中途半端な作品
「私、別に起こっていないからね。でもね、実は私も、このお話を自分なりに小説に書いて応募したことがあったの。今から十年以上も前ね。つまり、卒業してからするということかしら? でも、賞を取ることもできず、小説家になれなかったんだけど、途中からシナリオに方向転換したの。そうすると、二十代後半くらいから、舞台の演出のような仕事を主にやっていたんだけど、最近では、テレビ局からも呼ばれるようになって、今までにCSなどで書かせてもらったわ。今度はいよいよ地上波ということで、どんな作品が候補にあるのかと思って、その作品を読んでみると、まったく私の記憶と同じ作品だったわけじゃない。そう思った時、あなただってピンときたわ。だから、私が立候補したの。今度は私がシナリオを完成させて、あなたの作品を世に出すわ」
と言ったのだった。
「どうして、僕の作品を書いてみようと思ったんだい?」
「私はあなたに謝りたかったの。でもできなかった。たぶんあの時あなたは、私の当時の名声に嫉妬していたでしょう? それも大きかったわ。だから、私なりにあなたへの謝罪の気持ちと、シナリオであれば、もうあなたと競わなくてもいいからね。本当にあの時はごめんなさい」
と言って、謝ってくれた。
「いいんだよ。一緒にいい作品を作っていきましょう」
というと、
「そうね。でも私が脚本を書くと、内容が少し変わるかもよ?」
といって微笑んだ。
それからしばらくして彼女は作品を見せに来た。それを見た時、笠原は、
「こ、これは」
と唸ったが、
その脚本を見れば見るほど、あの時のことを思い出す。自分の作品では思い出さなかったのにである。
「この作品は、本当にリアルに描かれている。当時の話を一字一句捉えているようだ」
と感じた。
読めば読むほど、過去の記憶に引き戻される。まるで彼女が言いたいことがこの中に含まれているかのようだった。
「結局あなたはいつまで経ってもチキンなのよ。架空の話にしようとすればするほど、中途半端になるということを、分かっていないんだわ」
と言っているかのようだった……。
( 完 )
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