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「路傍の石」なる殺人マシン

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「どうされたんですか? 声がガラガラですよ」
 と言われた。
 自分で声を出しているつもりで出ていなかったというのであれば、分かる気がするが、声がガラガラだったのに自覚がないというのは、まだ酔いが残っているからなのか、そう思ってみると、身体が動かないのも無理がないような気がして、今度は吐き気がしてくる気がした。
「何だ、この匂いは?」
 と思って、思わず顔をしかめたが、その様子を見て、神主さんは、訝しそうにしていたが、その理由がどこから来るのか分かっていないようだった。
「匂い? ですか?」
 と神主さんに言われたので、今度は山崎が驚いたのだ。
「僕の声が聞こえたんですか?」
 というと、神主も少し驚いて、
「ええ、普通に」
 というので、
「僕は今自分の声が出ていたという意識がなかったんですよ」
 と山崎は言った。
「大丈夫ですか?」
 と、神主は心配してくれたが、大丈夫だという気概もなく、
「ええ大丈夫です」
 というものだから、却って神主の意識が、山崎の言葉を全面的に信じないという方向に傾いてしまったようだった。
 しかし、匂いがしたのは事実で、
「何か鉄分のような臭いで、ツーンとする、匂いでもあるんですよ。さっき吐き気を催したんですが、ひょっとするとこの匂いが原因だったのではないかと思っているんです」
 と山崎は言った。
「私には分かりかねますがね」
 と神主に言われて、
「おかしいな」
 と呟いた山崎は、自分の意識の中で匂いが感じられる方に歩いていったが、急に匂いが閉ざされた気がした。
「あれ? 今まで感じていた臭いを感じなくなった」
 というと、神主が今度は。
「今度は私の方が匂いを感じるようになりました」
 という。
「やはり、鉄分のような臭いですか?」
 と聞くと、
「ええ、そうです。しかも相当ヤバいものであるということも分かる気がするんですよ」
「ヤバいというと?」
「警察を呼ばなければならないほどのね」
 そんな会話の中で、ゆっくりと神主について行って、その場所に立ってみると、いきなり神主が、立ち止まって、ワナワナと震えているのが分かった。
「さすがに神主は落ち着いている」
 と思ったが、神主は身体が硬直し、そのせいで震えが止まらなくなっていたが。ここまで身体を硬直させる理由は何であろうか。
「うわっ。これは」
 覗き込んだところに見えたのは、明らかに人間だったのだ。
 その男は、ちょうど庫裏のところの階段に座っていて、下を向いていた。じっと見ていると、最初は寝ているのかと思ったが、微動だにしていないその姿は違和感しかなかったのだ。
 神主が近寄って行って、
「大丈夫ですか?」
 と身体を揺すったが、次の瞬間愕然として、その人を凝視するしかできなかった。
 神主は完全に、気が動転していた。
「警察に連絡しないと、いや、まずは救急車か?」
 と言って、慌てたのだが、すぐに、
「救急車はいらないかも?」
 と言った。
 山崎も完全に酔いは冷めてしまった。さきほどまであれだけ身体がきつかったにも関わらず、神主の姿を見ていると、自分がしっかりしないといけないと思うのだった。
「死んでるんですか?」
 と聞くと、
「ええ、身体が冷たくなって、身体が金属のように硬いです。完全に死後硬直が始まっているということでしょうね」
 というので、
「じゃあ、警察ですね」
 と言って、警察へ連絡した。
 山崎はゆっくり死体に近づくと、その人が男性であることが分かった。そして下を向いている顔を覗き込むように下から見上げたが、
「うわっ」
 と、口を押えて、吐きそうになるのを必死でこらえていたのだ。
「この匂い、さっきしたのは、この匂いですよ」
 というと、少し冷静さを取り戻した山崎は、少し事情が呑み込めた気がした。
「どうやら、服毒しているんでしょうね。自殺ですかね?」
 と山崎がいうと、
「うーん、そうなんでしょうかね? 自殺であれば、遺書だったり、服毒をした時のオブラートがないですね」
 というと、今度は、神主が落ち着きを取り戻して。
「それ以前に、ペットボトルや水筒が見当たりませんね。ここで服毒したのであれば、水を含むだろうから、水を飲んだ形跡があっていいはずなんですよね」
 と言った。
「確かにそうですね。不思議と言えば不思議だ」
 と山崎がいうと。
「これは殺人で、ペットボトルか水筒と犯人が持ち去ったんでしょうか?」
 と神主がいい、
「何のためでしょうか? 何としても自殺に見せかけたかったということでしょうか? もしそうであれば、こんなに何もないというのもおかしいですよね。そう思うと、犯人がいるとすれば、自殺か他殺かということは、別に関係のないことだと言えるのではないだろうか?」
 と山崎は言った。
「ただ、犯人は、これを自殺に見せかけようという意図はないような気がしますけど?」
 と、神主がいうと、
「そうでしょうね、自殺ということにすると、何か困ることでもあるんでしょうかね? 例えば保険金の相続問題とかですね」
 と山崎がいうと、
「まあ、それこそ推理小説の話のようですね。でも、遺産相続というのは、殺人の動機としては十分だけど、この場においての死体発見には、何か違和感しかないような気がするんですけどね」
 と、神主は言った。
「何かを隠蔽しようという意識はサラサラないし、気になるのは、やはりさっき神主さんが言われたように、水を飲んだ後がどこにもないということですね?」
 という話をしていると、赤い鳥居の向こうに車が二台止まったのが分かり、中から数人の人が出てきた。
 一台からは、スーツ姿の二人組と、もう一台からは、警察の制服を着た人たちかと思ったが、たくさんの機材の入っているであろう、金属製の箱を肩から掛けて、重たそうに持ってきた。彼らが鑑識であることは、明白なようだった。
 背広の二人がやってきて、
「私はK警察署の、桜井と言います。あなた方が通報していただいたのですね?」
 と言われて、山崎が、
「はい」
 と答えた。
「その時の状況を説明していただけますか?」
 と言われた山崎は、
「ええ、私は山崎というもので、昨夜、友達と一緒に都心部の居酒屋から、スナックなどを梯子して、朝方近くまで呑んでから、始発電車で帰ってきたんです。うちはここから五分ほどのところなんですが、駅からだと、この境内を通り抜ける方が早かったりするんです。それで、ここを通り抜けようとすると、ちょうど、神主さん。こちらですね」
 と言って、山崎は神主を指差すと、神主は、軽く会釈をした。
「神主さんが、朝の掃除をされていたんですが、私が何か異臭に気づいたんです。それで一緒にその異臭の方へ行ってみると、庫裏のところに男がうな垂れて下を向いて座っていたんです。そこで、私はビックリして身体が固まってしまったので、神主さんが見に行ってくれたんです。そして神主さんから警察を呼ぶようにいわれて、私が通報しました」
 というので、神主が、