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バラとスズラン、そして、墓場まで……

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「あの二人は、特別仲がいいというわけでもないし、かといって、よくケンカをするというわけでもない。お互いを干渉しあうことはしないというくらいの関係ではないかな?」
 ということであった。
 大学時代のことは、本当はある意味関係のないことだが、その頃の仲に寄って、卒業してからも、連絡を取り合うような仲であるかということは想像がつく。大学時代の仲間の証言からすれば、実に曖昧で、どちらとも取れる話であった。
 あとは、袴田が入社した会社での評判を聞くくらいだが、会社の方でも、別に新たな証言が出てくることはなかった。ただ、一人だけ気になることを言っていたとすれば、
「袴田というやつは、結構女には甘いかも知れないですね。すぐに女性を好きになって、たまに我を忘れるくらいに気になってしまって、いきなり告白して、玉砕することも結構あったんですよ」
 と言っていた。
「そんな話、他の誰からも出てこなかったけど?」
 と聞くと、
「袴田というやつは、友達を自分の立場や考え方によって、うまく振り分けているやつなんですよ。すべてにおいて相談する相手が一人だということはなく、それぞれの悩みや感情ごとに友達が違っているんです。仕事のことなら、誰々、金銭問題なら、誰々、恋愛関係なら誰々という感じでですね。俺は、彼からすれば、恋愛担当というべきか、だから、俺はやつのことは恋愛関係に関しては他の誰よりも詳しいが、それ以外のことは、まったく知らないのさ」
 と言っていた。
「そういう友達関係というのもあるんだね」
 と刑事に聞かれて、
「そういうのって、結構多いかも知れないですよ。だから、彼について、いろいろな人に聞けな、皆それぞれ違った観点からしか言わないので、後で、その性格を組み立てようとすると、結構厄介だったりするんですよ」
 と言われた刑事は、
「それだったら、自分の中でどの部分を補ってくれる友達かということを吟味して、友達を選ぶことになるから、人によっては、同じ種類の友達を複数持つことにどう感じるかによって、友達を取捨選択することになるんじゃないのかな?」
 と言われた彼は、
「それはあると思うけど、袴田の場合は、一つのことに対して一人というのが彼の性格のようなんですよ。何かの相談をするのに、複数の人に相談して、その内容がそれぞれに違えば、却って悩んでしまうことになるでしょう? それを袴田は嫌っていたんですよ」
 という。
「なるほど、それも分からなくもないけど、でも、一つのことに一人では、少し不安なんじゃないかな?」
 と刑事がいうと、
「そうですかね? 僕が袴田だったら、同じように、一つのことには一人と考えますけどね」
 と言った。
 刑事が考えたのは、
「これが大学生の発想なのかな?」
 ということであったのだ。
「でも、そんなにおかしなことではないですよ。最近が、そういう幾何学的な発想をする人も増えてきていて、そういう連中が集まっているから、余計にどんどん増えてくるんです。だって、一人対一人という関係が増えてきているわけだから、一人が繋がっていくわけでしょう? しかも類は友を呼ぶという。幾何学的な頭の構造を持った人間が集まれば、そういう勢力が生まれてきてもいいのではないでしょうか?」
 というのだった。
「そんなものなのかな?」
 と、まだ刑事は理解できないようだった。
「だって、皆さん、漠然と友達ということで、一種にいる時間があったとして、そんなにたくさんのことを話題にしたりしますか? その時にはその時の話題があるのであって、複数の話題で盛り上がったりしないでしょう? 悩みの相談がある時などはむしろそのことだけに集中して話すじゃないですか。それが友達を一対一にしておけば、それだけ専門的な話になって、普通の友達と漠然と話すよりも、解決策を見出せるというものです。一足す一が三にも四にもなるんですよ。これは画期的な友達関係だとは思いませんか?」
 というではないか。
「なるほど、確かにそうかも知れないですね。画期的という言葉を聞いて納得しました。言われてみればその通りですね」
 と刑事はそう言って納得はしたが、理解はしていなかった。
――こんな形式的な友達関係というのは、寂しい気がするな――
 と感じたからだ。
 しかし、これが今の大学生の発想だということであれば、それは、彼らを取り巻く大人の環境が、そういう子供たちのルールのようなものを作ったのだと考えると、感無量の心得であった。
「ところで、袴田さんと、山内さんは、バンド仲間だというだけの関係だったのですか?」
 と、今度は刑事は今の話を踏まえたうえで聴いてみた。
 すると、その友達も今の話をした上で聴かれたので、
「これも、ある一点に限っての友達だったと言っていいと思いますね」
 という。
「それは、どういう種類の友達だったんですか?」
 と刑事が訊くので、
「女関係だと思いますよ。ただ、先ほど、特別仲がいいというわけではないと言いましたが、友達としての仲の良さというのは、お互いに平等な立ち位置にいる場合のことをいうと思うんです。でもあの二人の間には、明らかな上下感銘のようなものがあったと思うんです。ただ、一対一の関係なので、それほど目立っているわけではないですけどね。むしろ、一対一の関係になっている時、えてして、こういう上下関係というのは、生まれがちなのではないかと思うんですよね」
 と彼は言った。
「よく分からないけど、そお上下関係というのは、主従関係という感じなのかな?」
 と刑事は聞いたが、
「それは少し違います。あくまでも上下関係というだけのことです。上のものは下から尊敬の念を浴びせられ、上のものは、下のものを上に導こうとする。会社の役職に似ている感じですが、会社の役職者に責任がすべてのしかかるようなお互いの関係ではないんです。だから、表に出てくる感じでもないし、二人の関係をよく見ていないと、分かるものではないそんな関係なんです」
 と、友達はいった。
「じゃあ、あなたと、袴田氏との間に上下関係のようなものはあったんですか?」
 と聞かれた彼は、
「私はなかったと思います。彼に対して尊敬の念を抱いたことはありませんし、自分が上なので、彼を自分の世界に導こうという考えにはなりませんでした。それはきっと私の性格からの問題だと思っています」
 というので、
「じゃあ、山内氏と袴田氏とではどっちが上だったんですか?」
 と聞かれた友達は、
「袴田の方ではなかったですかね? でも、袴田という男は、尊敬の念を抱かれても、心のどこかで、自分が自分だと思っているので、自分から相手を上に引き上げようとはしないんです。ただ、引き上げようという素振りはあるんですが、本気では思っていないんですよ。だからまわりから見ていると、あざとく見えるんです。そういう意味で、袴田とつるんでいない人の中では、袴田という人間を嫌いなやつも結構いたんじゃないですかね?」
 ということだった。
「じゃあ、袴田さんに恨みを持っている人もいたかも知れないということでしょうか?」