業、すべての製薬会社に、伝染病の特効薬の開発を競わせることになった。
 大企業であっても、中小企業であっても立場は同じ。しかも、開発助成金は、すべての企業が同額だったのだ。
 本来なら、大企業ほど、お金がたくさんもらえるはずなのだが、一律の支給だったのだ。
 それだけ、切羽詰まっていたということであるが。本来なら十万でいい中小企業であっても、一千万単位の助成金でなければ、大企業としての機能が果たせないにも関わらず、一律で数百万円。中小企業であれば、おつりがくるくらいだが、大企業ではその金額では会社の自腹になるか、最初から競争を降りることになる。
 たくさんの金が貰えて開発のための人材を雇うことができることで、いち早く、中小企業が開発に成功するというものだった。
 大企業は、初めから参加せず、助成金の範囲で、損をしない程度に表向きの国への協力をしていたが、真面目に赤字を覚悟で国の要請に、馬鹿正直に答えることで、経営不振に落ち込んでしまう企業もあった。
 結局は大企業は、生き残ったとしても、中小企業に今までの地位を奪われ、大企業であるがゆえの経営が成り立たなくなってしまっていた。
 そうなると、昔の不況の時のように、合併して生き残るしかなくなってくる。
 しかし、元々、合併して大きくなってきた会社がほとんどなので、いまさらまた合併というのも最後の手段としては、終わっていると言ってもいいだろう。
 大企業は衰退し、中小企業が今度は合併することで大きくなっていったりする。中には単独で立ち向かえるだけの会社もあった。新薬開発に成功した企業である。
作品名:トラウマの正体 作家名:森本晃次