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トラウマの正体

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 まだ、二人はそのことに気づいていなかったが、出産適齢期ということに関しては、ゆかりも意識しているだろうと、泰三も感じていた。
 ちひろに対してのゆかりは、血がつながっていないということをほとんど意識していないと本人は言っていた。
 泰三も、
「ゆかりが気にしていないというのであれば、本当に気にしていないのだろう」
 と思っていた。
 ウソが嫌いで、自分もウソは絶対につかない。そして、ウソに関してはまわりの人であっても同じで、自分に対して、あるいは誰かに対しての場合であっても、ウソをつく人に対しては、決して信用しない性格だった。
 あれは、プロポーズして、承諾してもらって少ししてからだっただろうか。本当であればその時に聞いておけばよかったのだが、嬉しくてつい聞きそびれてしまったことであるが、
「俺のどこを好きになってくれたんだい?」
 と聞いたことがあった。
「全部って言いたいんだけど、それほどあなたのことを全部理解できていないと思うのよ。でもね、そんな中であなたの一番好きなところは、ウソがないところかしら? 私って、ウソが嫌いな性格なのよね。分かっているわよね?」
 と言われて、
「ああ、知っているさ。だから、俺もそんな自分にウソがない君のことを好きになったのさ。だから。僕も同じ質問を君からされたら、同じ答えを返していたと思うんだ。そういう意味でも俺たちって、気が合うのかも知れないよな」
 と泰三は答えた。
「うん、私も嬉しい」
 という話をしていた。
 しかし、ゆかりと泰三の似ているように見える性格も、ちょっとしたところで違いがあった。
 その時にはまだ理解していなかったが。ウソをつかないということをどこまで考えているかということであった。
「ウソをつかないというのは、言葉が足りなくて相手に誤解を与えるような場合、言葉が少ないのをウソというべきかどうか」
 ということであった。
 泰三の方は、言葉が足りないことは、ウソではないという、少し寛容な気持ちを持っていたが、ゆかりの方では、言葉が足りなくて誤解を与えることは、心根の中に、意図するものがあるために、ウソだと認めたくないという人の言い訳に聞こえるという意識を持っているようだった。
 普段であれば、そんなことを意識することはないのだろうが、もし、離婚問題が勃発したとして、お互いにウソについて言及すると、きっとここで引っかかって、どうして離婚問題に発展したのかということを初めて気づくというような展開になりかねないのではないだろうか。
 もちろん、仮定の話なので、想像の域を出ないが、大きな問題として立ちはだかるに違いない。
 離婚する時というのは、幾重にも問題が山積していて、一つ一つを潰していかなければ、埒が明かない。だが、一つ一つを細かく解決していっていると、肝心な最大の理由を見逃してしまったり、気付かなければいけないことに気づかなかったことで、解決の糸口を掴むこともできず、結果わだかまりを持ったまま離婚するということになるのだろう。
 離婚というのは、子供がいたりして、家族に迷惑をかけるのであれば、しない方がいいということで、復縁を探るということもあるだろうが、逆に子供や家族のためを考えると、修復が不可能な中での離婚をとどまったりすると、近い将来、またわだかまりが起こり、ずっと燻ったまま一緒に暮らしていくという羽目に陥ってしまうのではないだろうか。
 さて、言葉が足りなかったり、一言多いというのは、夫婦間だけの問題ではないだろう。友達との間のことでも、家族間でも、言った方と言われた方とで、言った方が、
「言葉が足りない」
 と思っていて、言われた方は、
「一言多い」
 と思っていることがあったりする。
 だから、お互いに話をしても噛み合うこともなく、下手をすれば、相手が何を言いたいのか、それどころか、何について言っているのかというような基本的なところから狂ってしまっている場合もあったりする。
 そんな中で、ちひろがどういう性格なのかまったく分からないので、どのように接すればいいのか、泰三には分からなかった。
 ゆかりに、
「ちひろちゃんって、どんな感じの子なのかな?」
 と聞いてみたが、
「そうね。私とは性格は違うわね。でも、比較対象であるのが自分なので、私が思っていることを答えたとしても、どこかに贔屓目であったり、屈折した見方があるかも知れないので、私の意見は当てにならないかも知れないわよ」
 とゆかりは言ったが、まさしくその通りだろうと、泰三も感じていた。
「それはそうだよね」
 というと、
「あ、でもね、一つ言えるのは、ちひろはハッキリとした性格と言っていいような気がするわ」
 とゆかりがいうので、
「それは、正直ということなのかな?」
 と、泰三は聞いたが、これはわざと、
「ウソがない」
 という聞き方をしたわけではなかった。
 あくまでも、ゆかりがいうところの、
「性格が違う」
 という言葉を信じたうえで感じたことで、
「正直というのは、ウソの正反対という意味で使ったわけではない」
 という思いが含まれていたのだ。
 つまり屁理屈になるが、
「ウソのウソが本当だ」
 という考えではないということで、
「まるで、メビウスの輪というものを考えているような感覚だ」
 と言っているようなものだった。
 週末というのは、思ったよりもアッという間にやってきた。
 だが、最初の方は一日一日がなかなか過ぎてくれないと思っていたが、目標の日が近づくにつれて、あっという間に一日が過ぎていくのだった。
 パートをその日休みにしたゆかりは、家で料理を作ったりして、その日の準備を進めていた。
 泰三は最初は休みだったはずなのだが、急遽仕事が入ってしまい、出社しなければいけなくなった。
 元々、同じ職場で働いていたゆかりなので、それくらいのことは分かっている、
「しょうがないわね、しっかりお仕事してきてくださいね」
 と、苦笑いを浮かべながら、ゆかりは見送ってくれたが、あの苦笑いは決して嫌なものに対してではなく、妹が来るということを嬉しいのだが、その思いをあまり表に出さないようにしないといけないという気持ちが溢れているのであって、それを泰三は分かっていたのである。
 人のこととなると、しっかりと理解できて、気を遣うことのできるゆかりなのだが、これが、自分のこととなると、結構分からないものである。
「自分の姿を見るには、鏡のような媒体に写さないとみることができない」
 という通り、案外自分のこととなると、誰も分からないというのが定説である。
 特にゆかりのように他人に対して気を遣うことが多いと、余計にその兆候が分かってくるというものである。
 その日の仕事は定時までで、それから家に帰ると、間違いなくちひろは来ていることだろう。
 それは別にそれでいいのだが、姉妹二人だけというのが気になったのだ。
「ゆかりのことだから、何も言わないと思うが」
 と、表向きには何もないように見える夫婦間であるが、ひょっとすると、ゆかりに少し違和感があったとすれば、妹のちひろに愚痴ることもあるかも知れない。
作品名:トラウマの正体 作家名:森本晃次