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精神的な自慰行為

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「それはもちろんそうです。だけど、女性の尊厳、生命の危険というのは、もう待ったなしのところまで来ています。特に最近のネットによる犯罪を抑止することは難しいです。確かにそんなことに引っかかる女性側も問題あるのだと思いますが、境域の徹底はもちろんのことですが、それでは追いつきません。教育と、法改正の側から攻めていかないと、手遅れになってしまうケースが増えてきます。それだけ犯罪も多様化していて、そのうちに警察が一切介入できないという事態になってからでは、もう遅いんです」
 と、官房長官は力説した。
 今までの官房長官は腑抜けのようなやつが多かったが、今度の官房長官はハッキリとモノをいうという意味で、いい人だということは分かった。これも、この間の選挙での内閣改造が効いているのかも知れない。
 ただ、問題はソーリが変わっていないことだった。結局は、
「やれる人がいない」
 というだけで、再度大命が下ることになった。
 ただそれだけのことだった。

             意識の中の飽和状態

 さて、さくらと弘子の出会いであるが、あれは数か月前くらいのことだっただろうか。同じ呑み屋で隣同士になったのだった。弘子はちょうどアイドルになることを諦めたわけではないが、差し当たっての生活ができないことから、これからの生活をどうしようかと悩んでいた時期だった。
 半分やけくそ気味になっていた弘子は、アルコールが入っていたこともあってか、独り言をぶつぶつと呟いていた。最初は何を言っているのか分からなかったが、どうやら、何かに対しての文句であることは間違いないが、何に対しての文句なのか分からなかった。
 どうやら、誰か女の人の名前を言って、ぼやいているようだった。
「ははあ、何かの競争にでも負けたのかな?」
 と、さくらは感じたが、さすがにアイドルを目指しているライバルだとは思わなかった。
 ただ、彼女が普通のOLではないとは分かっていたので、何かの芸術的なことではないかと思うのだった。弘子の横顔を見ながら、どこかニッコリしていた態度でもしていたのか、
「何よ、あなた。私に何か文句でもあるの?」
 と、酔いつぶれかけている顔を上目遣いに睨みつけると、すぐに顔を背けた。
「いいえ、そんなことはないけど、大丈夫ですじか?」
 と、さくらは、彼女をねぎらった。
「大丈夫よ。そんなに飲んでるわけじゃないから」
 と、本当はほとんど飲めもしないのに、強がって見せた。
 しかし、その様子は強がりだということは明らかに分かっている。さくらは、少し様子を見ていたが、弘子の方が急に目を覚まし、
「私は、これでもアイドルを目指していたのよ。おかしいでしょう? アイドルを目指す人がこんなところで酔いつぶれているなんて。そうよ、完全な転落人生笑いたければ笑えばいいわ」
 と言って、完全に粋がっているようだった。
 それを横目で見ながら、さくらは彼女に対して、哀れみの表情を浮かべた。それは、相手には悟られてはいけない表情で。ただ、さくらが見つめていたのは、弘子ではなくて、昔の自分だったのだ。
「私にも昔、こんな時代があったな」
 とさくらは感じた。
 さくらの場合は、男に騙されたという典型的な転落人生だった。しかも、男に借金の保証人にされて、男はトンズラ、警察からも、詐欺で訴えられているということでもあり、さらにヤクザに対しても、不義理なことをしたということで。追われているという。
 警察もその男を追っているということが功を奏したのか、ヤクザはさくらに手を出すことはできなかった。もし警察に関係がなければ、男を誘い出す罠として、さくらを使おうとしたかも知れない。
 しかし、さすがに警察が男を探し出すためにさくらをマークしているので、却って警察が守ってくれていることになり、助かったのだった。
 しかし、さすがに借金だけはどうすることもできず、今までの会社で働いていては、返せるカネではなかった。そのため、会社を辞め、ソープで働くことにしたのだ。
 さくら自身は、男性との行為自体を嫌がっているわけではなかった。むしろ、
「私が癒しになって、それでお客さんが喜んでくれるのであれば」
 と癒しに徹しようと思うようになった。
 お客の中には、自分のファンを名乗る人もいて、いつも差し入れを持ってきてくれたりする人も結構いた。
「まるでアイドルになったような気分だわ」
 という気分になったことで、呑み屋で見かけ、酔いつぶれている弘子のことが気になってしょうがなかった。
 しかも、彼女はアイドルを目指していたというではないか。アイドルになった気がするさくらには、弘子をこのまま放っておくことはできなくなっていた。
 そのまま酔いつぶれた弘子は、閉店近くになっても目を覚まそうとしない。次第に客は減っていき、店員も後片付けをし始めた。
 カウンターの二人は次第に目立って行って、さすがにそのうちに、店員の視線が痛くなってきた。
「このお店は何時までですか?」
 とさくらは聞いた。
 初めて入った店なので、閉店時間が分からなかった。最初はすぐに帰る予定だったので、最初から閉店時間を気にしていなかったこともあり、表で確認を怠っていたのだ。
「十二時です」
 と、店員が言ったが、時計を見ると、すでに、十一時五十分を過ぎていた。
 さすがに彼女を起こさなければいけない。
「もし、そろそろ看板ですよ」
 と言って起こそうとすると、やっと、
「うーん」
 と言って、伸びをした。
「この様子なら、何とか目を覚ますことができるだろう」
 と感じた。
「お連れさんじゃないんですか?」
 と訊かれて、
「いいえ」
 と答えたが、今の質問で、弘子もこの店の常連ではないということが分かった。
 きっと、お互いに一見さんだったのだろう。
 さすがに、今のまま彼女を放っておくわけにもいかず、とりあえず、弘子に家を聞いたが、そこまで意識はしっかりとはしていないようだった。しょうがないので、タクシーを呼んでもらい、それほど距離はないのだが、弘子を連れて帰るために、利用することにした。
 タクシーを降りてから部屋に運ぶまでに、少し時間が掛かった。酔いが回っていて、意識が飛んでいる状態なので、身体がとても重たい。意識があれば、条件反射で身体を蚊来るしようとする意志が働くのだが、意識がないと、条件反射の入り込む隙間がなかった。何とか抱えながら、少しずつ運ぶコツを掴んできたことで、最後の方は、スムーズに部屋まで運ぶことができた。
 彼女を自分の部屋のベッドに寝かせて、水を与えた。
 すると安心したかのように彼女は眠り込んでしまった。それを見ると、さくらの方も一気に疲れと酔いが回ってきたのか、まるで睡眠薬で飲まされたかのように、彼女を寝かせた自分のベッドに彼女になだれ込むように倒れ込んだ。
 相手は目を覚ます気配はない。完全に眠ってしまっている。さくらは、一気に睡魔に襲われ、気が付いたら、眠ってしまっていたという状況であった。
作品名:精神的な自慰行為 作家名:森本晃次