精神的な自慰行為
「ところでね。世の中にはいろいろな愛の形があると思うのね。もちろん、普通に結婚して子供を作って、家庭の中に幸せを見つけることで、それが家族愛だということで、自分の愛欲が満たされると思っている人。あなたのように、一人の相手だけではダメで、精神的には一人を愛しているんだけど、身体の関係では、それでは満足できないどころか、あまり続けていると、見るのも嫌になる人もいる。または、最近ではよく言われる中で、性同一性症候群と呼ばれるような人もいて、同性でないと感じない人もいる。もちろん、普通に両刀の人もいるわよね? いろいろな形があってもいいと思うし、それを皆が隠そうとしているところに、性欲という感情が大きくなってくるんじゃないのかなって思うのよ」
と、さくらは言った。
「確かにそうだよね、僕はある程度の愛の形は受け入れるつもりではいるんだけど、さくらさんはどうですか?」
と訊かれて、
「確かにそれは言えるのよ、私も、いろいろな形にチャレンジしてみたことがあったわ。それは、前に付き合っていた男から、ちょっといつもと違う刺激的なことをしてみないか? と言われてやってみたことが多かったんだけどね」
と、さくらがいうので、
「その男って、例の君を騙した男なのかい?」
「うん、そうよ。でも、普段は優しかったし、いろいろと教えてもくれたの。まあ、今から思えば利用されていたと言ってもいいのかも知れないけどね」
と、さくらは言った。
「さくらさんは、どういうプレイが好きなの? 恥辱だったり、SMだったりといろいろあると思うんだけど」
と、聞くと、
「そうね、私は恥辱とか好きだったわ。彼の前で一人でした時は本当に顔が真っ赤になって、身体が震えていたわ」
とさくらがいうので、
「相当、興奮したようだね?」
「ええ、そうね。でも、それが恥辱という感情だってことを、すぐには分からなかったの。なぜなら、その後で放心状態になっている私を、あの男は抱いたのよ。その時、ずっと身体が痙攣している感じだったわ。だから、頭がまったく回転していなかったし、自分が何をしたいのか、何をされたいのか分からずに、相手のいうがままだったわ。その時、縛られたりしたんだわ。初めてのSM経験だったけどね」
とさくらがいうので、
「SMはどうだった?」
と訊かれて、
「私は、SMには向かないような気がしたわ。もっと、ソフトの方がいいような気がして。まるで夢心地って感覚。あれがいいのよ」
というのだ。
「じゃあ、さくらさんは、SMというよりも、レズビアンなんかいいかも知れないね」
と高杉に言われて、さくらはドキッとしてしまった。
まるで自分の気持ちを見透かされているようで、ビックリしたのだ。それを見た高杉はニヤリと笑って。
「まんざらでもないようだね」
と言われた時にさくらは、もう半分観念したかのように頷いた。
「そっか、レズに走っちゃったか? 正直、僕はレズを見てみたいとは思っているんだよ。女性の感じている声が大音響で聞こえ、お互いに身体をまとわりつかせるのは、男女では感じることのできない快感を味わおうという感覚なんだろうね。特に女には男の武器になるものがないだけに、身体全体で相手に伝える必要がある。そこが却って、二人の世界を作り出し、しかも、同性でなければ分からないツボを捉えるのはやはり同性なのよね。それを思うと、レズビアンにはとても興味があるの。それは、男が女を推ったり、自分のものとして蹂躙するという、男の側の満足感とは違う満足感が目の前に溢れることから始まるんだよね」
と、高杉は言った。
「高杉さんはどうしてそんなことまで分かるの? 女というものと男が決定的に違うということは分かっても、男であるあなたにはおのずと限界があるはずよね? どうして男性のあなたに分かるのか、不思議で仕方がないわ」
と聞かれた高杉は、
「それはそうだろうね、女というものが、男に何を求めているかというのは、男にしか分からないから、相手のことを知っているという意味で、男にだって、分かるというものではないのかな?」
と、高杉は言った。
「高杉さんは、何か特別な性癖というのはお持ちなのかしら?」
と言われたので、
「僕は、同じ人とだけ何回もというのができないということが一番なんだけど、それも含めて気になっているのがあるのはあるんだよ」
と高杉は言った。
「それは何なの?」
とさくらが訊くので、
「僕は独身だから、できないことなんだけどね。いわゆるオープンマリッジというやつのことなんだ」
と高杉がいうと、さくらが訝しそうな顔をして、
「オープンマリッジ?」
「ああ、今から五十年くらい前にアメリカの社会学者の先生が提唱したものらしいんだけど、夫婦がね、所有欲だったり、独占欲だったり、嫉妬心に妨げられることなく、自由に愛人を作れるというものなんだ。つまり、伴侶公認の不倫というわけさ」
と高杉は言った。
「へえ、そういうのがあるんだ。何となく聞いたことがあったような気がしたんだけど、ひょっとすると、前に付き合っていたあの男から聞かされたのかも知れないわ」
と、さくらはいう。
「その男とは、結構こういう話をしたのかい?」
「ええ、結構こういう話が好きだったようで、そのおかげで、耳年魔のようになっちゃったわ」
と言って、はにかむように笑っていた。
高杉は、さくらのこのようなはにかんだ表情が好きだった。
「ところでオープンマリッジというのは、これは僕の考えだけど、EDなんかで苦しんでいる夫と、そんな夫に満足できない妻にとってはいいのかも知れないと思ったことがあったんだ。この話題に関して、映画になったり、小説になったりもしているので、興味があったので読んでみたんだけど、夫婦間でマンネリ化してしまったりしていて、刺激を求める夫婦が結構。このオープンマリッジを使っていたりするらしいんだ。さっき言った中の嫉妬心というものに妨げられずという考えではなく。、逆にその嫉妬心を煽ることで、夫は自分を奮い立たせるということだってできるんじゃないかな? 刺激を求めるという意味で、奥さんと浮気相手との行為を、影から旦那が見ているなんてシチュエーション、普通にありそうな気がするんだ」
と高杉が言うと、
「そうね、訊いているだけでゾクゾクしてくるような気がするわ。確かにそう言われてみると、いろいろな形の一つではあるけど、その刺激によってマンネリを解消できるのであれば、いいのかも知れないわね。そういえば、高杉さんの場合、同じ人とずっと続けるのはできないと言っていたけど、それは身体がいうことをきかないということ?」
と聞かれ、
「そういうわけではないんだ。できないというわけではないんだけど、途中で萎えてしまったり、絶頂にいくことができず、最後まで瞑想して終わるという感じかな? だから、セックスはするんだけど、自分だけがいけずに、欲求不満になってしまって、男が早いと言って欲求不満になっている女性の気持ちが分かるというのかな? それだけ、最終的には、男女で身体の作りが違うというところに落ち着くといことなんだろうか?」
と、高杉は言った。
「それは辛いわね」