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精神的な自慰行為

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 と言って、例の恫喝で締め付けてしまったことで、文科大臣と開発を請け負っている会社側で、考え方にずれが生まれ、そのうちに意志の疎通がうまくいかなくなった。
 そのせいもあってか、せっかくそれまで完璧に近い形のセキュリティだったシステムのセキュリティが次第に脆弱になっていった。それを知ってか知らずか、実際の開発メンバーでもそのことに気づいていなかった。
 しかし、そんな様子は外部の人間が見ればよく分かることで、あるサイバーテロ組織がそれに目を付け、攻撃をしてきた。
 サイバーテロ組織というのは、基本的にはサイバー詐欺を中心に、資金を集める団体だということは、国家公安の方でも分かってはいたのだが、最終的な目的は分かっていなかった。
 本当の最終的な目的は、資金を集めて、それを元手に国内に混乱を乗じさせて、国家転覆を狙い、そこで自分たちが救世主として現れることで、国家制服を狙うというものだった。
 まるで小説のようなベタではあったが、彼らからすれば、
「こんな日本なんて、混乱さえ起こさせれば、後はどうにでもなるさ。もちろん、そのための資金調達は必要だが」
 という腹積もりだった。
 つまりは、彼らからすれば、
「日本なんて、利権しか考えていない政府高官や、一流企業のトップばかりなので、カネさえあれば、征服するなんてこと、簡単なことだ」
 と考えていたようだ。
 しかも、彼らにとってサイバーの技術、さらに詐欺のテクニックに関しては、世界でも通用するレベルであったことは間違いない。
 日本という国はいつも海外に依存しているので、
「最後には、アメリカが助けてくれる」
 などという、いかにもお花畑のような思想を、普通なら信じられないようなことだが、持っていたのだ。
 ただ、今回は何がどうなったのか、ハッキリとは分からないが、そこかで小さな穴がどこかにできていたようで、その穴をたまたま、公安の人が見つけ、それを上官に通報した。
 そして、慌てた公安は、組織に自分たちがその目論見に気づいたということが分からないように秘密裏に、彼らへの防御を作り上げた。
 やつらもまさか自分たちの計画が露呈しているなどと思ってもいないだろうから、油断していたのだろう。形勢は逆転して、やつらは完全に騙される結果になった。その時にはすでに遅く、体勢は万全になっていた。
 しばらく組織が動けない状態にしておいて、研究員たちは国家に、
「今回のセックス同意書のシステムですが、今は正体不明の組織に狙われているのが分かりましたので、完全な防御ができるまで、開発をストップしたいのですが」
 と、会議で進言した。
 本当は防御は完璧だったが、それを言わなかったのは、研究を続ければ続けるほど、
「この法律は穴だらけだ」
 ということが分かったからだ、
 せめて、運用チームに、今一度、再考を促す意味で、そのようなウソをついたのだが、そのおかげで、法案は可決したが、施行まで、元々は二年と言っていたが、国民に対しては、
「今のところ、無期限延期としかいいようがありません」
 として、最初から考え直すということを宣言するしかなかったのだ。
 その間に代替え案が出てくることを願ったが、なかなか出てくるものではなかった。このまま廃案になるかどうか、難しいところであったが、そもそも賛否両論のあった法案なので、時間が経てば経つほど、反対派が増えてくるのは分かっていた。
 法律は延期になってしまったが。根本的な解決になっていない。代替えがなければ、並行してこの案がシステムの感性を待つことになり、なし崩しで遅れただけの施行になるだろう。
 精神的な自慰行為というものが、可能になったとすれば、それを提唱することで、犯罪に走りそうな人間を、この方法で、何とかできるかも知れない。
 もっとも、これができるようになったからと言っても、最終的な解決になるわけでもない。そのことを一番分かっているのは、きっと思春期を超えた男女だろう。
 いくつまで性欲を保ち続けることができるかは、人それぞれなのだろうが、世の中にはいろいろな性癖を持った人がいろいろな立場で暮らしている。現状に満足できている人がどれだけいるか、できている人でも、かなりの葛藤から、無数の妥協を経て、今に至っていることだろう。
 人間性が変わった人もいるかも知れない。しかし、性癖のようなものを変えられるわけもなく、どうなるのかは、その人の運命によるところが大きい。
「高杉さんも、妄想の中でオナニーができるくらいになれば、ひょっとすると、今の飽食状態という悩みも解決するかもね?」
 とさくらは言ったが、高杉自身は、
「そんなことはないと思うな。何しろこの飽食は、生まれてから今までの間に培われてきたものではないかって思うからね」
 と、考えていた。
「他人であれば、何だって言える」
 と高杉は思っていたが、その感覚をさくらには感じたくななった。
 ただ、さくらは弘子と知り合って、愛し合うようになってから、それまでの殻をぶち破ったような気がしていた。
 それでも、完全に敗れたわけではない。今の苦悩から少しでも気持ちを解消できるようになるためにと、弘子を利用し、さらには、高杉をも利用していると思っていた。
 しかし、それは間違いであり、確かに利用しているのかも知れないが、それは、
「皆お互い様」
 ということであり、気付かない間に、高杉も、決して消えることはないが、今の悩みが悩みではないと思えるくらいにまでに至ることができるのかも知れない。
「セックスをするということは、自分の中で、精神的にどこまでできるかということを見つけるための儀式なのかも知れない」
 と、さくらは考えるようになっていた……。

                (  完  )



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作品名:精神的な自慰行為 作家名:森本晃次