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「路傍の石」なる殺人マシン

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 と言って、進藤はうな垂れるように言ったが、その口調には感情がなく、冷淡さを醸し出しているかのようだった。
「そうですか。ありがとうございます」
 と隅田刑事がいうと、
「刑事さんは、どうして私にお話を聞かれたんですか? 第一発見者である山崎に何か不審なことを感じたのか、それとも、僕が殺された眞島さんや桜庭さんと何か関わりでもあるのかと思われたのですか?」
 と隅田刑事は、問い詰めるように聞いてきた。
 確かに隅田刑事の効き方から推理すれば、警察の方では、第一発見者を疑っているので、その知り合いというころで、自分を訪ねてきたのか、それとも、殺された二人が同じ会社で、その同僚ということで聞き込みの一環だということなのかが気になったのだろう。
 山崎と殺された二人を結び付けようというのは、今の段階では不可能に近い、そうなると動機は見つからないのだ。山崎が第一発見者になったのは、おそらく偶然で、ただ、警察としても、
「第一発見者を疑え」
 という推理の定石から考えれば、やはり山崎には何か疑われるというろがあったと考えてもいいのかと、進藤は思っているのだろう。
 それにしても、進藤は気が弱いと思っていたが、話を聞いているうちに、その思いがどんどん深まってくるようだった。
 なぜなら、彼は隅田刑事の聞き取りを、まるで尋問されているかのような被害妄想的な印象を得たのかも知れない。
 確かに、自分に対しての聞き取りの第一目的が、果たして山崎との関係にあるのか、それとも、口ではところでと言っていたが、殺された眞島と桜庭に関係があると思っているのかのどちらなのか分からなかったことで、進藤なりに、イライラしていたところがあったのかも知れない。
 そこで業を煮やして、つい挑発的な言葉になったのだろう。それが彼の性格なのではないだろうか。
 そう思うと、彼が気が弱いというのも分かったような気がしたのだ。苛立ったら、そのまま挑発的な態度を取らないと気が済まない。しかも、それを相手にも感じさせることで、少しでも相手に、自分への攻撃をひるませようという意図がありありで感じられるのだった。
 隅田刑事は、学生時代にも似たような性格のやつがいたのを思い出した。
 そいつを見ていると、いつも腹が立って、時々我慢できずにその気持ちをぶつけたのだったが、
「お前、もっとしっかりしろよ。そんなにオドオドしてたり、そんな態度をまわりに発散させていたりすると、そのうちに、謂れもないことに巻き込まれて、利用されないとも限らないんだぞ」
 と言ったのを思い出したのだった……。
 隅田刑事は、少し考えていたが、詰め寄ってくる進藤の質問をスルリと交わすように、
「そのどちらもですよ」
 と言って、ニヤリと笑って見せた。
 この笑いこそ、進藤に与えるイメージは、ダメージになったのではないだろうか。それ以上、進藤は隅田刑事に対して何かを言おうという意識は薄れていた。しばしの沈黙があって、
「今日は、このあたりで失礼します。また何かあったらお伺いしますので」
 と、最後に再来を予言するような言い方を残して、進藤に対しての聞き込みを終えたのだった。
 隅田刑事が帰った後に、進藤を訪ねてくる男がいた。
「刑事さんは帰ったかい?」
 と、その男が言ったので、
「うん、帰ったよ。でも、まさか刑事が僕のところに来るなんて思ってもみなかったよ」
 と進藤がいうので、
「そうか? 俺は分かっていたよ」
 とその男がいうので、
「どうして?」
 と進藤が聞くと、
「だって、警察が山崎のことを疑うところまでは想像できるだろう? そうすると、今回に被害者が、皆、Kエンタープライズの人間だということが分かれば、山崎とKエンタープライズの関係を探るはずさ。そうなると必然的に君が出てくるのも分かっていたことで、俺にとっては、想定内のことだと言ってもいいよ」
 と、その男はいう。
「だけど、朝倉さん。僕のところに警察が来たということは、君の立場が危なくなるんじゃないかい?」
 と、朝倉と呼ばれた男に対して、進藤がそういったが、
「いやいや、問題ないさ。警察には決して分かりっこないさ。というより、進藤がいてくれたおかげで助かったよ」
 と朝倉がいうと、
「そう言ってくれると嬉しいよ。本当なら朝倉にとって、僕は許せない人物のはずなのに、俺のことを信じてくれた。それが僕には嬉しいんだ」
 と、進藤は朝倉に対して、何度も礼を言って、頭を下げているようだった・
「俺だって、本当に許せる人間と許せない人間の区別くらいは分かっているつもりさ。進藤は利用されただけなんだ。本来なら君が怒ってしかるべきなんだよ。それなのに、君は怒りをあらわにしない。最初はそんな君に正直腹が立ったさ。だけどね、腹が立っても憎めないんだ。憎めないから、怒りがこみあげてこない。この気持ちがどれだけのストレスを生むか、君には分からないだろうね」
 と言って、朝倉は、虚空を睨みつけるようにしたが、進藤はその様子を黙って見ているしかなかった。
 どうやら、朝倉という男は、進藤に対して、怒りがあるのかも知れないが、憎んでいるところまでは言っていないようだ。
 むしろ、どこか同情的なところがあり、
「嫌いで怒っている相手なのだが、憎み切れない」
 というところがあるのが、この朝倉という人物の性格なのかも知れない。
 そして、この朝倉という人物がこの事件において何かの役割を持っているということを警察も今のところ、分かるわけもないだろう。
 何しろ、まだ表面上は出てきていないからである。
「朝倉は、これからどうするつもりなんだい?」
 と進藤に言われて、
「さあ、どうしようなか? このまま裏に潜んでいてもいいんだけどな」
 と言って、また虚空を睨みつけるようにして言ったが、それを聞いた進藤とすれば、
「朝倉が、中途半端な態度を取るというのは、この事件においては、都合のいいことなのかも知れないね」
 と、思ったことを言ったが、このセリフの中に見え隠れしているものは、
「決して、朝倉が表に出てくるようなことがあってはならない」
 という意味が含まれているのではないだろうか。
 朝倉というじんぶつは、最後まで裏に潜んでいて、特に警察には意識されないようにしなければいけないのではないか。
 つまりは、
「路傍の石」
 という状態を作らなければいけない。
 たとえ、目の前にいたとしても、その様子を感化されてはいけない。それが、道端に落ちていても、それが見えていたとしても、決して意識されることのない、
「路傍の石」
 ということであろう。
 路傍の石が意識されないのは、まわりにも同じようなものがあって、意識されないという河原にある石とは違った。単独でいるにも関わらず、見えているのに意識されないということは、
「そこにそれがあっても、まったく不自然ではなくて、あろうがなかろうが、自分には関係ない」
 と思われるということであろう。
 また、同じような意味でだが、ある天文学者が創造したと言われる、
「暗黒星」
 という話を思い出すこともできる。