小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

精神的な自慰行為

INDEX|24ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 

 と思っていたが、高杉がそれを言い出さないのは、彼なりに考えがあるからだということは分かっていた。
「高杉さんという人は、私に似ているところがあるけど、決して自分を明かさない何か結界のようなものを持っているのかも知れない」
 とさくらが思っていれば。高杉の方も、さくらに同じ間隔を抱いていて、その理由としては、
「さくらさんが風俗嬢だという意識が強いからかな?」
 と考えていることだった。
 さくらは、高杉との間に、風俗嬢と客という関係よりも、もっともっと近い関係にあるというのを自覚していた。
 しかし、高杉の方は、逆に、他の風俗嬢と比べても、さくらには、超えてはならない結界のようなものがあって、それだけに神聖に見えるのではないかと思うのだった。
 そういえば、
「身体の関係になるわけではなく、感情だけでの恋愛というものが果たして成立するのだろうか?」
 と考えたことがあった。
 いわゆるプラトニックラブというやつである。
 高校時代くらいであればありえるとは思うが、高杉は根本的にありえないことだと思っていた。
 その理由は、
「愛情というものは、思春期になって感じるものであり、それは、自分の肉体が女性に対して反応し、それが恋であるということを認識するようになることで感じるものではないか?」
 と思っているからだ。
 まずは、身体が反応し、精神的にその理屈を納得するのが早いのか、精神的に好きだという気持ち(プラトニックラブ)が存在してからこその肉体の反応なのかということを考えてしまうのだが、どちらにしても、肉体の発達があるのは間違いない。EDは最初からEDであったわけではなく、何かの原因があってこそのEDなのだ、だからこそ、その原因を突き止めることが先決なのだが、それには勇気がいるというもので、その勇気を得るために何をしなければいけないのか、分からないところが人間だということなのであろうか?
 どこの病院に罹るにしろ、バレると、多くな反響になるのは分かっていることだ。ただ、高杉のように、最初から原因が分かっていれば、どうすればいいのかということも、想像がつくというものだ。最初から、飽食状態での身体が反応しない。それどころか、吐き気を催すほどの拒絶を身体が示すのであるから、厄介ではあった。
 しかし、世の中には、風俗という、自分のような人たちを救済してくれる施設があり、今では市民権を得ているというのが嬉しかった。まだまだ、人によっては偏見の目で見る人もいるだろうが、そんなものを気にするくらい、今までの悩みからすれば、何でもないことだ。
 しかも、
「俺には恋愛や結婚なんて永遠にできないんだ。それどころか、セックスだって、気持ちいいなんて気持ちが起こるわけはない。人生で半分以上の楽しみを奪われたかのような気分だった」
 という思いが強い。
 その風俗で知り合った女の子とこのような深い話、しかも、今までしたかったけど、誰ともできなかったような話ができるというのは、嬉しかった。
「まわりの人、誰もができないような話を、俺は女の人とできるんだ」
 と思うと、自分がお金を払ってでも時間を買うという気持ちに正当性を感じられるので好きであった。
「さくらさんと、こうやってお話ができるのは、本当に嬉しいことですね。さくらさんにも、同じように僕がさくらさんに対してのような相手がいるんですか?」
 と聞くと、
「いますよ。女性なんですけどね。その人とは私が借金問題で悩んでいる時、偶然呑み屋で知り合ったんだけど、その人にはどうやら夢があったようで、その夢を諦めなければいけないような状態まで追い込まれていたようで、かなり酔いつぶれていたんですよ。私は話を訊いてあげると、気分が晴れたのか、それから仲良くなって、お互いに人には言えないような話をお互いに共有しようねという話ができる仲になったんですよ」
 とさくらはいった。
 その相手というのが、まさか自分の会社に勤めている弘子だとは知らなかったので、
「それはよかったね。誰にでも一人でいいから、そういう相手がいれば、人生何とかなるって思えるものなのかも知れないな」
 と高杉は言った。
「私もね。こういう商売をしていると、いろいろな人の話を訊くじゃないですか。しかも私の場合は、借金問題という、まあ言ってみればベタな理由で風俗に入ってきたので、他の人の悩みに対して、自分ほどの悩みを持った人なんていないんだろうというくらいに思っていたのよ。でも、話をしてみると、実際には、結構大変な道をくぐってきた人もいるようで、最初の頃の私はそれも分からずに、ある意味、自分以上の不幸な人なんかいないと思っているもんだから、変な意味での上から目線になっていたのね。それを一度諫められたことがあったの」
 とさくらはいった。
「ほう、どういう感じでかな?」
 と訊かれて、
「その人は、会社が倒産して、従業員の一人に会社の金を持ち逃げされたらしくて、家族も逃げ出して、独りぼっちだったんだって、でも、才能がある人だったので、その才能を生かしてやり直して、今は、人並みの生活ができるようになったって言っていたのね。その人から言われたわ。世の中、誰だって、思い通りになる人なんか一人もいないんだからねってね。それを聞いて、私は自分の悩みを気が付けばその人に話していたわ。もちろん、彼も私に話してくれてね。その時初めて、その人の言葉の意味が分かった気がして、スーッと気が楽になったのね。そんな気持ちになったのって、高杉さんが最初にお相手してくれてから初めてだったかも?」
 とさくらはいった。
「俺も、君の役に立ててるんだね? それは嬉しいよ」
「もちろん、そうよ。私が自分の話をする人って、本当に信用した人にしかしないもん。本当であれば、こういうお店では、過去の自分の話というのは嫌がる人とかも多いだろうからしないようにしてるんだけどね」
 とさくらは言ったが、
「さくらさんはそういうタイプだよね。人に気を遣って、自分を隠そうとする。皆大なり小なりそういうところがあるんだけど、さくらさんの場合は、それが自然に感じるんだよ。僕を相手にしているからかな?」
 と高杉がいうと、
「ええ、その通り。高杉さんと一緒にいるのが私にとっては、幸せの極みと言ってもいいかな?」
 と、べた褒めであった。
 高杉との話の中に出てきた弘子とのことであったが、さくらは、最初から弘子と友達になろうという意識はなかった。しかし、泊めてもらったことで恩義を感じた弘子が、その翌日にまたさくらの部屋を訪れて、
「昨日はどうもありがとうございました」
 と言って、ケーキを持ってわざわざお礼に来てくれたことが嬉しくて、一緒にお茶をすることで、すっかり打ち解けてしまった。
 前の日までは、どうしても、酔いつぶれた状態だったので、お互いに相手がどういう人なのかということが分からなかった。
 弘子の方としては、
「私のような酔っ払いを泊めてくれて、何て優しい人なんだろう?」
 という思いと、さくらの方では、
「毎日一人で思い悩んでいたので、ちょうどいい気分転換くらいにはなるかな?」
 という思いであった。
作品名:精神的な自慰行為 作家名:森本晃次