精神的な自慰行為
ある程度は借金を返すための、風俗で仕事をする覚悟は固まっていたことも、さくらにはある程度、心に余裕ができてきたのだろう。
さくらは、もうかつての男のことは忘れていた、正直、むかついている感覚は残っているが、愛情などは消え去っていて、
「男は騙すものだ」
という意識を強く持っていたことで、男に対しての毛嫌いがあった。
それでも、風俗で働かなくていけなくなった自分が、毛嫌いをしている男を相手にできるのかどうか、それが問題だった。
その問題は、高杉が最初の相手だったことで、ある程度、解消できていたのだが、それはあくまで結果論、それまではかなりの不安があったに違いない。
男というものに対してトラウマが残ったことで、相手が男だということによるものか、それともセックス自体に対して、拒絶反応のようなものが出てくれば、その時はどうすればいいのかという悩みが強かったと言ってもいいだろう。
その日、弘子と世間話をしていると、さくらの方も久しぶりに人と話した喜びもあってか、結構アルコールが進んだ。実際にアルコールに対してはさほど強いわけではないさくらは、、結構ほろ酔い気分になってから、その後の記憶が半分ないくらいになっていて、最初からそれが目的だったのかは分からなかったが、弘子が解放してくれた。
前の日と逆になっていたのだが、さくらは気付けば、心地よさに自分がまるで宙に浮いているかのような錯覚になっていた。
いつの間にか、自分の部屋のベッドに寝かされていて、すでに裸になっていた。その身体を、同じようにすでに裸になっている弘子が愛撫していたのである。
「女は、女が一番感じるポイントを捉えることができる」
という話を訊いたことがあったが、まさにその通り、金縛りに遭ったかのように、弘子の指から逃げることができず、一定の短い間隔で、弘子の指に身体が海老ぞってしまうほどに感じていた。
痙攣していたと言ってもいいくらいで、
「ああ」
という声も漏れていた。
「気持ちいい?」
という言葉に、黙って頷くしかできなかったさくらを見て、弘子は満足そうな顔をしている。
その顔が淫靡な様相であり。厭らしさに酔いしれている自分に、罪悪感はなかった。むしろ、
「こんなにも気持ちいいことがあってもいいのか?
と思うほどで、
「いいのよ。今までいっぱい我慢してきたんだから、自分を解放してあげなさい」
と、弘子が耳元で囁くたびに、何度も痙攣をおこしていたさくらだった。
「あなたは、相当何かに耐えてきたのね。もう我慢することはないのよ。私にすべて委ねてちょうだい」
と弘子は言った。
「ああ」
という溜息しか出ないさくらだったが、弘子はさくらを蹂躙しながら、さくらがその間に何度絶頂に達したのか、そのたびに満足そうな顔をしていた。
「やっぱり、あなたは、私の思っていた通りの人だったわ」
と弘子が言った。
「どういうこと?」
と夢見心地でさくらは言った。
何度も達しているうちに、身体の痙攣が収まってきて、返事もできるようになってきた。心地よさは相変わらずであったが、気持ちが戻ってきたのは、快感に慣れてきたからであろう。
「あなたは、昨日、私を見ながら、自分の現状と比較して、気持ちの中で自分を慰めているような気がしたの」
というのを聞いて、急に顔が真っ赤になったさくらは、
「慰める?」
と聞きなおした。
「ええ、そう。あなたは私を見ながら、自分の心の中でオナニーをしていたでしょう? といっても、あなたは自分で気付いていないかも知れないけど」
という弘子に対して、さくらは二つの懸念があった。
「どうして、本人が分からないことをあなたが分かるの?」
という思いと、
「人って気持ちの中だけでオナニーなんてできるのかしら?」
という思いだった。
後者に関しては、
「妄想でオナニーをしてしまうということはあると思うんだけど、妄想をしているわけでもないのに、オナニーだけって、そんなの可能なのかしら?」
という思いがあったからだ。
弘子は、さくらが混乱しているのに乗じて、さらに身体を責めてくる。
絶頂寸前で、寸止めをしてみたりと、テクニックを要している。その瞬間に浮かべる妖艶さを、さくらは我慢できずに、またしても果ててしまうことに利用していた。
そんな状態に、さくらの身体は次第に溺れていく。
「私って、レズビアンだったのかしら?」
と独り言のように呟くと、
「いいえ、あなたは、きっと両刀なんだと思うわ。レズの人の中には、男性とできなくなったことでレズに走る人もいるけど、基本的には男性にトラウマがある人なのね。あなたは男性に対してトラウマを持っているけど、それは精神的な恨みによるトラウマで、肉体的なトラウマではない」
と弘子は言った。
「どう違うの?」
とさくらが聞くと、
「精神的なトラウマというのは、あなたが今抱えている現実的な問題から、男性を毛嫌いしているという感覚ね。でも、肉体的な感覚というのは、自分の性劇と相手の性癖がまったく違っているという状況だったりした時に感じることなの。肉体的なトラウマの方が、解消するには結構大変なのかも知れないわね。だから、あなたは、精神的なトラウマなので、たぶん、私のあなたへの癒しによって、その問題は解消できると私は思っている。だからあなたは、私に委ねていればいいのよ」
というではないか。
「ええ、そうさせてもらうわ。私も男性とのセックスができなくなると、実際的な問題として困ってしまうから」
と言った。。
「あなたになら、何でも話せる気がするわ」
と、弘子が言ったが、
「まったく同じ言葉をあなたにお返しするわ」
と、さくらは自分が言いたい言葉を相手が言ってくれたことで、まるで、お互いの気持ちが通じ合えたかのようで嬉しかった。
その思いがあることで、さらに、身体に電流が走るほどの快感の波が押し寄せてくるのだった。
二人はその日から、何度も身体を重ねた。さくらが、ソープに入店し、早番勤務だったので、午後三時くらいまでの勤務でよかったので、それ以降の時間は空いていた。仕事を夕方までする弘子がくるのを、夕飯を作りながら待つというのが、嬉しかった。まるで亭主は帰ってくるのを待っているという、新婚さんのようではないか。
弘子との間で、
「愛の巣」
が形成される中で、さくらは、高杉のことが気になっていて、弘子に話したことがあった。
「お客さんに、飽食状態の人がいるのよ」
というと、まさかそれが高すぎだとは知らない弘子は、
「そうなんだ、でも、今のあなたなら、その人を助けてあげられる気がするんだけどな」
というではないか。
「どういうこと?」
「いや、あなたにしかできないかも?」
と言われて、その時は、その理由が分かりかねていた。
その頃になると、法案として通っていて、そのためのシステム作りを急ピッチで進めていた政府だったが、ここにきてシステム開発上の遅れを、システムのことを何も知らない、あの無能ソーリが、
「もっと早く、開発をせんか」