小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

トラウマの正体

INDEX|12ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

 しかし、考えてみると、二人は腹違いということではないか、性格も全然違うと言っているのだから、そんな相手に、簡単に悩みを打ち明けたりするだろうか?
「ゆかりには、そんなことはないだろうと思う」
 と、泰三は考えていた。
 ゆかりのことを考えていると、ちひろの性格を、ちひろの性格を考えると、ゆかりがどのように今までちはると接してきたのかが気になってくるのだ。
 本当はちひろに会う前にそのことを聞いておきたかったような気がしていた。それさえ聞いておけば、もう少しちひろに対していかに接すればいいかということを理解できたかも知れない。
 それを考えると、もう当日になってしまったからには、どうすることもできなかった。自分は出勤しなければいけないし、ゆかりも迎える準備を整えるのに、神経を集中させているようだった。
「このままなら、まともに仕事なんかできないな」
 と思っていたが、思ったよりも仕事がはかどった気がした。
 仕事からの帰り道、駅を降りてからマンションまでの途中に商店街があるのだが、普段は急いで家に帰るので、ゆっくり見て回ったことがなかったことを思い出した。
「せっかくだから、ケーキでも買って帰ってあげるか」
 と思い立ち、商店街に立ち寄った。
 最近は残業続きで、定時などに帰ってきたことはなく、すべての店がシャッターをおろしているところしか見ていなかったので、どれほど普段が賑やかなものなのかというのを味わってみたいという気持ちもあった。
 だが、実際に行ってみると、半分近くはシャッターを下ろしている。中にはただ単に本日が定休日のところもあったり、営業時間が短く早めに閉店する店もあったりするようだが、それ以外は、シャッターの前に、
「貸店舗」
 の張り紙が張られていたりした。
 張り紙が今にも剥がれかけているところもあって、長い間閉店の店舗もあるようだ。いくら、定休日の店があったり、早く店じまいをしている店があると言っても、ここまでシャッターが閉まっていれば、実に寂しいというものである。
「もう商店街などというのは、賑やかさを取り戻すことはできないものなのかなな?」
 と感じた。
 今から二十年以上前くらいから、郊外型の大型商業施設ができるようになってからというもの、駅前の商店街と言われるところは、流行らなくなり、店舗がどんどん入れ替わっていくという状況を聞いたことがある。そういえば、田舎にいる頃、学校の近くの商店街が、立ち寄るたびに、どこかの店が変わっているなどというのが日常茶飯事だったのを感じたような気がした。あまりにも当たり前の光景だっただけに、意識することもなかったのだから、忘れてしまっていたとしても、無理もないことだったのだろうか。
 しかも今は店舗が退いてしまうと、そこに入ろうという店舗もないようだ。
 数年前に起こった伝染病による経済破綻が、今なお経済を蝕んでいて、自営業は大きな痛手を被った。
 あの頃に廃業に追い込まれた店主は、伝染病が収まっても、借金に苦しめられている人がいたり、あの時の地獄を思い出すと、トラウマになってしまい、二度と店を始めようなどという気持ちにならないのも当然であろう。
 彼らからすれば、
「国家や、一部のバカな国民に苦しめられ、虐げられ、そして殺されたのだ」
 と言いたいのだろう。
 そう思いながら商店街を歩いていると、その途中の閉店になった店舗の中で、貸店舗と掛かれた張り紙のその横に、赤い文字で、大きく書かれた立札のようなものがシャッターに立てかけられていた。
 赤い文字は、書いている時に流れ落ちたのか、赤いだけに、
「血が滴り落ちているように見える」
 と思わせた。
 どうやら、使っているのは絵の具ではなさそうで、最初は何か分からなかったが、欲見てみると、いつ頃書かれたものなのか分からないが、色が褪せることはないようだった。
「ペンキだ」
 と感じた。
 そのペンキで書かれたその文字の内容は、以前にどこかで見たような気がした言葉だった。
 そう、あれは日本史の教科書に書かれていたもので、偉人を揶揄した俳句だった。
「なかぬなら殺してしまえホトトギス」
 と掛かれていた。
 そう、偉人というのは、かの三英傑の一人、織田信長を揶揄した俳句ではないか。

              街の商店街

 商店街の一店舗、シャッターが下りた廃業した店の前に、立札が掛けてあり、そこにはまるで鮮血を模したかのような真っ赤な文字で、しかも着色はペンキであり、そこから滴り落ちる血を見せているかのような構図で、描かれた文字が、
「なかぬなら 殺してしまえ ホトトギス」
 何とも、高圧で恨みが籠っている光景であろうか。
 それも、分からなくもない。
 伝染病が流行った時、店舗、特に飲食店が標的になり、
「人流を抑える」
 という名目で、
「時短営業、アルコールの提供はしない」
 ということを半分強制されたような形で、虐げられ、
「自粛に協力した店は最大二十万円までの支給」
 などと言われたが、個人商店ではその半分にも満たない状況で、
「どうやって、家賃や従業員の給料を払って行けばいいんだ」
 という声が聞かれた。
 しかも、その協力金でさえ、実際の政府の報告からどんどん遅れてきて、半年以上も前に自粛した協力金を半年たっても貰えていないという状況が続けば、自転車操業の零細企業はひとたまりもない。
「再起不能になる前に、廃業するしかない」
 ということで店を閉めた人がどれだけいたことだろう。
 しかも、それらの人の恨みは、国家に対してはもちろんだが、人流を抑えるためと言って、国家が示したガイドライン。それも自分たちを締め付けておいて、一般の人にはかなりの甘めのものだが、それすら守れない連中がどんどん増えてくる。
 そこには、腰抜け政府への批判や、
「もう何をやっても一緒だ」
 と思っている連中がどれほどの勢いで増えているかということを示しているわけで、結局、そんな連中がマスクもなしで出歩いて、飛沫を飛ばしまくることになる。
「飛沫感染だということを分かっていて、マスクもせずに、ギャアギャア表で喚き散らすんだから。そりゃあ、感染が爆発しない方がおかしいというものだ」
 という人がいたが、まさしくその通り。
 つまり、あの時の爆発的な感染を招き、国家を衰退させた戦犯のベストスリーは、
「まず、最初は、自粛ができずに、好き勝手なことをやって、感染を爆発させた一部の心無い市民が一番の戦犯で、その次は、この時とばかりに、話題性になることだけを優先し、自分たちの記事が売れればいいということで、モラルがモットーである業界を最低ならしめたマスゴミが二番目であろう。そして。これはいわずと知れた、一番しっかりしなければいけない立場で正確な情報を発信し、世間を導くことができるはずの立場である政府。これが第三犯である。政府は、国民にお願いの時も、何かが起こって釈明すべき時も、まったく説明責任を果たしていない。書かれている原稿を読むだけで、しかも、それすら読み間違える。元首相だった人間は、漢字すら読めない体たらく。それが、今回のパンデミックにおいての戦犯だ」
 と言われていた。
作品名:トラウマの正体 作家名:森本晃次