小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「路傍の石」なる殺人マシン

INDEX|8ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 

「たぶん、ふたりは面識はなかったんじゃないですか? 会話のタイミングもうまくいっていなかったようですしね。それを思うと、二人の会話をあまり聞いた気もしないんですよ。終始下を向いていたのは、男性の方で、女性の方は、逆に何も言ってくれないのを、イライラしていたようにも見えました。もちろん、会話が弾むと楽しそうだったんですが、それも、初対面の時にありがちのテンションだったんじゃないかとすら思えたんですよ」
 とマスターは言った。
 なるほど、確かに、初対面の時には、相手を知りたいという思いが結構あって、相手が話しやすいように、テンションを挙げる人も結構いたりする。それを思うと、この二人は、その初対面の異様なテンションを実践していたのではないかと考える。ただその場を見ているわけではないので、店主の話だけによるのであるが。
 その女性というのもとりあえずは、確認できるのであれば、確認してみたい相手だ。だが、今のところ、彼の性格をよく分かっていないだけに、彼の身辺調査をやっている柏木刑事たちの話を聞いてみる必要もあるだろう。
 さて、その柏木刑事は、まず被害者の会社に行ってみた。彼の会社は、システム系の会社で、オペレーターとして、クライアントの会社のマシンオペレーションを任されているという。
 そもそも、ソフト開発の会社なのだが、自前でオペレーションもしているようで、その分、クライアントも、システムを分かっている人にオペレーションを任せることで安心だというのだそうだ。
 眞島も、元々は開発をしていたのだが、オペレーションを任せる部署が新設されるということでそちらに配属になったのは、開発において、そこか問題があったからだろう。
 納期に間に合わないだとか、開発する内容がクライアントのニーズに合っていないなど、どうしても、相手がある仕事なので、要望に応えられないと、開発者としても、まずいのではないだろうか。
 そんな会社において、少し浮き始めたことで、チーム戦の開発は結構辛いものがあった。元々は、何か物を作ることが好きだった眞島だったが、チーム戦を嫌っていたこともあり、個性で勝負できる世界だと思って飛び込んだのだが、実際にはあくまでもクライアントの使い勝手の問題であったり、後から見る人間や、改修を考えると、後で見て、見にくいという個性あるプログラムを組まれると都合が悪かったりした。
 まわりも最初は、気を遣ってくれていたが、それでも、自分のやり方を変えようとしない彼を、次第に冷淡な視線を浴びせるようになっていった。
 完全に浮いてしまったが、へまをしたわけではないので、首を斬るわけにもいかず、困っているところに、上から、
「オペレーション部門を開設する」
 という話が出てきたので、
「それでは]
 ということで、彼を、新設されたオペレータ部門に移籍が決定したのだ。
 彼としても、その方がよかった。
 開発をしていても、出来上がった時の満足感はあるのだが、どこか、充実感に欠けていた。
「どうして、充実感を味わうことができないのか?」
 ということを考えた時、その理由が、
「出来上がった完成物が、自分のものではなく、会社のものとなっていることに、密かな不満があった。
 確かに会社から金を貰っての開発なので、開発者が自分であっても、会社のものになってしまうのは、当たり前のことだった。
 分かっていたことのはずだったので、最初は自己満足でもよかったはずなのに、次第にそれが嫌だと思い始めたのは、まわりが自分を見る目が変わってきて、会社にいて空気が悪いと感じたからであろう。
 ここには、本人たちが意識していなかった負のスパイラルが存在している。お互いに相手が見えないように、中心部分にある支柱だけが見えているかのように、らせん状に開店しているのであった。
 そんな時の、
「配置転換」
 は、どちらにとってもありがたかった。
 開発にとっては、いい厄介払いになるし。眞島にとっても、いい加減人間関係にウンザリしていて、
「そろそろ辞める時期か?」
 ということを模索していた時期だっただけに、
「辞めて、再就職を考えるよりも、同じ会社の別部署で求められているのであれば、その方がよほど楽だ」
 と思っていた。
 政府によってめちゃくちゃにされた社会にいきなり放り出されて、再就職などできるはずもないと思っているところだっただけに、
「そろそろ辞める時期か?」
 と考えてはいたが、
「辞めるに辞めれない」
 というリアルな考えも頭をもたげ、どうしていいのか、選択肢は嫌だけど残るしかないのか? と思っていただけに、渡りに船だったと言ってもいいだろう。
 とはいいながら、彼が何度か前科となるような犯罪を繰り返してきたが、会社にバレなかったのは、よかったと言ってもいいだろう。
 これはいいわけになどなるわけはないが、開発の仕事でのまわりの目と自分の足り方のジレンマによって、精神的に追い詰められていて、
「ついやってしまった犯罪」
 だったのだ。
 警察に捕まる都度、
「もう、このまま会社にいては、また同じことを繰り返す」
 と思っていたのだが、さすがに三度目の時からは、警察からも
「次やったら、生活できなくなるが、覚悟しておくんだな」
 と言われたこともあって、何とか耐えていた時、転属の辞令が出たことは、眞島にとってよかったのだろう。
 実際に、オペレーション部門に移ると、ストレスはかなり解消され、それから、犯罪を犯すという気持ちになれなかった。
 犯罪を繰り返してしまうのは、確かに自分の欲望によるものが大きいのだろうが、あくまでも環境が問題で、環境が変われば、精神状態も変わる。そうなると、それまでムズムズしていた感情が、サッと晴れてしまうというものだった。
 そんな眞島と同じように、開発からオペレーションの方に転属になるやつがいた。
 その男とは同期であり、眞島のように、開発の和を乱すようなこともなく、クライアントのニーズにあった開発もできていたはずなのに、なぜなのか、誰にも分からなかった。
「眞島はともかく、あいつまでもが」
 と言われていたのだが、彼の名前は桜庭と言った。
 実は桜庭にも、眞島のような秘密があった。それは、クライアントの会社と仲良くなり、相手の会社の上司から、桜庭の都合がいいように言わせるように仕向けたのだった。
 もっとも、相手の会社の方でも桜庭を利用していたのだから、どっちもどっちだったが、そのことを開発部のようでも、ウスウス気付いていたこともあり、とりあえず転属させることにしたのだ。これこそ、一種のリスクヘッジのようなものである。
 桜庭の場合は、眞島と違って転属させられることに、不満しかなかった。そんな桜庭は眞島を見ていて、
「こいつ、転属させられるというのに、よくあんなに平気でいられるな」
 と思っていた。
 そんな二人だったが、表面上は、
「お互いに、開発からはみ出した者同士、仲良くやっていこうや」
 と、桜庭が言えば、
「そうだね。うまく気分転換して、やっていこう」
 と、眞島も言った。