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精神的な自慰行為

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 自分の気持ちの中のどこかに、絵を描き始めた本当の理由は、嫉妬であるということを認めたくない自分がいるからだと思ったからだろう。
 自分が始めることになったきっかけを、自分で納得できない状況に、恥ずかしいという思いを言い訳にしていたことが、嫌な感覚だったのだろう。
 だが、そんな思いを抱いている自分が、性風俗の店で女の子に、
「俺は、趣味で絵を描いているんだよ」
 というと、たいていは、
「うわ、すごいじゃないですか? 今度一度見せてくださいね」
 と言ってくれるのが、これほづ嬉しいことはないと思っていた。
 同じ相手と二度以上続けて会うことはないと思っているだけに、金銭的にも一か月に一度くらいのペースで通っているので、早くても、二か月は開いていることになるだろう。
 それでも、指名して再会した時、
「僕のことを覚えている?」
 と聞いたら、
「ええ、絵を描いている人ですよね?」
 と言ってくれると、これほど嬉しいことはない。
 二か月ぶりで、しかも、毎日何人もの男性を相手にしているのに、覚えてくれているというのは本当に嬉しい。
 ひょっとすると、店は会員制なので、会員番号のどの人と、どんな会話をしたのかをメモのようなものに書いている可能性がある。そうでもしないと、二か月も経っていて、覚えているという方がすごいと言えるだろう。
 そのカラクリを分かり、
「なんだ、そういうことか?」
 と思うのか、それとも、
「そこまでして客のことを覚えておいて、喜ばせてあげよう」
 と思っていることが、客として、彼女の健気な努力に感心させられ、却って嬉しく感じるであろうことを、素直に喜べるのであった。
 要するに、
「自分のためを思って、努力をしてくれる人が、俺にとっては嬉しいんだ」
 ということである。
 別にまわりでちやほやされる人は、ちやほやされたからと言って、何ら自分に関係があるわけではない。それだけ、自分にかかわりがあるかということで、自分が喜べる相手なのかということを判断する。
「皆どうして、自分に関係のない人がちやほやされているのを、そんな平気で応援なんかできるな」
 というと、
「なんで、そんな気持ちになれるの? 捻くれているんじゃない?」
 と言われるだろう。
 お互いに、その時の相手の気持ちが、分かっていないのだった。

            ある風俗嬢

 高杉がいつもいくソープランドでは、三人か四人の贔屓の女の子がいた。やはり高杉も男、当然容姿が重要である。ただし、彼は綺麗系の女の子よりも、かわいい系の女の子が好きで、選んでいる三人のうち二人までは可愛い系の女の子であった。
 もう一人は綺麗系の女の子であるが、この三人は、店の中で指名やリピーターが決して多いわけではない。そういう意味では、その日に予約なしで行っても、それほど待ち時間もなく相手をしてもらえる。
 だが、高杉が行くのはいつも待ち時間がない朝からであり、そのためには休みに日に行くことが多かった。
 仕事の関係で、日曜日以外は、平日に休みが取れる。だから、その休みの時に、朝から行くことが多かったのだ。
 店は七時から開いている。高杉のお気に入りの子は早番ばかりで、いや、正確には早番の女の子しか見ていないので、三人に絞ったのは、早番の女の子ばかりだった。
 一か月に一度とはいえ、それで十分だった。やはりそれは性欲を補って余りある、趣味や仕事の充実感がそうさせるのだろう。
 特に絵を描くことは今の高杉にとって重要な生きがいであり、他の三十歳の連中が仕事以外に趣味を持っていないことを見ていると、
「かわいそうだな」
 と、感じていた。
 この感覚は、本当に気の毒だと思っているわけではなく、他人事として見ているからであって、他人事でなければ、人に対して、かわいそうなどと思えるはずもなかった。
 確かに趣味に充実した毎日ではあるが、まだまだ毎日を満足できるだけの心に余裕があるわけでもなかった。それでも、三十歳になって仕事では第一線では、それなりの成果が出せているので、満足はしていた。趣味でも仕事でも何とか充実した毎日を過ごしていることで、性欲が満たされなくてもよかったのだ。
 結婚願望があるわけでもなく、彼女がいなくても、別にいいと思っていたのだが、そんな気持ちに少し変化が起こってきたのは、会社に一人の女の子が入ってきたことだった。
 派遣社員の女の子であったが、事務員として働いていて、いつも明るいというのが特徴だった。
 その子の名前を谷口弘子といい、スリムでビジネススーツがよく似合った。特に後ろから見るタイトスカート姿は、そそるものを感じさせた。
 今まで彼女のいたことがなかった高杉は、自分の気に入った女性が今会でいなかったからというのもあるが、それ以上に、
「一人の女性に絞ってしまうと、他の女性を抱くことができなくなるので、そうなると、性欲の飽食状態となり、性欲のバランスが取れなくなる」
 ということを懸念したからだった。
 だから、風俗通いをしているのであって、風俗では、
「お金で楽しい時間を買っている」
 と思っていた。
 他の風俗通いの連中が感じるであろう罪悪感のようなものを絶対に感じたくないと思ったのは、
「お金で、女を買っている」
 と、あからさまに感じるからではないかと思うのだった。
 お金で楽しい時間を買っていると思うことで、疑似恋愛ができるのであり、アイドルとの妄想疑似恋愛をしている連中だって、グッズやCDにたくさんのお金を使うのも、疑似恋愛のためであり、これは、趣味にお金を使っているという感覚と同じではないかと思うのだった。
 高杉は、谷口弘子に対して、今まで他の女性に感じたことのない何かを感じていた。
 綺麗だという感覚だけではない、そう、心地よさのようなものを感じた。
「一緒にいるだけで楽しそうだ」
 という感覚で、彼女が入ってきてから、一か月、ロクに話をしたこともなかったが、彼女の方も、高杉を意識することもなく、ただ、いつも同じ事務所にいるのに、すれ違っているという感覚だった。
 だが、一か月近くもすれ違ったままだと、却って意識してしまうというのか、それは彼女も同じことのようで、たまに、高杉は彼女の視線を感じることがあった。
「話かけてくれればいいのに」
 と感じたが、それは自分が話しかけなければいけないことだということに気づかなかったのは、やはり彼女いない歴が、年齢と同じだということが影響しているのだろう。
 谷口弘子のことを意識し始めたのは、彼女が入ってきて三週間くらい経った頃だっただろうか? いつものように一か月に一度のソープ通いをした時、ソープの近くで、その後姿が谷口弘子に似た女性を見かけたからだった。
作品名:精神的な自慰行為 作家名:森本晃次