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精神的な自慰行為

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「この人は、きっとレズなんだわ」
 と、弘子に感じさせるそんなオーラのようなものが、さくらの中にあったのだろう。
 弘子は勘が鋭い方なので、自分と嗜好が合う相手を探すことに長けているのかも知れない。
 高杉は、もちろん、二人が知り合いであるということ、ましてや、レズビアンだなんて思ってもみなかった。ただ、時々、二人の話題に男性が登場するのだが、その男性が同じ人物であるなどと、二人は夢にも思っていなかった。
 ということは、二人には共通で、相手が男子であれば、どういう人を好きになるかということを自覚していて、
「相手が話してくれるのであれば」
 という気持ちから、お互いに話をしても、話されても、いやな気分になることはなかったのだ。
「私の会社の人なんだけど、いつも真面目そうに見えるんだけど、見る方向を変えると、不真面目なんじゃないかって思うことがあるのよ。でも、実際には不真面目なんじゃなくって、本人は大真面目で、自分は、人を好きになったことがないなんていうのよ」
 と弘子がいうと、
「それって、弘子さんは、その人に抱かれた女という立場から言っているの?」
 と訊かれて
「ええ、そうよ。私はその人のことを好きになりかけたんだけど、それを言われて、少しあれって思ったの」
 と弘子がいうと、
「どういうこと?」
「その人は、いつも同じ女を相手にすると、すぐに飽きてしまうらしいのよ。実際にどこまで飽きが来ているのかは分からないんだけど、それを聞く前に、私はそんなことではないかと実際に思ったのね」
「ん?」
「だって、その人の目が、実に哀れに見えたのよ、悲しそうな目というか、それは自分に悲しそうに見えるわけではなく、私に対して浴びせているように感じたの。確かに男性というのは、絶頂を超えると、すぐに萎えてしまって、冷めてしまうでしょう? でも、その人はそういうわけではないのに、哀れみの表情が浮かんだのは、きっと身体の中が飽和状態になっているからじゃないかと思ったの。その時私は、この人が人を好きになれないのは、好きになってしまうと、その人一筋じゃないと、自分の気が済まない。でも、生理的に飽きてしまうという気持ちは如何ともしがたく、結局、人を好きになることができないという理屈になってしまうのではないかと感じたのよね」
 と、弘子が言った。
 さくらは、その話を訊いて、最初、
「どこかで聴いたような話だ」
 と思ったが、すぐには思い出せなかった。
 だが、すぐに、似たようなことを言っていた人がいたのを思い出した。それは、さくらが前に付き合っていた。そう、自分を騙して、保証人にさせようとしている、あの男だったのだ。
 さくらは、その時、男に騙されたということが分かり、何とか借金を返さなければいけないと思い、ソープで働くしかないと分かっていて、その覚悟を決めようと思っていた時だった。
 相談する相手もおらず、たまたま知り合った女と仲良くなったことで、
「この人に相談してみようかな?」
 と思った時、実際には自分を黙した男と同じ考えの弘子を、受け入れられるかどうか、自問自答していた。
 あの男だって、好きになった理由が何なのか分かっておらず、途中でいきなり、
「自分が一人の女だと飽きてしまう」
 などということを言い出すのだから、次第にさくらも、
「何なの? この男は」
 と感じたのも無理もないことだった。
 しかし、この男を嫌いになることはなぜかなかった。口ではそうは言っても、さくらを全力で抱いていたのだ。
 逆に、
「他に女がいるのかも知れない」
 という危惧はあったが、それはそれでいいような気がした。
 全力で自分を愛してくれるのであれば、他の女は皆遊びだと思っていたからだ。それに全力で愛してくれる男なんか、そうはいないと思っていたので、これほどの満足感が得られるのであれば、この人を選んでよかったと感じたのだ。
 さくらにとって、この男は大好きな相手なのかは分からなかった。本質的にどこが好きなのかと言われて。ハッキリと答えられないのだから、それも無理もないことであろう。
「ねえ、私のどこが好きなの?」
 と聞くと、
「そうだなぁ、素直で一途なところかな?」
 と言われて、
「何それ、ベタなセリフじゃない」
 と言って笑ったが、まんざら嘘ではないだろう。
 彼からすれば、いきなりそんなことを訊かれて、取ってつけたような言葉を並べただけだ。
「この女はそんなことを聞いてはこないだろう」
 という思いがあったのか、それとも、いきなり聞かれても、答えられるとでも思っていたのか、まったく答えを用意していなかったのは間違いないだろう。
 さくらは、その男が他に女を作ってもそれでいいと思っていた。
 それは、自分が今まで誰かを好きになったことがなかったというのを自覚しているからで。彼が自分を好きになってほしいと考えるのは、おこがましいと思ったからではないだろうか。
 おこがましいという言葉がこの場合にふさわしいのかどうか分からなかったが、さくらにとって、この男が自分にどのような効果をもたらしてくれるか、まるで実験でもしているかのような気持ちだった。
 相手もそれを分かっていたのか、最初からさくらを騙すつもりなどなかったかも知れないが。ひょっとすると、さくらの本心が、
「自分のことを愛していないんじゃないか?」
 と分かったのだとすれば、普通なら気持ちが冷めて、すぐにでも別れ話をしてくるのが普通なのだろうが、この男は、
「せっかくだから、この女を利用してやろう」
 と、今までの気持ちの復讐とでもいう思いがあったのかも知れない。
 この男は、自分を裏切ったり、自分を欺こうとした相手に容赦をしないタイプの人間だった。
 そもそも、借金をして何をしていたのか分からないが、しょせんそれだけの男なのだ。他の女に貢いでいたのか、それとも、ギャンブルにのめり込んでいたのか。さくらにとって、この男を見る目線は、そのどちらも同じ位置にあったのだ。
 後ろに別の女が見え隠れしていようが、さくらには関係がなかった。それほど、感情としては、好きではなかったという証拠でろう。
「私、どうしてこんな男と一緒にいるのだろう?」
 と、さくらが感じていることを、相手の男は悟ったのだ。
 その感覚に間違いはないのだが、その後の感情として、
「でも、この人は私とは相性がいいと思うの」
 と思っているようであったが、さすがにこの男は、せっかちなところがあるのか、愛していないという感情ですっかり逆上してしまって、それ以降を考えることすら、腹立たしいことになっていたのだった。
 さくらは、自分がこの男から復讐心を抱かれているなど、想像もしていなかった。
 だが、自分が彼を欺いているのではないかという思いがあるのは事実で、気持ちの中に葛藤があったのも間違いのないことであった。
「どうすればいいんだろう?」
 と、さくらは感じていた。
作品名:精神的な自慰行為 作家名:森本晃次