伏線相違の連鎖
と訊かれて、清水刑事はニッコリ笑った、
「そうだよ、だから私が呼ばれたのさ」
というであないか。
「じゃあ、清水刑事の事件とこの事件とは、どこかで繋がっているということでしょうか?」
と聞かれた桜井は、
「繋がっているというよりも、清水巡査の受け持っている事件が、この事件の謎を埋めてくれるということになるわけさ:
というのだった。
「私が受け持っている事件のあらすじとすれば、一人の看護婦が行方不明になったのだが、その看護婦が行方不明になったのと同時に、青酸カリがどこかになくなっていた。そのウワサがあったのだが、病院側では否定をした。ただ、かなり怯えながらの話だったんですよ。青酸カリが紛失したのであれば、すぐに立入検査を行えば分かること。だから、病院は隠しておけないと思うんですよ。でも、それがちゃんと帰ってきた。しかも、使ったといても微々たるもので、検査をされても気付かないほどの誤差の範囲だとすれば、病院側の慌てようも、なくなったという事実がないということもどちらも理由になるんですよ」
ということだった。
「それがうちの事件とどういう関係が?」
と、柏木刑事が訊いた、
「まず第三の事件の犯人は皆分かっているよね?」
と桜井刑事に聞かれて。
「もちろんです、小山田氏ですよね?」
「そうだよ、でも、第一の犯行は違う」
というので、
「やはり違うんですね。そうなると梅崎氏かいないような気がするんですが」
というと、
「そう、梅崎が第一の犯行を企んだ犯人だよ。でもね、共犯がいるんだ」
「小山田君だというんですか?」
と隅田刑事に言われて、
「いいや」
と答えた。
「まさか、行方不明の女の子ですか?」
と柏木がいうと、
「いや、違う」
というではないか、
すると、恐る恐る長谷川巡査が、
「まさか、松本君が自分で?」
と言われて、桜井刑事は、
「状況から考えるとそう考えるのが、普通だろうね。だから彼は死ななかったんだよ。でも、面白いのは、その薬の調合をしたのは、看護婦の女の子なのさ。彼女は、元々医学部と薬学部の両方の知識があった。死なないまでの毒の調合くらいはできるようになっていた。だけど、ここからが怖いんだけど、第一の事件で本当に死んでほしかったのは、その女の子だったんだよ」
というと、さすがにその場の全員がドキッとしていた。
清水刑事もそこまでは考えていなかったようで、
「どういうことなんだ?」
と桜井刑事に聞いた。
「これは私の想像なんだが、彼女はすでに殺されていて、山の中にでも埋められているのではないかと思うんだ。それもやつは今回が初めての犯行ではない、その看護婦を殺したのだって、きっと、最初、強姦か何かでいうことを聞かせたんだろうね。写真を撮るかなにかして、でも、彼女が妊娠してそれをネタに脅してきた。妊娠までしているのだから、彼女も必死で、子供のために、自分が恥を掻いてもいいとまで覚悟ができていれば、さすがに梅崎も覚悟を決めた。最悪の形のね」
と桜井がいうと、
「初めてではないって、過去にも似たような犯行を?」
と清水刑事が言った。
「ああ、そうなんだ。梅崎の部屋の中にあった、犯人が捜したと思われる指輪とナース副なんだが、あれはきっと、十年前に自殺した小山田の姉のものではないかと思うんだ。梅崎は、大学時代、小山田の姉を強引に自分のものにした。姉の方は婚約者がいたのだが、まさか弟の友達に蹂躙され、しかも、写真を撮られて、脅迫までされそうになった。彼女はすべてを悲観して、自殺するしかなかったんだろうね。梅崎が持っていたものは、脅迫に使っていたものと、あの下衆な男の考えそうなことだが、戦利品だとでも思っていたんだろう。小山田君が許せないのも分かる気はする」
という話を訊いて、
「なんてやつなんだ梅崎という男は。それじゃあ、管内での未解決の婦女暴行事件もやつの仕業のものもあるんじゃないかな?」
と、柏木刑事がいうと、
「そうだね、表に出ていない事件を含めると、相当なものかも知れない。強姦罪は親告罪だからね。女性が訴え出なければ犯罪は表に出ない。それだけ卑劣な事件だ問うことだよ」
と、桜井刑事は言った。
すると、今度は清水刑事が思い出したように、
「ということは、第一の犯罪で表には出ていないけど、中島さくら子さんの殺害というもう一つの顔が隠されていたということになるのかな?」
というので、
「ああ、そういうことになるんだよ。第一の事件では、自分が結局は殺されることになるのも知らずに、自分が殺そうとしている女性を共犯者に使って、自分に隠れ蓑をかぶせる形で、本当に殺したい彼女を抹殺する。そして、第三の事件では、さらに自分が殺される。本当の悪党というのは、自分が殺されることは、絶対に予見はできないんじゃないかな? それだけ自分に自信があrんだろう。そうじゃないと、大胆な犯罪を起こしたり、考えたりなんかできるものではない。攻撃は最大の防御という言葉があるけど、犯罪にそんなものが通用するんだろうかって私は思うんだ」
と桜井は言った。
「じゃあ、今回の事件は、第一の事件では、松本の事件はカモフラージュで、行方不明になった女性を殺すことが目的で犯人は、梅崎。第二の犯行は、自分が犯人ではなく、狙われたと思わせるための小山田の工作。でも。簡単に看破できるようなことをどうしてやったんですか?」
と清水刑事がいうと。
「それは、小山田は最初から逃げも隠れもしたくないのさ。あくまでも第二の事件は時間稼ぎ。第三の事件を起こす前に、自分が警察から監視されていてはできないからね。監視されているとしても、それは、命を狙われた被害者として、警察が守ってくれているという状況は、犯行を犯すにはまったく違うシチュエーションだからね。そういう意味では彼は逃げようなんて思っていないんだ。最後は自首してくるか、自殺するかのどちらかだろうね。一応、指名手配はするつもりだけど、まず、無事に見つけることはできないと思っている」
そう言って、桜井刑事は寂しそうな顔をした。
事件はほぼ桜井刑事の言うとおりに推移した。
小山田の自殺死体は自殺の名所と言われる断崖絶壁で、彼の靴とカバンと一緒に見つかった。
そして、彼のカバンの中に手紙というか告白状が便箋に入っていて、その中に部屋の鍵があった。
どこかのペンションの部屋の鍵のようで、そこでさくら子は殺されていた。数日以内に、梅崎が、庭に埋めるつもりだったという。
それから、二人は第三の事件が起こらなければどうなっていたのか、告白状には書いていたが、第一の犯行をやつが行ったことで、自分も犯行を行うことに覚悟を決めたということであった。
つまり、梅崎は、自分で自分の首を絞めたのだ。
「この事件は、ある意味、皆梅崎に操られている形にはなったが、結局梅崎の行動がすべてを導くことで、最後は殺されるという結果になったんだろうな。俺は今までの犯人の中で、この梅崎という男は許せない思いでいっぱいなんだ。そういう意味では、小山田は気の毒だと思う」
と、桜井刑事は言ったが、
「本当にそうなのだろうか?」