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「路傍の石」なる殺人マシン

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 だが、この感覚以上のことは考えることができないほどの、領域しか、考えることができないのだ。
 もしそれを、
「領域を拡大解釈することができるのだ」
 とすれば、この感覚こそ、
「乗り越えることができる領域に一歩踏み出したということではないか?」
 と感じるようになるだろう。
「お前だけが悪いわけではない」
 と、隅田も悪いが、悪いのは自分だけではないということで、連帯責任を感じさせるだけで、甘えではない、励ましになるということを背中が叫んでいるのだと、隅田刑事は感じたのだった。
「まさか、Kエンタープライズの社員が、ことごとく殺されることになるなんて、まるで呪われている会社って感じだな」
 と、柏木刑事がいうと、
「いや、というよりも、三人も殺されたのだがら、会社自体が三人に何か殺されるだけの影響力を持っているということだから、呪われているなどという他人事ではないような気がするんだよ。あの会社には何かがあるんじゃない?」
 と。桜井刑事は言い返した。
「確かに、第一の被害者である眞島と、第二の被害者である桜庭のふたりは、それぞれに細かい犯罪を犯しているという会社にとっては、なるべく表に出したくない二人だと言えるだろうが、第三の被害者の進藤という男はどうなるんだろうか? Kエンタープライズが絡んでいるのだとすれば、彼も会社に対して何かあるんじゃないかと思うのは、少し飛躍しすぎているのだろうか?」
 と柏木刑事は、まるで自分にいい聞かせるかのように言った。
「どうなんだろうね? 今のところ、進藤という男については、ほとんど情報がないからね」
 と桜井刑事がいうので、
「そうですね。私もちょっとしか会ってませんからね。分かっていることとすれば、彼が趣味で俳句を作っていることで、第一の事件の発見者である山崎と知り合いだということ。そして、話をしているうえで。どこか自分に自信のない、気の弱さが感じられたということくらいではないでしょうか?」
 と、隅田刑事も、落ち込んでばかりはいられないと思い、刑事としての危害を取りもどそうと何とか気を張って答えたのだった。
「とにかく、今回の事件は分かっていることと分からないことが、極端な気がするんだよね。その思いが、どこか事件を複雑にしているようで、違った方向に自分たちが向かっているのではないかと思わせるんだ。事件としては、単純に見えるんだけど、こちらが捜査を始めようとすると、対象が先に殺されてしまうということで、考えが空回りしていそうなんだよね。それが一番悪いんじゃないかな? 先が見えないというか、何か知らない力に突き動かされているかのような状況に。戸惑ってしまっているかのように思うんだ」
 と、桜井刑事は言った。
「確かに、それはありますね。自分たち警察と、犯人側、あるいは、事件の関係者側で、まったく違った時間が動いているんじゃないかという思い、その思いがどうすることもできないスパイラルになっていて、交わることがないのではないかとですね」
 と。柏木刑事が呟いた。
「交わることのないものというと、平行線ばかりを想像するけど、らせん階段がいり食っているのを見た時も同じなんですよね。一つのタワーに二つの非常階段がある時のように、例えば東京タワーのような構造の建物の非常階段というのは、そういうらせん階段が二つあるという想像も成り立つんじゃないだろうか?」
 と、柏木刑事は、明らかにその光景を想像しているかのように、目をつぶって、妄想に入っているようだった、
 それを見た隅田刑事も同じように、目をつぶって想像してみる。
 想像することくらいはできるのだが、桜井刑事の話は、すぐにピンとくるものではなかった。
 しかし、すぐに分かってくると、
「ああ、なるほど」
 と思わず呟いて、まわりの視線を浴びることになったが、彼らの視線は、さらに遠くを見つめているような感じがするのだった。
 その先に何があるのかは分からないが、隅田刑事とは違うものを見つめているような気がする。
 だからと言って、隅田刑事が見ているものが間違っているというわけではない。それこそ、らせん階段をお互いに下りているが、違う階段を下りていることで、決して相手を見ることができないという、特殊な階段があるということすら気付いていないという状況に、果たして誰が気付くというのだろうか?
「今回の、進藤という男の殺害は、これがもし連続殺人事件だとしても、この殺人だけは別のものではないかという考えを抱くことができるのではないかと思うんです。一緒に考えていると、別の方向を向いてしまうような……」
 と、隅田刑事は、目をつぶって話すのだった。
 すると、桜井刑事も柏木刑事も同じように目をつぶって、
「そうかも知れないな」
 と、それぞれに呟いていた。
「私は一つ気になっているんだけど」
 と桜井刑事がいうと、
「どういうことですか?」
 と、上向き気味に柏木刑事が訊ねた。
「今回の殺人事件は、繋がっているようで繋がっていないような気がするんだ。確かに被害者は皆、Kエンタープライズの社員であり、眞島と桜庭の二人は、主従関係という話もある。しかし、それは薄っぺらい関係のようで、もし、この三人が連続で殺されなければ、三人の関係性を疑って、それぞれに危ないなんて考えることもなかっただろう? 現に、第二、第三の殺人に関しては、どうして? って感じだっただろう? それを思うと、どうも薄っぺらく見えるんだ。しかも、会社でも三人の関係性を何か疑うような話も出てこなかったじゃないか。要するに、今回の殺人には、一貫性がないというか、連続性がないような気がするんだよね。動機という意味でなんだけどね」
 と、桜井刑事は言った。
 なるほど、桜井刑事の目の付け所はいつも鋭い。
 というか、柏木刑事も、隅田刑事も、それぞれに似たような気持ちではいるのだが、それがどこで結び付いてくるのか分からず、言葉にできないという意識だったに違いないい。
 その思いは、抱いているだけではダメなのだ。言葉にしておかないと、人に伝わらない。そして何よりも、自分が忘れてしまうのだ。
 このことが何かのヒントになったと閃いたとしても、次の瞬間には忘れてしまっているという結末になりかねない。それを思うと、言葉に出すということが、どれほど大切なのかということが、分かるというものだ。
「事実は小説よりも奇なり」
 というが、小説というのは、インパクトであったり、売れないといけないという制約のようなものがある。それだけに難しいところがどうしてもあるのだった。
 事実というものは、
「それ以上でもそれ以下でもない」
 と言えるのではないだろうか?
 遊びの部分はなく、表に出ていることがすべてであり、もしウラがあったとしても、その裏も事実なわけなのだが、表に出てきていないということは、事実認定ができない。つまり、事実というのは、遊びの部分のない、それ以上でも、それ以下でもないものであるが、時系列で、いつでも変化する可能性があると言えるのではないだろうか。