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精神的な自慰行為

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 あれからどれだけの時間が経ったのか、まだ夢うつつ状態で、目が覚めているのか、まだ夢の中なのか分からない状態で、身体が解放されている感覚があった。まだ酔いが回っているのか、身体に触るシーツが心地よかった。だが、それ以上に身体にまとわりついてくる生暖かい感覚に、身体が完全に任されていた。思わず吐息が出そうな状態に、酔いしれているのだった。
「気持ちいい……」
 と、思わず声に出した。
 すると、湿った空気が耳元で揺れるかのように、
「気持ちいい?」
 という声がまるで木霊しているかのように、聞こえてきた。
「ええ」
 と、言いながら、今度は完全に吐息が漏れていた。
 今は、男性にその感覚を味合わせている自分だったが、こんな気持ちになるのは久しぶりだった。
 そもそも、さくらは、両刀だった。高校時代には、女の子の方が好きで、気持ち悪がられることから、好きになった女の子に自分のそんな素振りや性癖を知られたくないと思い、誰にも知られないようにしていた。
 だから、彼氏もすぐにできた。自分から作りにいかなくても、男性の方から告白してくれる。それを断ることはしない。彼氏と言っても、それは自分が女性を好きであることの隠れ蓑に使っていただけだった。
 そのせいもあって、付き合う男性には従順だった。好きでもないのに付き合っているという意識があることから、相手のいうことに逆らうことはしなかった。そのせいもあって、短大の頃には、
「やりマン女」
 と言われたものだった。
 だが、実際には、男は好きというわけではないのに、なぜにそんなに男が寄ってくるのか、よく分からなかったが、後ろめたさのための誠実さに、M性を感じるのかも知れない。
「あの女は、いくらでも利用できる」
 と、そう思われたことが男に付け入る隙を与えることになったのか、
「すまないが、保証人になってくれないか?」
 と言われた時も、
「いいよ」
 と、まったく疑う素振りも見せずに保証人になった。
 もし、男を隠れ蓑になどするような女でなければ、保証人になどなるはずはなかった。「保証人になったところで、自分に被害はないだろう」
 という思いがあったのは事実だ。
 世の中を舐めていたというのか、それ以上に隠れ蓑にしていることで、感覚がマヒしていたのかは分からないが、実際に最悪の結果を招いたのだ。
 しかし、それでもソープへの転職にはそれほど難色を示さなかった。そもそも彼氏と言えども、あまり好きでもない男とセックスをしていたのだから、お店で不特定多数とするというだけで、それ以外に嫌なことはなかった。むしろ、自分を皆がおだててくれるのを見ていると、アイドルにでもなったかのような気がして、これほど嬉しいものがあるのかと思うほど、
「男というのも、悪い気はしないな」
 と感じたのだ。
 女の子が好きなのは、別に男子を汚らわしいとか、汚いとかいう気持ちがるからではない。単純に、愛情が抱けないだけだった。
 癒しを与えたり与えられたりというのは嫌ではない。実際に男性に癒しを与えられる自分が大好きだったのだ。
 ソープの仕事もそのうちに天職と思うようになり、常連さんは、今までに彼氏にすら感じたことのない愛情が溢れているように思えて仕方がなかったのだ。
 そういう意味で、高杉にも愛情を注いでいた。だから、さくらは初使命よりもリピーターが多い。初指名は、
「脱童貞いわゆる筆おろし」
 を願ってくる人が多かった。
 ホームページのさくらを紹介するページで、店側スタッフから、童貞さん歓迎と書かれていたので、童貞がこぞって指名してくる。そして、童貞卒業した連中が常連になってくるのが、一つの流れだったのだ。
 そんなさくらをこの店で最初に指名したのは、高杉だった。今でこそ童貞キラーという称号を持っているが、最初の頃のさくらは、怯えているだけだった。その頃にはすでに店の常連となっていたので、スタッフとも仲が良く、
「今日、新人さんが入ってくるんだけど、よかったら、高杉ちゃんが最初の相手をしてくれないかな? 高杉ちゃんなら、安心して任せられるから」
 というので、相手をしてあげたのだった。
 ちょうど、馴染みの子が三人いて、一人が辞めた後だったので、
「このまま二人で回そうか。それとも、もう一人店員に聞いて誰かいい子を紹介してもらおか?」
 と思っていた時だっただけに、店側からのお話は、願ったり叶ったりだった。
「そっか、そこまで僕を見込んでくれてるのなら、お相手してあげようかな?」
 というと、
「いやあ、それはありがたい。恩に着るよ」
 と店員は実に嬉しそうだった。
 確かに高杉のことはいつも三人の女の子で回しているので、三人から聞けるだけに、いいウワサであれば、三人ともしてくれるであろう。ほとんどの人は推しは一人のはずなので、ウワサを聞いても、一人からの話なので、どこまで信憑性があるか、一方通行のようで分かったものではないと、店員は思っていることだろう。
 だが、三人から賞賛されているとすれば、店員も安心できる。まったく情報のない客に初顔の女の子の相手をさせるのは、店側も抵抗があることだろう。
 さすがに数年通っている店であったが、初顔は初めてだった。まるで、自分が処女を奪うような興奮があり、風俗の常連のくせに、ドキドキしたものだった。そういう意味で、さくらは、高杉にとっては、特別な存在だと言ってもいいだろう。それが今や童貞キラー、苦笑いをしたくなるのも、無理のないことだろう。
 さくらという女性は、優しくて包容力がある。最初に相手をした時、
「あれ? 本当に初めてなのかな?」
 と勘ぐってしまったのは、その包容力に落ち着きを感じたからである。
「この子は、先輩になったら、後輩思いの子になるんだろうな」
 とも感じた。
 高杉の相手をしている時も、絶えず話題を振ってくれて、その気遣いに恐縮するほどであったが、それも最初だけだった。いつの間にか会話が自然にできてきていて、
「今日初めて会ったなんて気がしないくらいだ」
 と感じたほどだった。
 笑顔は見せるが、芯からの笑いではないということは見ていて分かった。何しろこういう店にいる子は基本的に何か暗い過去を持っているのは分かっているので、それをいちいち気にしていたら、風俗には来れないだろう。
 恋人を作れないので、ここでは時間をお金で買って、そして、恋人気分を味合わせてもらう」
 というのが、高杉の姿勢であった。
 高杉はそのことを自分から嬢に話すことは今までにはなかったが、さくらが相手であれば、なぜか自然と言えるのだった。
 別に店の女の子に見栄を張っているわけではないという意味でのプライドが許さないのだ。
 何となく矛盾しているような言い方だが、そういうことなのだった。
 さくらが相手だと、何でも言えるというのは、やはり、最初に感じた包容力によるものだろうか。
「さくらさんと一緒にいると、何でも話せちゃうよ」
 だから後になって、自分の性癖の話までできるようになったのだ。
 ただ、それも世間話の延長のような感覚で話ができるので、ひょっとすると、外で会っても、お互いに普通に声を掛けることができるような気がした。
作品名:精神的な自慰行為 作家名:森本晃次