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「路傍の石」なる殺人マシン

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 今回の事件も、急転直下によって、それまで見えていなかったことが見えてきて。逆にいえば、関係のなかったこと、関係がないというわけではないが、大きな論点ではないということまでも、重大なことだと考えてしまって。話をややこしくしていたのかも知れないということも、実際にあったりしていた。
 急転直下というのは、小説でいうところの、
「起承転結の転にあたる部分だ」
 ということで、どのような形に事件が収まっていくかということは最初から決まっていたことであり、そのトンネルの入り口に立てるか立てないかということが、犯罪捜査においての、クライマックスなのではないかと思うのだった。
 今度の事件はまさにその発想を地で行っているようなものであり、
「何が幸いするか分からない」
 と言ってもいいだろう。
 この事件とは関係のないところで、一つの事件が起こった。
「実は知り合いが失踪したんです」
 と言って、K警察署に駆け込んできた男性がいて、彼が捜索願を出したいというのだが、彼は利害関係者でも、家族でもなかった。
 警察というところは、家族であったり、後見人や看護者なふぉの親族や、雇用人などのような利害関係者でなければ、ただ面識があるというだけの他人では、個人的な人探しの依頼は受理されないものだった。
「どなたか、その方の親族はおられないんですか?」
 と言われたが、
「親族の方は、皆さん今は遠くにおられるので、すぐには出てこれません。身近に祖母がいたのですが、お亡くなりになっていて、捜索願をすぐに出せる人はおりません」
 ということだった。
 この捜索願を出しにきた人間が、偶然署で、桜井刑事を見かけなければ、この話はただの失踪事件として片づけられたかも知れないが、ちょうど、捜査に向かおうとして、署から出かけようと、署の玄関に向かおうとした桜井刑事は、受付で揉めている人を見て、その人物の顔を確認した。
「あれ? あなたは」
 と言って、近づいてみると、そこにいるのは、今回の事件の第一発見者であった山崎だった。
 実はこの山崎も今回の捜査で、再度確認を取るべき相手だという意識はあった。何と言っても、今回の事件を一連の殺人事件だと考えると、事件関係者と思われる人の中で生きている貴重な存在が、この山崎だったからである。
 早速、山崎を見つけた桜井刑事が声を掛けると、山崎も今までのやるせない気持ちだったのが、桜井刑事を見かけたことで気分的にホッとしたのだろう。安心した表情になっているのが、一目瞭然で分かったのだ。
「この間は、失礼しました」
 と、冷静さを取り戻した山崎がそう言って、桜井刑事に頭を下げた。
――この男、冷静なのか。それとも、取り乱すと我を忘れるのか、どちらともいえないような気がするな――
 と桜井刑事は感じた。
 第一発見者になった時は、思ったよりも、冷静な感じがした。
 確かに、ただの第一発見者なのだが、普通死体を発見すれば、気が動転して、何をどうしていいのか分からず、不安と恐怖だけが募ってくるものだと認識していたが、どうもそれ以上にこの男が落ち着いていたことに、違和感があったのだ。
――以前にも、何か似たような気持ちになったことがあったのだろうか?
 という思いだった。
「今日はどうされたんですか?」
 と言って桜井刑事が訊ねると、
「実は友人が行方不明になって、それで捜索願を出そうと来てみたんですが、近親者でないと捜索願は受け取ってくれないということなんです」
 と、いかにも困ったという顔で、山崎は訴えた。
 この話に対して、
――この人も、騒がしい人だ――
 とばかりに苦笑いしそうな気分になったが、すぐにそれが不謹慎であることを感じると、
――あの時は、偶然死体を見つけたのだろうが、今回は彼にとっての本当の事件であろうから、彼にとっては大変なことだ。笑うなんて失礼なことだ――
 と考えた。
 だが、考え方によると、彼が何らかの形で事件に関わっていないというわけでもないだろうから、この友達の失踪というのも、ひょっとすると事件に関係のあることなのかも知れない。
「その方はどういう人なんですか?」
 と聞かれた山崎は、
「私の学生時代の頃からの友人で、川村と言います。私がこうやって警察まで来たのには、もちろん、心配の種があるからなんです」
 と言って、カバンの中から一通の手紙を差し出した。
「読んでよろしいんですか?」
 と断ったうえで山崎は頷いたので、桜井刑事は封筒から便箋を出して。中身を読んだ。
「こ、これは」
 と呟くように桜井刑事がいうと、
「ええ、そうです。遺書です」
 と山崎はいうではないか。
「その手書きが私の家に届いたんですが、それを見てビックリして、少し心当たりを探してみたんですが、まったく行きそうなところには立ち寄っていません。家族にも連絡を取りましたが、帰ってきていないという。家族はもし出てくるとしても一日がかりになりそうな遠くなので、今のところ連絡を取っただけなんですが、何しろ他に立ち寄りそうなところはないというくらいに、彼は友達も少なかったんです。それを思うと、余計にこの遺書が気になって、一通り当たった後で警察に来てみると、親類や家族以外では、捜索願を受け取れないというじゃないですか。それで今こうやって捜索を訴えていたわけです」
 と彼は涙を流しているようだった。
「そうですね。警察は事件性がないと、なかなか受理もしてくれないですね。でも、この手紙の感じでは、何とも言えないですね。分かりました。私が少し話してみあしょう」
 と言って、桜井刑事は、受付に話をしていた。
 少ししてから、戻ってきて、
「受理はしてもらえるようになりました。遺書というものがあるわけだし、私の方からお願いもしてみました。事件性が大いにあると言っておきましたので、捜査をしてくれると思います」
 と言った。
 桜井刑事の方で、
「自分が扱っている事件の関係者のことなので、事件性は大いにあるんですよ。ひょっとすると我々も捜査の対象になるかも知れない人ですので、行方が分からないということは困るんです」
 と言ったのだ。
 この言葉、しかも桜井刑事からということで、説得力はあった。
 しかも、その後、
「門倉警部の方からも、お願いすることになると思いますよ」
 といえば、さすがに彼らも受理しないわけにはいかなかったようだ。
 それだけ、門倉警部という名前は、K警察署では、署長の次にインパクトのある名前だったようだ。
 山崎に対しても、事情を聴かなければいけないと思っていたこともあって、せっかく相手が警察署まで来てくれているのだから、捜索願をさっさと通して、こちらの質問に答えてもらおうと思ったのが、この友人の失踪という事件。これも今度の連続殺人に、何かの関係があるのではないかと思った桜井は、捜索願を出すという状況をいち早く片付けて、聞き取りの時間を割くことにした。
 第一発見者というのもさることながら、失踪した友人という人間の話も、放っておけないというだけではなく、今回の事件に何らかのかかわりがあるように思えてならなかったのだ。