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バラとスズラン、そして、墓場まで……

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 と一人の刑事が言った。
「なるほど、捕まったとしても、借金取りからは、一時的に警察内部ということで、逃れることができる。さすがに強盗までしでかすことになるとは思っていなかったけど、やつにしてみれば、少しでも警察内部にいることで安全であれば、それでよかったのかも知れないな」
「でも、しょせんは応急的な避難でしかないわけでしょう? 出所すれば、また借金取りに追われることは決まってるからね。それに、もし実刑にでもなれば、仕事も何もかも失うことになって、そこから、残ったのは借金だけでは、却って最後は自殺の道しか残っていないことにあるじゃないですか、どっちにしても、地獄ですよね。これこそ、ジレンマのようなものだと言えるんじゃないだろうか?」
 と一人の刑事がいうと、
「こういう男は結構いるからね。その場限りの判断で犯罪を犯す人間がね。だから、世の中は怖いんだ。一つ歯車が狂ってしあうと、そこから先は、負のスパイラルに落ち込んでしまって、本当は二重らせんの反対側であれば、いい方に傾いていくはずなのに、最初の一歩を間違えたことで、奈落の底に転落するだけになってしまう。それを運命というべきなのか、ジレンマに陥った人間がどのようになるのか、精神的に意識がなくなってしまうかも知れない」
 と、捜査主任が言った。
 この話を訊いていると、先ほどの袴田の話を思い出した。
――やつも、何か思い切った行動に見えたが、ただ、計画もなしにやっているのかも知れない。むしろそっちの方が信憑性があるし、お互いに似た性格の二人が一つの事件に片方は直接、片方は間接的に関わっていると思うと、おかしな気がする、これも、一緒にジレンマというものだろうか?
 と、感じたのだった。
 それにしても、実際の強盗傷害事件は、かなりいい加減なものだった。計画性もまったくなく、そもそも物色しているところに、普通に家主が帰ってくるなど、お粗末と言っても過言ではない。
 家の住人が旅行にでも行く予定であったが、何かのトラブルで、現場に行ってみると、キャンセルしなければいけなくなり、帰ってきてしまったというような特別な理由でもあればしょうがないのかも知れないが、家族の誰かが急病で、その手伝いに出かけていたというだけで、帰ってきたことが突発の事故だったわけではなく。出かけることの方が、突発的なことだったのだ。
 したがって、出かけると決まったのもいきなりのことで、そんな状態なので、帰ってくるのがいつなのかも分かるはずがない。
 ただ、家族で慌てて、身支度をして出かけて行ったというだけで空き巣に入ったのだから、よほど計画性がなく、さらに、現金が必要だったということであろう。
「そもそも、家に入ったとして、現金が家になかった時のことを考えていなかったのだろうか?」
 ということになる。
 今回捕まった容疑者の山内は、確かに今まで空き巣などしたことのないような男で、ここまでずさんな計画を立てる男では見ている限りはありえない。しかし、状況証拠と、防犯カメラなどの、ある意味。
「動かぬ証拠」
 がなければ、疑われることはないだろう。
 そもそも、被害者の周辺に、そんな間の抜けた男がいるとは思わなかった。そういう意味では、借金に追われているという事実は、彼を脆弱でお粗末な犯行に突き進ませたという意味で、ありえないことではないようだった。
 状況証拠、さらには動かぬ証拠という、彼が犯人だと指し示すものが完璧であればあるほど、この犯行における犯人の間抜けさは、まるで最初から間抜けだと思わせて、犯行を晦ませようという計画ではないのだろうか?
 この両極端さは、この事件の特徴でもあった。
 犯人が山内でないとしても、事件に何らかのつながりがあるとすれば、彼と出会ったと証言する袴田という男も、怪しい部分はたくさんある。
 それぞれに両極端で、矛盾している状態を見ていると、どこかにジレンマが潜んでいて、頭がうまく回っていないようだ。
 二人とも贔屓目に見て、もう少し頭がいいのではないかと思ってみればみるほど、うまく噛み合っていない。
 いや、逆に噛み合っていないと思わせることで、事件をカモフラージュしているのではないかと思うと、見えない何かの力が働いているのではないだろうか。
「この事件を捜査していると、何か調子が狂ってくるんですよね。考えれば考えるほど、お粗末な感じがしてですね」
 と一人の刑事がいうと、
「やはり、証拠があまりにも揃いすぎているのがあるからではないですか? 昔からよくいうじゃないですか、証拠が揃いすぎている場合は、何か怪しいと思うべきだってですね。それに、一番犯人だと思えるような人が、実は犯人ではなかったなんて話も多く聞くでしょう?」
 と言い返した。
「でも、それって探偵小説などの話ですよね。小説と現実を混同すると、話がややこしくなりませんか?」
「そうなんですよ。だから今混乱しているんじゃないですか。事実があまりにも強くて。鉄壁のような感じになっていることから、謎解きの常套手段のような、教科書的な解決方法で考えるから、お粗末な計画に見えたり、どこか本末転倒に見えたりするんですよ。つまり、ジレンマがどこかで逃げ道になっていて、その逃げ道を伝っていくと、三途の川に入っていたようなそんな感覚とでもいえばいいんでしょうかね」
「ジレンマという言葉は、まさに的を得ているような感じですよね。犯人の頭脳と、我々捜査員の頭脳のどちらが強く、正しい結論を見出すことができるか。実に見ものですよね」
 捜査本部では、調べてきた事実関係を公表するところまではいつもと同じだったが、それを一つ一つ考察していこうとすると、矛盾が生じてくるようであった。
 普段の捜査会議は、一つ一つをホワイトボードに書き込んでいき、それが推理の元になるのだが、今回の場合は、明るみに出ている事実と、表に出てきていないものとが、半々のようで、事実が明らかになるにつれて、不明点が同じように増えていくといった。
「解決していけばいくほど、謎が増えてくる」
 という、矛盾のようなものが、生まれてくるのだった。

            歪な友達関係

 物証、もっといえば、確固たる証拠とも言うべきものがあるのに、証言が出てきたことで、事件は暗礁に乗り上げた。もちろん、証言が出てきたことで、その証言が本当に正しいものなのかという立証もしなければいけない。
「証言の立証」
 などという実にまどろっこしいことは、本当はしたくないのだが、この場では、証言を打ち消さなければいけないという状況に迫られているので、それも仕方のないことだった。
 容疑者自身が語ったことを、きちんと証言したのだから、ウソだというわけにはいかない。ウソだとするにしても、それを立証しなければいけない。まるで、製造者立証責任のようなものではないか。
 まずは、証言をした袴田という男のことを調べなければいけない。この男がどれほど容疑者と関係が深いのかということによって、証言の信憑性が変わってくる。
 大学時代に、同じサークルだったということは最初から分かっていることであり、まずはその当時の同じバンド仲間に聞いてみたが、