理不尽と無責任の連鎖
なるほど、足を見ると、まさしくかかしのように一本の木に足がなっていた。完全に値を張ってしまって、動くことはできないのだった。
さすがにこの様子は可哀そうだ。少年妖怪が何と言おうとも、
「足に根が生えているのだから、こちらが走って逃げれば追いかけてくることは不可能だろう」
と感じた。
しょうがないので、目の前にある水晶を手にして、少年に渡した。
少年は、
「ありがとう」
と言って受け取ったが、その時の笑顔は今までの笑顔とはまったく違い、完全に、
「悪魔の微笑み」
だったのだ。
その瞬間、男の前で、白い閃光が目の前に立ちはだかり、まったく前が見えないと思うと、少年妖怪が、
「クックック」
と、声を出して笑っているのか聞こえた。
「何を笑っているんだ?」
と恐ろしくなった男が少年妖怪にいうと、まだ前が見えない状態で、
「引っかかったな?」
と言われたのだ。
「どういうことだ?」
と聞くと、
「もうすぐハッキリと見えるようになるから、そうなった時、お前が自分の運命を知るだろうよ。もっとも私も何千年も昔に同じことを言われたんだがな」
と少年妖怪がいう。
「俺は人間だから、そんなに何千年も生きることはできないんだぞ」
というと、
「ふふふ、そんなことが言っていられるのも今だけだ。ほら、そろそろ視界が晴れてきただろう?」
と妖怪が言った。
妖怪がいうように視界が晴れてくると、目の前に、一人の見知らぬ男性が立っていた。その男は本当に昔話に出てくる百姓のような恰好だった。
「ほら、自分の姿を見てごらん」
と言われて、自分の身体を見てみると、さっき少年妖怪が来ていたみすぼらしい服を自分が来ているではないか。
しかも足元には、自分の二本の脚はなく。土に根が生えた木になってしまっていたのだ。
男が鏡を自分に見せると、自分の顔が少年妖怪になっていた。
「そうか、さっきの水晶が相手と入れ替わることのできる力を持ったアイテムだったんだ」
というと、農夫のような男は、そこから山を下りていった。
だが、男は街まで出ていくと、急に不安になった。そして、喜んでいたはずだったのに、急に現実を突きつけられ。憔悴の元に、男は干からびて死んでしまったのだ。
男は知ったのだ。
「自分が何千年も生きている間に、人間に戻りたいという一心だけしか考えていなかったが、戻ったところで帰るところはなく、黙って死を待つだけしかないという運命にあることを……」
であった。
その話を思い出すと、どこか浦島太郎と被っているところがあった。だが、この話には、どこにおとぎ話としての教訓があるというのだろう?
浦島太郎の話は、一見、カメを助けたのに、最後には老人になってしまって、どういうことなのか? という疑問が残るのだろうが、実際にはその続編があって、学校で習う話は、浦島太郎がおじいさんになるところまでであるが、本当は、その後に、カメになった乙姫様が太郎を慕って、竜宮城から丘に上がり、浦島太郎は鶴になることで、二人はその後、永遠に幸せに暮らしたという話である。どうやら、途中で話を切ってしまったのは、
「明治政府の仕業」
だと言われている。
似たような話であるが、まったく違うこの話、浦島太郎の話は、実際には過去にも似たような話があり、御伽草子にはそれらを編集した形で載っているのではないかという話もあるので、少年妖怪の話も、さらに昔に似たような話があり、それを編集したのか、それとも浦島太郎の伝説を利用して。まったく違うフィクションを作り上げたのだという考えになるのではないかとも思えた。
そんな少年妖怪の話で何が言いたいのかということまでは、さすがにまだ高校生の平野には分からなかった。
ただ、話の中に理不尽さはあるのだが、その理不尽さが今平野が書こうとしている、ストレス解消の小説に影響しているのではないかと思った。
「この話を一つのシチュエーションとして、自分なりの復讐小説でも書けたら楽しいのにな」
と感じたのだ。
「ちょうどターゲットとしては、隣のうるさいガキがいるではないか。あいつを消すにはちょうどいい。殺人でもなければ誘拐でも、脅迫でもない。これがもし、本当の話であったとしても、自分が何かの罪に問われることはない。自分が助かるためのやむを得ないことであり、法律的にいえば、緊急避難、あるいは、正当防衛と言われるおのになるのではないだろうか?」
と感じた。
さすがにあまりにも似た小説は自分でも納得がいかないので、現代風に書いてみることにした。
だが、現代風にすると話がまとまらないので、山の中に迷い込んだ少年という設定以外でどうすればいいかと思ったが、
「自分にとって気に食わない隣のクソガキに、何か光線を浴びせることで、この世界を作り上げて、そのガキをその世界から逃げることができなくなるような設定にすればいいんじゃないか」
と思った。
親父の方はどのような成敗を加えるかを考えていたが、父親の方が罪は重い、ガキよりもさらに思い罪というとどういうものなのかを、考えてみることにした。
昔の探偵小説の中で、自分が復讐する相手の子供をなぶり殺しにして、その様子を見せることで、さらに復讐する相手に最大の恐怖を味あわせるという、すごい内容の小説を読んだ。
それは、地下室に独房を作って、そこに水を流し込むというものだが、父親の方が身体が大きく、背が高いので、そのままであっても、子供が先に死んでしまうことは間違いないが、さらにその差を広げておいて。そこに水を流し込むとづなるか?
「お前の大切な息子がもがき苦しんで死んでいくのを見ながら、やがて襲ってくる自分の死をとくと味わって死んでいくという趣向を凝らした演出をしているんだ。君は喜んでくれたかな?」
と言って、復讐の相手を最後の最後までおいつめる。
「息子は関係ないじゃないか?」
と復讐される相手は、子供だけはと命乞いをするが、
「何を言っているんだ。お前はそういう我が父と、兄を二人とも、お前の私利私欲のために殺されたんだ」
というのだ。
犯人の復讐の目的は、まず目の前も男に、自分の財産を騙し取られたことだ。しかも最愛の奥さんを、寝取られ、しかも、何の関係もない兄迄も殺されてしまった。
「この子は俺の犯行を見ているからな。死んでもらうしかないのさ」
ということだった。
父親とお兄さんは、この男の卑劣な罠に引っかかり、結局殺されてしまう。それを何とかして知った犯人が復讐に燃えることになったのだが、何と最愛の妻で、この男に寝取られてしまったと思っていた女も、実はグルだったということだ。
ということは、その女は、自分の夫と、子供を無惨にも殺す手伝いをしたということになる。
いや、もっと調べたところによると、首謀者は母親だったということである。
母親は、それから数年後に、奇怪な伝染病に罹り、狂い死にしたということであった。
「自業自得ではあるが、この手で始末できなかったのは残念だ」
と、犯人は言った。
さらに犯人は、
作品名:理不尽と無責任の連鎖 作家名:森本晃次