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理不尽と無責任の連鎖

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「引きこもっているのに、学校には行くというのはどういうことなのかしら?」
 と、親は思っていたことだろう。
 そして、そのうちに学校に行かなくなると、親は本当に心配になったのか、話をしたいと言ってきたが、その時の平野は誰であっても人と話をするのが一番嫌だった。
 そのことを分かろうともしない親に腹も立ったが、その理由は、やはり親が世間体のことしか考えていないと思ったからだ、
「ねえ、話をしましょうよ。あなたが何を考えているのか知りたいの」
 と母親は言ったが、
「放っておけ。どうせ家にいるんだから、世間様の前に出るわけでもない。だったら、それでいいじゃないか?」
 と父親は母親に言っていたが、
「そうね」
 と母親も、半分だけだが、納得したような言い方だった。
 ウソでもいいから、
「何言ってるのよ、お父さん。あの子は苦しんでいるのだから、話くらい聞いてあげるのが親の務めというものよ」
 と言ってほしかった。
 もっとも、これは平野が考えた模範解答で、こんあ百点の回答をほしいと思ったわけではない。逆にここまで完璧な回答は、却って信憑性がない、ウソっぽい言葉に聞こえて、わざとらしさ満載である。
 だから、せめて、父親に逆らうくらいはしてほしかったが、不満がありながら、承諾するというのは平野が想像した中で、最悪のことであった。
 逆らいもせずに、半分承諾。きれでは今までとまったく変わっていないではないか。それを聞いた時、
「俺は、この引きこもりの理由の一つに、そんな親への反発もあったのではないだろうか?」
 と感じたのだ。
 自分がどうして引きこもるようになったのか、正直分かっているわけではない。何となく漠然としたモヤモヤがあり、それが引きこもりという形で現れたとは思ったのだが、分かっているのは、
「理由は一つではないような気がする」
 ということであった。
 引きこもりが楽しいわけではない。いつまでも引きこもっていられるわけもないとも感じている。
 だから、その理由を一つずつ解明し、解決するしかないと思ったが、それだけで済むものなのか、平野は悩むのだった。
 まず、一つは分かった。だが、この件に関しては、自分が関わる問題ではないということから、問題の完全解決はできないだろうと思った。後は自分がどこまで歩み寄れるかということなのだろうが、平野は、そこは、諦めしかないのだろうと感じていた。
 親に対して、もう何も望まないことにした。
「どうせあんな親なんだ。死ぬまで治らないだろう。だけど、俺はそんな親から生まれたんだ。自分が結婚して子供を持つことができたとすれば、絶対に世間体を最初に考えるような子育てはしない」
 と決めていた。
 それは、奥さんになる人にも望むことで、結婚相手に望むことの第一条件として、今のところでは、
「世間体を必要以上に気にしない女性」
 ということであった。
 そもそも、平野が世間体を気にせずに生きていこうと思っているのだから、二人とも世間体に対して無頓着であれば、歯止めが利かないのは分かっていることだ。
 そういう意味で、歯止めを奥さんに求めるというのは、虫がよすぎるのかも知れないが、最初から備えておくという意味では必要なことだと思うのだった。
 平野は。引きこもっている間、ゲームばかりをしていて、どれくらいの日にちが経ったのか、学校に行かなくなると、さっぱり分からなくなった。
 スマホで時間と日にちは確認するが、確認するだけで、時間の経過に対して、考えることもなくなった。
 最初の頃は、
「まだ、これくらいしか時間が経っていないのか?」
 などという感覚を持っていたくせに、部屋から一歩も出なくなると、この世界が怖いというよりも、楽しくなってきた。
 引きこもりというのが、楽しいものだということを初めて感じたのだ。
 ただ、それは一瞬のことだったはずだ。完全な引きこもりになってから、時間の経過を気にしないようにはなったが、引きこもりを楽しいと思っている間は、
「時間がゆっくり進んでほしい」
 という思いがあり、その通りに時間が経過していった。
「この部屋の中では、俺の思ったとおりに時間が経過していくんだ」
 という思いがあり、これが、引きこもりを楽しいと思わせる原動力だったのではないかと思ったのだ。
 そう思っていると、ゲームが急に面白くなくなった。引きこもりが楽しいと思うわりに、引きこもっているだけでは何か物足りない気持ちになってきた。
 何とも矛盾した考えだが、その気持ちがどこから来るものなのかハッキリとは分からなかった。
 しかし、家にいる時は引きこもって、学校と塾には行くようになった。それを見た両親は、さぞや、
「これで、引きこもりも時間の問題だ」
 と思ったことだろう。
 逆に平野としては、
「誰が親の思い通りになんかさせるものか」
 という思いがあり、学校と塾以外で、家にいる時は、引きこもりを貫いた。
 逆に家を出る時は、黙って出かけるか、目が合えば、これでもかというほどに睨みつけてやった。
 母親は、びくついて、金縛りに遭った科のように、じっとして震えているようだったが、父親は何か一言でも文句を言ってやろうと身構えているが、そこまでだった。
 そんな父親の姿を見て平野は、ニヤッと笑ってやるのだった。これが父親に対しては一番効き目があるようで、まるでヘビに睨まれたカエルのように、こちらも金縛りに遭ったかのように動くことができなくなった。
「親に対しては、睨みを効かせて、最後にニヤッと笑ってやればいいんだ」
 と、対処法が分かってしまうと、もう、親なんか怖くなくなっていた。
 もし、引きこもりの理由がそれだけであれば、もっと気分的に晴れてくるだろう。同じ引きこもりでも、今までと同じようなゲームだけに勤しむことはないはずなのに、やはり、ゲームしかしていないのだ。
 もう親は関係ないので、そこにイライラがあるのかと考えていると、ちょうどその時は季節が夏で、高校も、他の学校も夏休みの時期だった。
 進学塾だけは、夏休みなど関係ない。引きこもりの平野は、その時期、塾に行くのだけが楽しみだった。
 引きこもっていても、嫌だとは思っていなかったが、楽しいなどという感覚とは程遠いものがあった。
 塾にいて何が楽しいのかというと、塾での勉強は、
「自分の実力が正直に現れるもので、やればやるだけ、成績はよくなり、ひょっとすると、自分の中のバロメーターやモチベーションが、顕著に表れているのではないか?」
 と感じるのだった。
 ある日、部屋でゲームに疲れたので、ヘッドホンも外して、
「少しだけでも、寝よう」
 と思った時だった。
 部屋の外から、ギャアギャアtお黄色い声が聞こえた。
「何だ、あのうるさい声は」
 と思い、トイレに行って、窓を少し開けてみると、隣の家の親子が、口で膨らませるタイプのビニールプールの中で、行水していた。
 子供が、水浴びしながら奇声を挙げているのだ。
 しかも、親はそれを見ながら楽しそうに、子供にホースで水をかけている。親も何か子供に話しかけているが、その野太い声が、鬱陶しい。
「うるせえ、クソガキが。親も一緒になってなんだっていうんだ」
作品名:理不尽と無責任の連鎖 作家名:森本晃次