「路傍の石」なる殺人マシン
「ということは、どこか誰かの家で寿司か刺身を食べたということなのかな? もし、そうだったとすれば、やつの行動を洗うのは結構骨が折れるような気がするな」
と思っていた。
しかも、被害者の顔写真というと前科者カードに乗っていた顔写真であり、その人相は、かなり悪いもので、それを見る限りでは、
「一体、何をやらかした男なんだ?」
と、思わせてしまうほどだった。
警察も写真を見せて、
「この男に見覚えありませんか?」
と言って、なぜ捜査をしているのかを名言しないので、さぞや、この男が何かの事件の容疑者ではないかと思わせているようだった。
被害者の部屋も、家宅捜索されたが、そこで見つかった被害者の写真も、結構人相が悪かった。
だが、彼が絶命していた時の顔は、それほどでもなかった。やはり、死んだ人間に人相を求めるのは無理というもので、違いの大きさは、目つきではないだろうか。
それだけ、この男の視線は鋭いものがあり、写真に納まる時でさえ、相手を威嚇しようとしているのを見て、やつがこれまで行ってきた些細とも思える犯罪から考えて、
「この男のこの視線は、虚勢なのだろうな」
と思えて仕方がなかった。
桜井刑事は、捜査を続けていく中で、少し範囲を広げてみると、この男を知っているという居酒屋の店主に会うことができた。
「ああ、この人、眞島さんですよね?」
と、知っている人がいたので、桜井は、
――範囲を広げてみてよかった――
と感じたが、肝心のことは、空振りに終わった。
「ああ、あの日でしたら、眞島さんは来ていませんよ。というよりも、うちが定休日でしかたらね」
というではないか。
少し落胆した桜井刑事だったが、それでも、、眞島のことを少しでも知ることができればと思い、いろいろと聞いてみた。
「眞島さんというのは、どういう方だったんですか?」
と聞かれた店主は、
「そうですね。明るい方ではなかったですね、いつも一人でやってきて、いつも同じメニューなんですよ。焼き鳥に魚、焼き魚が好きだったようですが、たまに刺身とか食べてましたね。「俺はサーモンが好きなんだよ』と言っていたのを覚えていますね」
と言っていた。
「なるほど、ここにきて、アルコールはどれくらい飲んでいましたか?」
と桜井が聞くので、
「あの方は、アルコールはほとんど飲めないんじゃないでしょうか? 最初の頃はビールばかりだったんですが、コップ一杯ですぐにきつくなるくらいだったんですよ。でも、途中から日本酒に変えましてね。こういう店だったら、日本酒が合うような気がするとか言いましてね。でも私は、ビールでここまで呑めないのだから、日本酒だったら、まったくダメなんじゃないかって思ったんです。でも、あの人の日本酒が強いのを分かっているから、時間をかけてチビリチビリやっているんですよ。それがよかったのか、少しは飲めるようになったんです。翌日に残ることもないと言ってました。慎重に飲めば、そこまできつことはないと気付いたんでしょうね。そのうちに、一合くらいであれば、飲めるようになりましたよ」
と言っていた。
マスターの話から考えると、ほぼあの日、やつが飲んでいたのは、日本酒ということになる。
「ところで、アルコールがあまり強くない人は、すぐに眠ってしまう人が多いと思うんですが、眞島さんはどうでしかた?」
と聞かれたマスターは、
「あまり眠そうにはしてませんでしたね。きっと、ゆっくり味わいながら飲んでいるのは、悪酔いしないためというよりも、眠気を誘わないためだったのかも知れないようにも思えてきましたね」
と言った。
「ところで眞島さんは、どれくらいのペースで来られていたんですか?」
と聞かれて、
「週に一回くらいのペースですかね。水曜日の夜が多かったような気がします。どうも仕事が他の人と違って、土日が勤務なので、休みは平日だと言ってました。シフトの関係で、最近は木曜日に休みが多いということだったので、水曜日の夜が多かったようです。数か月単位で、休みのパターンが変わるって言ってましたね」
とマスターは言った。
――ということは、土曜日の朝、死体が見つかったあの日は、仕事だったということだろうか?
と考えると、何か違和感があった。
誰にも見られていない時間帯である早朝に、神社で死体が見つかった。犯人は死体を隠すわけでもなく、見つかってすぐに検案が行われるとなると、鑑識の死亡推定時刻や、胃の内容物などはハッキリと分かるというものだ。
もし、動機などの面で容疑者が浮かんだとして、その人が犯人だとしても、犯人には、確固たるアリバイでもあるということであれば、すぐに死体が見つかったというのも理由としては成り立つだろう。
ただ、肝心の被害者の足取りが、そう簡単に分からないのであれば、少し事情も違ってくる。果たしてどう考えればいいのだろうか。
「眞島さんは、いつもお一人で来られていたんですよね?」
と聞くと、
「ええ、そうですね。ほとんどお一人でしたね。でも、そういえば、一度だけ、女性と一緒に来られていたことがありましたね。その時はテーブル席にお座りになって、楽しそうにお話されていましたね」
というのであった。
「それはいつ頃のことですか?」
と聞かれたマスターは、
「そうですね。確か三か月くらい前でしたでしょうか? 結構楽しそうにしていましたね。いつもは一人で来て、カウンターに座って、私と話をするのが部類の楽しみだって言っていたんですよ」
というので、それを聞いた桜井刑事は、
「普段から一人で来て、アスターとの会話を楽しみにしている人が、その日だけ女性を連れてきたということに、何か違和感を覚えますね」
と言った。
「私もそれはあったんですよ。女性を連れてきたのも、その日だけだったんですよ。もし別れたのだとすれば、この話題に、触れてはいけないと思ったので、それ以降は、その話を一度も眞島さんとはしていなかったんですが、今から思えば、確かに違和感ありありでしたね」
とマスターは言った。
「その女性は、どんな人だったんですか?」
と桜井に聞かれて、
「どんな、女性って言われても、普通の人じゃないですかね? 別に派手な感じはなかったですし、たdあ見ている限りぎこちなさそうではありましたね」
とマスターが答えた。
「ぎこちないというと?」
「ええ、二人とも、会話は少なかったですね。楽しそうにしているのは、その瞬間瞬間で、会話が途切れると、変な沈黙になっていましたね」
とマスターが言った。
「ということは、二人はほとんど面識がある相手ではなかったということなのか、その時に結構を意識していたか何かで、二人とも緊張していたということでしょうか?」
と桜井がいうので、
作品名:「路傍の石」なる殺人マシン 作家名:森本晃次