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精神的な自慰行為

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 前述のように、風俗街というのは、一定の地区に集中していて、ソープ街に関しては、完全に街の一角を占めていたのだ。だから、そのあたりを歩いている人は、風俗に勤めている女性だということになり、同じ会社の谷口弘子が平日の朝、そのあたりをウロウロしているわけはなかったのだ。きっと他人の空似だったということなのか、それとも、いつも意識をしてみていたタイトスカートと同じ雰囲気の後ろ姿に目が行ってしまって、別人を見間違えたということなのだろう。
 後から確認すると、その日、彼女は普通に出勤していて、朝一番でいつも出勤してくる彼女はその場所にいることはないという、アリバイは成立していることになるだろう。
「そんなにまで、谷口弘子を意識しているということなのだろうか?」
 と、それまでにない感情が自分の中に現れていることを、感じていた高杉だったのだ。
 彼女に似た女性を見たということが、今度は会社において、彼女の後姿にそれまで以上の妖艶さが感じられるようになり、まるで自分を誘っているのではないかというほどに感じられるようになってきた。
 まさか、そんなバカなことはないだろうと思いながらも、見かけた場所の異様さから、彼女を意識するようになったというのは、実に高杉らしいと言えるのではないだろうか。
 今回のソープで指名した女の子は、源氏名を「さくら」と言った。
 小柄な女の子で、ショートヘアのよく似合う、おとなしめであることから、話をしても、声は小さく、すべておいて控えめなのだが、決して謝ることをしないことに気づいてから、
「この女の子は、意外と気が強いのではないだろうか?」
 と感じた。
 自分のことを、Sだと思っている高杉にとって、さくらのような大人しく自分を表に決して出さないようにしている女性は、
「苛め甲斐がある」
 と思ったが、どうもそうではないようだ。
 ただ、高杉がSであるということを理解しているからなのか、プレイ中のさくらは実に従順だった。
 他の客もさくらを見て、
「ドMなんじゃないだろうか?」
 とすぐに気付くだろうと思っていた。
 だが、高杉がさくらが自分から謝ることがないことを知り、
「従順ではあるが、自分の信念をしっかり持っている女性だ」
 ということに気づいたかと思うと、最近では少し態度が変わってきていた。
 態度が変わったと言っても、あからさまに従順さがなくなっていったなどという感じではなく、どちらかというと、
「目力の強さが感じられる」
 という雰囲気になってきた。
 上目遣いが結構多く、猫のような雰囲気は相変わらずなのだが、その目には妖艶さが含まれるようになってきて、笑顔というよりも、ニヤッとしているその表情は、まるで男性を見つめることで、その人の性格を読み取ろうと必死になっているかのように感じた。
 高杉は、そんなさくらが嫌いではなかった。相手の性格を読み取ろうとしているのは、それだけその人に興味があるからであって、その分、安心して身を任せることができると感じるからだ。
 そう思うと、別に彼女が従順である必要はないと思うようになり、相手の妖艶さを楽しもうという気持ちになってきたのだ。
 それは、彼女の性格が変わったというわけではない。人の性格などそう簡単に変わることはない。彼女がそういう態度を取るようになったのは、普段から高杉を見ていて、高杉が自分を見る目が変わってきたと感じたから、自分もそれに合わせているのだろう。
 そういう意味で、さくらが本当はどういう性格なのかということが却って分からなくなり、分からないところが余計に、
「さくらという女の子が奥の深い女の子である」
 と感じさせるに至った。
 そんなさくらは、この間店で指名した時、髪を金髪に染めていたのはビックリした。
「少しイメチェンかな?」
 と言っていたが、何かを思いつめてのイメチェンではないということは分かった気がしたので、敢えて触れないでいると、次第にこの時のイメチェンをしたさくらが、いとおしく感じられるようになったのだった。
「ねえ、高杉さん。高杉さんは今回の法律で決まった、セックス同意書制度というのをどう思っている?」
 と、急にさくらが聞いてきた。
「そうだなあ、頭から反対というわけではないけど、基本的には、あまり賛成できないような気がするんだ」
「どうして?」
「うん、確かにこの法律の成立基盤にあるものとして、まずはコンプライアンス問題がそもそもの始まりだと思うんだけど、結局は、ブレ幅が広いわりに、一気にブレてしまったということが、すべての元凶だと思っているんだよね」
 と、意味深なことを、高杉は言った。
「ん?」
 さくらは分からないようだったが。
「要するにアコーディオン状態といえばいいのかな? まず元々は男女効用均等法というものの観点からもそうなんだろうけど、ハラスメントのようなものが会社において問題になってくると、男性による女性に対しての行為がちょっとしたことでも、ハラスメントに引っかかるようになってきた、ちょっとした世間話のつもりでも、それをセクハラだと言われれば、何も言えなくなってしまうでしょう? さらに個人情報ほどなどのプライバシーの問題、上司が部下に対して仕事上の命令もなかなかできなくなる。最近では働き方改革などというものもあり、下手をすれば、会社における階級制度が壊れかけていると言ってもいいですよね、そうなると、会社の命令系統はズタズタになってしまう。まったく仕事の効率が悪くなって、コスパとしては最悪だよね? それがまず第一の問題」
 と高杉がいうと、
「問題は一つじゃないというのね?」
 とさくらが聞いた。
「うん、僕はそう思うんだ。そしてもっと大きな問題として、冤罪問題なども出てくるのかも知れない。つまりは、今までは、電車の中での痴漢犯罪など、女性が恥ずかしくて何も言えなかったことが、今の時代はまわりが指摘したり、本人も勇気を出して進言すればまわりが助けてくれるという風潮になってきているんだけよね。でも、中には犯人ではない人を捕まえることだってある、自意識過剰な女性がいて、満員電車のことなので、別に触る意志があったわけではなく、ただの接触だけであっても、相手が騒ぎ立てれば、犯罪を犯したという、推定有罪にされてしまう。そうなると、容疑者はまず孤立無援にされてしまう、要するに冤罪がまかり通ってしまうということになるんだよ。男女平等と言っておきながら、女性が権利を主張し始めると、今度は男性が迫害される世界というどんでん返しを食らってしまう。それは、さっきの話の会社での階級制度の崩壊と同じものではないだろうか? 行き過ぎが起こってしまって、それまでの秩序が崩されてしまうことで、いろいろな弊害も起こってくるということなんだよね」
 と高杉がいうと、
「うーん、なるほど、確かにそうかも知れないわね」
 と、さくらが言った。
作品名:精神的な自慰行為 作家名:森本晃次