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臭いのらせん階段

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スマホが置かれていて、そこに誰かが電話を掛けたのは、あのスマホで、最初の犯罪は小山内が犯行を犯す前に、山岸に、自分が敏子を殺してしまったという錯覚を与えるためのものであって、敏子もまさか、あれほどのショックを与えられるとは思ってもいなかったので、スマホに手の通話が発生した。防犯カメラから切れているところで話をしていたので、スマホを入れ替えることもできたのだ。
 これらの犯行の基礎を考えたのは、敏子であり、そこに枝葉をつけて着色していったのが小山田だった。
 交換殺人のアイデアを出したのも小山内だった。
 小山内は、自分に決定的なほど自信があった。それに人に対して自分がしたことをしてもらった人が逆らうはずはないということで、敏子が自分を裏切ることはないと、完全に信じ切っていたのだ。
 しかし。敏子は最初から小山内を、
「将棋の駒」
 としてしか見ておらず、ある程度まで計画が進展してくれば、犯行のすべてを小山内に擦り付けて、今回の犯行を成し遂げようとしていたのだ。
 今回の犯行がバレた一番の原因は、敏子が小山内の話に安直な気持ちで乗ってしまったことだった。
 あの臭いの感情から、バレたと言ってもいい。近くのK大学理学研究室に、犯罪研究の学科があって、そこでは毒ガスや化学兵器、あるいは、凶器になるものを研究していたのだ。
 その中で、臭いについて研究しているグループがあり、そこによく敏子が参加しているという情報を、門倉警部からもたらされたことで、敏子への嫌疑が強くなり、さらに、小山内という男と関係していることが分かってくると、二人は共犯ではないかということが分かってきたのだった。
 敏子は、すでに犯行が露呈するであろうことは、時間の問題だと思っていたようだ。
 大学に警察が来たということを聞いて、観念したと言ってもいいだろう。
 そこまで大きなことだとは思わなかった臭いを使った犯罪。そこには、自分が記憶喪失にはなるが、すぐに記憶を取り戻して、自分が犯行の圏外になることを計画したものだった。
 何しろ、今回の犯行は、敏子が松村部長を殺さなければ終わらない犯行だったのだ。
 敏子は、もう逃げ隠れをする気はなかった。
 もうこの世に未練もなく、その思いは、今まで生きてきた中での一番の失敗だと思った、今回の計画における臭いを使ったこと。仕方のないことだったとはいえ、それは自分が後から考えた、ニセの記憶喪失だったのだ。
「こんなことさえ考えなければ」
 という思いが、敏子を死への階段を進ませるのだった。
 世間にはいくつもあると言われている樹海、敏子はそのうちのどこに入り込んだというのだろうか……。

                 (  完  )



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作品名:臭いのらせん階段 作家名:森本晃次