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「路傍の石」なる殺人マシン

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「当たる確率というよりも、一つ前の段階である。設定を挙げれば、それだけ当たるための演出が発生する確率が高いというもので、直接的な大当たり確率ではない。だから、設定がよくても、絶対に勝てるわけではなく、実際に当たる可能性のある演出が頻繁に出ても、そのまま当たらずにスルーする」
 というのも結構ある。
 スロットの場合の設定というのは、設定する店長しか知らない。もちろん、他の店のスタッフにも教えない。なぜなら、次に日非番であれば、その台にくれば勝てる確率が高いからだ。まるでインサイダー取引のようではないか。
 だから、これも暗黙の了解であるが、
「その店の店長は、絶対に自分の店では打たない」
 というのが、鉄則だったのだ。
 設定というのは、台を開けた時に存在する一から六まである部分のどれかのボタンを押すというようなものらしい。実際に実機の裏を見たことがないので、話に聞いただけであるが、要するに、簡単にできるということだ。そうでなければ、店が終わる午後十一時から、店長一人で設定を変えるなどできないだろう。当然、一台一台その台の傾向と今の設定を考慮して、設定変更するか、据え置きにするかというのを決めなければいけないからだ。
 先ほども言ったように、設定を知っているからと言って勝てるわけではない。そのあたりが、ギャンブル性と言ってもいいだろう。
 パチスロが好きな人というのは、そのあたりを醍醐味だと考え、二重にも三重にも勝てるまでに設けられているハードルを越えることを楽しみにしているのだろう。
 ゲームと違って、損をするかも知れないと思うから面白いのかも知れない。
 そういえば、昔の犯罪に、
「愉快犯」
 というのがあった。(今もあるのだろうが)
 その愉快犯というのも、ある意味、捕まるかも知れないと思いながらも、やってしまう感覚は、パチンコやスロットのように、
「負けてしまうかも知れない」
 という損を覚悟で行う犯罪なのではないか? それこそ、勧善懲悪とは真逆の考えなのかも知れないと、隅田は思ったのだ。

               偶然がもたらすもの

 眞島の毒殺死体が発見されてから、四日が経っていた。事件は、まだまだ捜査が始まったばかりで、事件の全容が、薄っすらですら見えていなかった頃だった。
「桜庭が殺害されました」
 と言って連絡を入れてきたのが、隅田刑事であった。
 隅田刑事は、桜庭という男が何か怪しいとは思っていたが、見張っていたわけではなかった。まずは殺された眞島との関係を洗うというところからだったのだが、それも、まだほとんど解明できていないところでの桜庭が殺されたという情報を聞いた時、頭の中で混乱が生じたのは無理もないことだった。
「それはどこでのことだ?」
 と聞かれて、
「やつのマンションです。そこは、管轄外になるので、勝手にはいけないので、まずは報告からと思ったんですが」
 と言っている声が完全に上ずっている。
 そもそも、隅田は自分が桜庭を洗うと言ったのは、彼を犯人だと思ってのことではなかった。
 眞島と桜庭の関係性に不思議なものを感じたからで、ウワサにもあった、
「主従関係の正体を確かめたい」
 という思いがあったからだった。
 だが、三日間だけでは、それを示す証拠は見つからなかった。
 二人は仲が良く、ちょくちょく、桜庭の部屋を眞島が訪れていたという話を聞き込みはしたが、オートロックの少々高級感のあるマンションなので、中で何が行われているかなど、分かるはずもなかった。
 当然、防音設備もしっかりしているので、よほどのボリュームで音楽でも聴かないと聞こえないだろう。
「それこそ、誰かに殺されたりして、断末魔の叫びを挙げたとしても、誰にも気づかれたりはしないよな」
 と不謹慎なことを考えたりした。
 まさか、その本人である桜庭までが殺されるなど、想像もしていなかった。
 しかし、ということは、これはれっきとした連続殺人であり、最初の眞島に存在した、
「自殺説」
 というものは、なくなってしまったと考えてもいいだろう。
 とりあえず署に戻った隅田刑事は、捜査本部に、捜査員がほとんど集合しているのを見た。隅田刑事を見つけた桜井刑事は、
「おお、お疲れ様」
 と言ってねぎらいの声を掛けると、
「はい、ただいま帰りました。今回は桜庭氏の殺害を食い止めることができなくて、まことに申し訳ありません」
 と、詫びを入れたが、
「何言ってるんだい。君は桜庭と眞島の関係を洗っていたわけで、桜庭をマークしろとは言われていなかっただろう。仕方がないさ」
 と桜井刑事は言った。
「その通りだ。我々も桜庭に対してノーマークだったんだから、桜庭に対して何か疑問を感じた君の眼の方が正しかったということだな。私は、もう少し桜庭と眞島の関係を洗うところに力を入れてもいいんじゃないかと思っているんだ」
 と柏木刑事も言った。
「そうだな。もし、第一の被害者の眞島と、今回の被害者の桜庭の殺害が同一犯の犯行だということで捜査方針が決まれば、合同捜査ということになる。そうすれば、お互いに情報を開示しなければならなくなって。少しやりにくくはなるが、情報だけは公開されるので、事件解決にはいいかも知れないな」
 と、桜井刑事は言った。
 やはり今の警察も、昔ながらの、縄張り捜査である。いろいろなしがらみがあるのは仕方がないが、どうしようもないというところであろうか。
 捜査本部では、とりあえず、ここまで分かっていることを話すことにした。
「何か新しい情報は出てきていないのかい?」
 と言われた柏木刑事が、
「第一発見者である山崎という男のことが少し気になったんですが」
 と言った。
「どういう風に気になったんだい?」
 と桜井刑事が聞くと、
「やつは、以前にKエンタープライズに入社が内定していたらしいんです」
「なんだって?」
 と、桜井刑事は言った。
「その時の政治事情が皆さんもご存じの通り、あの年は内定シーズンを直撃する世界的な伝染病が流行った時期だったので、内定が不当に取り消されるという事態が多発しましたが、彼はその時の被害者だったんです」
「ということは、あの五年前のことか?」
 と言われて、
「ええ、あの時です」
 と答えたのだ。
 今でこそ、そのような状態は逸脱できて、平和になったのだが、つい最近まで、ウイルスが蔓延していたのだ。何をどうしてか、ウイルスは急に死滅した。政府が撲滅役を開発させたのに、その情報を開示しないという政治的思惑で、庶民には、事実しか知らされず、撲滅できた理由はわからないでいた。
 何と言っても、政府の弱腰と、日本という国が、戦後の占領国による洗脳によって、弱体化してしまったことで、政府も思い切ったことができなかったのだ。
 かといって、それは、政府に責任がないわけではない。徹底的に国民に事実を隠し、肝心なことを言わないつけが回ってきて、政府が国民に説得を試みても、誰も聞く耳を持たなくなったということである。
「政府が国民を舐めていたことで、最後にはブーメランが突き刺さった」
 ということである。