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バラとスズラン、そして、墓場まで……

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「それはあるかも知れません。彼は、友達をとっかえひっかえするところがあった。急に友達が変わっていることがあったりして、ビックリすることが多かった気がします」
「それは、袴田氏が、その友達がいらなくなったと思ったから切ったのか、それとも、他にいい人がいたので乗り換えた。その時に、まるで今までの友達を容赦なく捨ててしまったのか、どっちなんでしょうね?」
 と刑事は聞いたが、刑事の意見としては、後者の方がえげつない気がした。
 ただ、捨てられるだけならまだしも、自分よりも優秀だと思うのか、それとも自分に飽きて新鮮な相手に乗り換えたのか、まるで、知らない間に浮気をされていて、浮気相手とねんごろになったことで、お役御免と今までの友達を切り捨てるようなものではないだろうか?
 それを思うと、返事は、前者であってほしいと思ったが、
「後者の方ですね」
 と、アッサリ、友達はそう答えた。
 どうやら、袴田という男は、あざといところもあれば、容赦なく友達を切る捨てるという、
「自分のことだけしか考えない、自分勝手な男なのだ」
 という、そんな印象が深まってしまうのであった。
「山内さんの方はどうでしょううか?」
 と、刑事は聞いた。
「山内という男は、袴田とは、一対一の関係ではあったけど、他の人とは普通の友達関係だったんです。彼はそういうところは器用に友達関係を続けることのできる男だったんです。結構、気さくなところがあって、結構体格もいいので、まわりに対しても目立つ存在ではありましたね、そういう意味では、身体も小さく、あまり目立たない袴田とは、まったく対照的だったと言ってもいいかも知れないですね。ただ、山内はあれで結構女の子には人気があったんですよ。我々のバンド仲間の中では、一番モテたかも知れない。でも、彼は袴田のようにすぐに行動に移して、玉砕することはない。もう少し明るい性格だったらまったく違ったかも知れないんですが、普通にしていればモテるはずなのに、そのギャップが彼には悪い方に影響しているようです」
「そういう残念な男性というのは、結構いるのではないでしょうか? 山内氏の方は、そんなに女性に告白したりする方ではなかったんですか?」
「そうですね。彼はあまり女性に興味がなかったかも知れないですね。ところで、この二人について、話をしているうちに、いろいろなことを思い出してきました」
「それは二人の関係についてですか?」
「まあ、そういうことになりますかね? まず一つは、山内には、ゲイのウワサがあったんですよ。女性にあまりにも興味がないということが一つと、いつも一人でバーに出かけていたようなんですが、そこがいわゆるゲイバーではないかと言われているところだったんです。ただ、誰も彼がゲイの様子を醸し出しているところを見たわけではないので、あくまでもウワサでしかないんですけどね」
 ということだ。
「もう一つは?」
「もう一つは、大学二年生の頃でしたか、山内は袴田に、お金の無心をしたことがあるらしいんです、よほど困っていたのか、数人から、少しずつお金を借りるということをしていました。当然、よほど信頼している相手ではないと、お金を借りようとはしないでしょうから、山内にとって、袴田という男は、かなり信頼のおける相手だったんでしょうね。それが金銭的なことなのか、人間性ということなのか分かりませんけどね。でもその時、袴田は、一刀両断で断ったそうです。秒殺だったようですよ。きっと、袴田にとって、いくら信頼のおける友人であっても、お金の貸し借りはご法度だという考えを持っていたのではないかと思うんです。これも袴田という男を表す一つに指標のようなものではないかと思われますね」
 というと、彼は少し溜息をついた。
 どうやら、大学時代のことを思い出しているのだろう。そのうえで、溜息をついたのだ。
 溜息をつきたくなる何かがあるのだろうが、今の話を訊いている限り、二人の関係は、同じような友達関係を築いている仲間内にも、どこか歪な関係に見えているようで、それがため息に繋がったのではないだろうか。
 刑事もつられて、思わずため息を漏らしたが、これは彼の溜息とは違い、こういう関係で成り立っている友人がいるということへの違和感だったのだ。
 山内にとって袴田が、袴田にとって山内がどういう人間なのか分からないが、どうやら、山内は、女性関係のことに関して、袴田に対して尊敬の念を抱いていたということであり、その思いからか、山内は、袴田が信頼の厚い友人であると思って、お金の無心をしたが、袴田としては、
「それとこれとは話が別」
 ということで、あっさりと、友人の申し出を断るという冷徹な部分があるようだった。
 これは、相手が山内だったからなのではなく、誰にでも同じ態度だったと友達は言っているが、実際に困り果てて、悩んだ挙句、袴田に頭を下げるという屈辱にも耐えてお願いしたのに、秒殺で断られるということになると、下手をすれば、恨みに思うのではないだろうか。
 恨みに思わなかったとしても、二人の間の関係にひびが入るくらいのものだろうと思えた。袴田という男、どこまで冷徹なのか、刑事はこの間、袴田に会った時のことを思い出していた。
――なるほど、彼がいうような性格だと言っても過言ではないかも知れないな――
 と思った。
 さらに、山内は袴田とはずっと会っていなかったと言ってが、そんな山内が袴田に会った時に、まず最初、何を考えるのだろう?
――尊敬の念が浮かんでくるのか、それとも、お金を借りようとした時、けんもほろろに秒殺で断られた時のトラウマや屈辱がよみがえってきたのか、どっちなのだろうか?
 と感じていた。
 ずっと、音信が不通だったのも、敢えて山内が連絡を取らなかったからなのかも知れない。袴田という男の性格から考えて、すでに卒業してしまったことで、一度切れてしまった山内との友人関係が復活することはありえないだろう。
 社会人という環境が変わったことで、一度リセットして、大学時代と同じような一対一の友達関係を築ける人を探したに違いないからだ。
 山内も同じだったに違いない。二人は十年近くも疎遠だったと言ってもいいかも知れないが、突然の出会いで、どちらかが、
「まるで、大学時代が昨日のことのようだ」
 と感じたのだとすれば、それが懐かしさになって、よみがえってきたのだとすれば、その人の方から、
「募る話もいろいろあるだろう。どうだい? ちょっとお茶していかないか?」
 というような話になったのではないだろうか。
 だが、どちらからもそのような申し出はなかったという。袴田はその後に用事があるということを言ったようなので、それも無理はないことなのかも知れないが、山内の方としても、現在は借金があって首が回らない状態になっているので、まずお願いしても、絶対に貸してくれるわけのない人を相手にする時間もないというものだ。
 しかし、逆に、そんな借金まみれで疲れ切った状態なので、気分転換という意味で、話がしてみたいと思ったとしても、それは無理のないことだ。
 そのとこを、取り調べの時にまったく口にしなかった山内だった。あくまでも、
「袴田という男に出会った」