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トラウマの正体

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 家族というものに疑問を持っている泰三には、分かりかねるものであった。
 泰三という男は、両親が離婚するまで、親を憎んでいたと思っていた。しかし、その思いが違っていたことに気づいたのが、離婚してからだというのは、何か皮肉な気がした。どうして気付いたのかというと、
「離婚したことで、両親に対して感じた思いが恨みだった」
 という理屈からで、
「今が恨みなのだから、それまでの感情は恨みであるはずがない」
 と思ったのは、離婚するまでと離婚してからの間には、大きな結界があり、それを侵してはならないものだということを理解できるようになったからであった。
 ひょっとすると、
「恨みと憎んでいるという感情は違うものなのかも知れない」
 とも思ったが、離婚を挟んだ結界は、恨みと憎しみという感情の違いを凌駕しているような気がして、
「経験した人でなければ分からない」
 という理屈が、自分にも分かった気がした。
 泰三が両親に感じた思いは、父親に対しては。
「専制君主のようで、まるで戦後すぐのような凝り方あった感情を持っているのではないか?」
 という思いであり、母親に対しては。
「そんな父親を支えているというよりも、黙ってしたがうことが自分の使命だという理屈を、何とか自分にいい聞かせることで生きてきたような人だったのではないか?」
 ということであった。
 父親は一人でも大丈夫だろうが、母親に関しては。そうも簡単に生きて行けるはずはないと思わせた。
 これは、後から聞いた話だったのだが、あれは誰からだったのだろうか? それすら怪しいくらい、両親の離婚というものが青天の霹靂であったのだろうが、離婚が成立した時は、
――ああ、やっぱり――
 と、前から分かっていたような気になったのだ。
 その時にはすでに気持ちの整理はついていた。だから、半分他人事だったような気がするくらいだった。
 ただ、その時に聞いたのが、何やら母親が父親に言った一言が離婚の引き金になったということだった。
 これは後になって知ったことだったが、離婚を切望していたのは、父の方だったという。だが、それなのに、母親が父親に言った一言が引き金になってしまったというから、
「言わなければいいことを言ってしまったのだろうか?」
 と思った。
 だが、考えてみれば、離婚してからの母親は、サバサバしていた。完全に開き直ったかのような態度であった。
 それでも、離婚が成立するまでの母親の精神状態というのは、かなり情緒不安定であったようで、
「このままなら、精神が行かれてしまうのではないか?」
 とまわりが心配するほどだった。
 その時の父親は、完全に悪者で、離婚の原因は、本当のところは母親に理由があったということだが、そのことは母親の挙動不審な状態で、かき消されたかのような感じになってしまった。
 そういう意味では父親も可哀そうで、そもそも頑固なところがあるので、決して母親から言われた言葉が原因だったなどと、言わなかったようだ。
 その代わり、父親は事あるごとに、
「キジも鳴けずば」
 という言葉を口ずさんでいたようである。
 この先に続くことは、それは、言わずと知れた。
「撃たれまい」
 であったのだ。

               大団円

 その日は、ゆかりも、泰三もかなり酔っぱらったようだ。一日の晩餐だったとはいえ、まるで何日も歌え踊れの大宴会でもあったかのように、夢の時間を過ごせた気がした。
「竜宮城に行けば、こんな感じなのかな?」
 と思ったのは、三人とはいえ、男性が自分一人だけだったからだ。
 まるで、ハーレムのようではないだろうか。
 ハーレムというのは、別に自分だけが男であれば、女が複数であれば、何人いても、ハーレムではないだろうか。たくさんいればいいというものではない。
「痒い所に手が届く女が、二人以上いてくれればそれでいいのだ」
 と思っていた。
 あまり多すぎても却って、疲れる気がする。適度な二、三人くらいというのが、ちょうどいいのではないだろうか。
 実際におとぎ話で描かれている竜宮城にはどれくらいの女がいたのかは分からない。しかし、鯛やヒラメの踊りなどが催されたりしているのだから、晩餐会のような賑わいだったと考えると、結構な女がいたことになる。しかし、自分に侍っている女は、そんなにたくさんいないように思う。それを思うと、想像する人間が、
「何人以上であれば、ハーレムと呼べるのだろうか?」
 と、直に考えて感じたその人数に違いはないだろう。
 一般人には、そんなハーレムなど想像もつかない。そういう意味では多くても、五人までではないかと感じたのだ、自分の身体で、その部分を癒してほしいかというのを考えると、おのずと人数は決まってくるだろう。
 そして、当然、自分の好みの女を侍らせたいと思う。好きなタイプを思い浮かべると、好きなタイプが半端でないくらいにたくさんいるというストラークゾーンの広い男もいる。
 かくいう泰三も自分では、
「ストライクゾーンは広い」
 と思っている。
 それでも、ハーレムになると、二、三人がちょうどいいと思うのだから、夢に見たハーレムで、どんな身体の女性なのかというのは覚えていても、顔は忘れているに違いないと思った。
 ベールをかぶったアラビア風の女性がハーレムのイメージだが、その分、ベールが日陰となって、のっぺらぼうの様相を呈しているかのように思えて、ハーレムというものが、いかに曖昧なものなのかということを立証しているかのように思えた。
 だが、その口元からは、白い歯がこぼれている。皆綺麗な歯並びをしていて、それだけに、余計に誰が誰だか分からないような気がするのだ。
 夢に見たハーレムで、確か最後は、そののっぺらぼうになっている顔を見た時のショックで、目が覚めたような気がした。
――一体、俺は何を見たのだろう?
 と思って考えていたが。その答えはずっと分からないものだと思っていたのに、一つの閃きのようなものが、その答えを教えてくれた。
「ああ、皆同じ顔だったんだ」
 と思って、ビックリして目を覚ますのだった。
 その顔はゆかりの顔だったのだが、それとは少し話は違うが、
「一番怖い夢ってどんな夢なんだ?」
 と聞かれたとすれば、泰三は自信をもって答えることができる。
 それは、
「夢の中でもう一人の自分が出てくるのを見る夢であった」
 というものなのだが、
「夢というのは、目が覚める寸前に見るもんだ」
 と言われるが、だからこそ、目が覚めた時に、ほとんどの夢を忘れている。
 しかし覚えている夢の少なからずにあって、そのパターンはいつも一緒のように思えるのだった。
 それは、
「もう一人の自分が出てくる夢」
 であって、つまりは、一番怖いという思いを持った夢を、唯一忘れてはいけないものとして意識させることで、覚えていない夢に対しての辻褄を合わせているような気がするのだ。
 そんな泰三にとって、見たハーレムの夢で、その顔が本当は愛すべき相手であり、ゆかりであればいいと最初は思った。
作品名:トラウマの正体 作家名:森本晃次