小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

バラとスズラン、そして、墓場まで……

INDEX|5ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 今回は殺人事件とまではいかないが、
「強盗傷害事件」
 なので、強盗というのが大きなところである。
 これが、監禁あったりすると、もっと罪が重いのであろうが、細かいところでは、住居不法侵入なども重なり、犯罪としては、重いものであろう。
 もっとも、犯人が誰であるかということも大きな問題だが、それに反映してか、
「動機は何なのか?」
 という問題が一番大きいに違いない。
 刑事は、結構袴田からいろいろと聞くことができたような気がしたが、残念なのは、容疑者である山内本人のことを詳しく聞くことができなかったということだった。
 この日以降にも、袴田と会うことがあろうとは、その時刑事は思っていなかったのだが、一応、
「今回はこのくらいで結構です。ご協力ありがとうございました。今後も、またご協力をお願いすることがあるかも知れませんので、その時はよろしくお願いいたします」
 と、刑事は言った。
 それを聞いて、袴田が一瞬ビクッとしたのを刑事が気付いたのかどうか分からなかったが、さすがに、袴田は二度目はないだろうと感じたのだ。
 刑事は、袴田からの聞き取りを一時間くらいで済ませていたのだが、感覚としては二時間くらいは話をしていたような気がする。話の内容は深いものではあったが、事件に関しての核心に触れるものはなかった。その分、時間を長く感じたのかも知れない。
 袴田との話を終えて、すぐに帰るのも何なので、近所で、少し話を訊くことにした。以前から袴田が山内に接触をしていたのだとすれば、話が変わってくるからである。
 近所の人に話を訊くというよりも、山内の写真を見せて、見覚えがあるかどうか聞きたかったのだ。数人に話を訊いてみたが、誰も知らないと言った。しかし、その中で一人の奥さんが興味深い話をしていた。
「話は変わるんですけどね。袴田さんのところ、よく女の人が来ていたわね」
 というのだった。
 袴田という名前を出したわけでもないのに、どうして、急に袴田の話を持ちだしたのか、そのあたりがおかしいのではあるが、よほど、その奥さんは、袴田について、気になるところがあったに違いない。
 刑事もその言葉を聞いて、
「袴田さんは、確か婚約されているんじゃなかったですか? 女性がくるとすれば、その婚約者さんなんじゃないですか?」
 と聞くと、
「でもね、いつも同じ人というわけではないの。まったくタイプの違う女性だったので、婚約者さんとは違うタイプの女性とお付き合いしているんじゃないかしら?」
 と奥さんは言った。
 確かに、まったく違うタイプの女性も好きだという男性もいるだろう。幼く見える女性を可愛いと思うこともあれば、年上の女性に甘えてみたいと思うことだったり、同じ男性が両極端に違うタイプの男性を好きになることも、決して珍しいことではないだろう。
「どんな風に違うタイプなんですか?」
 と聞くと、
「そうですね。自分が甘えさせたいと思うような女の子の時もあれば、年上に甘えたいという慕いたいと思わせるような女性の両極端ですね」
 と、まさに、刑事が感じたそのままの感情を奥さんは話したのだった。
「奥さんは、どちらが婚約者だと思われますか?」
 と聞くと、
「何とも言えないんですが、どうも二人とも、婚約者ではないような気がするんですよ」
 というではないか。
「つまりは、見かけた二人は、浮気相手だということですか?」
「ええ、そうとしか思えないんです。もしどちらかが婚約者だったら、もっと楽しそうにしているはずですし、同じように、一目を避けるようにしているんですよ。でも、その割には隠しているという様子もない。まるで、誰かにならバレてもいいという感覚でしょうか?」
「というと、それはまるで、婚約者にはバレてもいいということですか? 本来なら一番バレると困る相手だというのに」
 と刑事が言った。
「そうでしょうか? もし、彼の方が婚約者に愛想を尽かしていれば、婚約者にバレてもいいと思うようなことをするかも知れませんよ」
 と奥さんは平気でいうと、
「だって、そんなことをしたら、契約不履行で、訴えられるでしょうね。そんなリスクを犯してまで、変な芝居を打つでしょうか?」
 と、刑事は言った。
「もし、婚約者の片方も不倫をしているとすれば、どうですか? そして、彼がそのために彼女に嫌気がさしているとすれば、どうでしょう? でも、かなり危険な綱渡りであることは間違いないですが、うまくいけば、このやり方が一番効果的に別れることもできるし、後腐れないということになるんじゃないですかね? お金はとれないかも知れないですけどね」
 と、奥さんはかなりきわどい人間関係の話に踏み込んでいた。
「まあ、でも、弁護士が立ちふさがってくるので、証拠を突きつけられると難しいのではないだろうか?」
「そうかも知れないですね。計画通りにいかないと、結果は目に見えていますからね。本当に綱渡りですよ」
「そこまでしないと、どうしようもないところまで来ているのかも知れない」
 と奥さんは言った。
 どちらにしても、袴田は何かを計画していることに変わりはないようだ。
 だが、それは別に個人間の私的な問題で、民事事件に警察が介入することができないので、ただ、話を訊くだけになってしまった。
 一つ気になるのが、彼に何かの計画があるとすれば、今回の事件にどのように関係してくるかということである。
 このことが、袴田にとってどのようなことになるのか分からなかったが、最後に分かったこととしては、
「あの時のあれが、事件にとっての、ジレンマのようなものだったんだな」
 というものであった。
 とりあえずは、今の時点で、このことがクローズアップされることはない。刑事としては頭の中に引っかかってはいたが、それ以上でもそれ以下でもないというだけのことであった。
 刑事課に戻ると、他の捜査員の刑事も戻ってきていた。さっそく捜査会議が開かれることになったのだが、
 他の刑事が興味深いことを聞きこんできたようだった。
「私は、容疑者である山内の情報を探ってきたのですが、どうやら、消費者金融に借金があるようですね」
 ということであった。
 犯罪を犯すほどの人間なので、何かしらそのような後ろめたいことがあっても不思議ではない。この話が、動機として大きくクローズアップされてきた。
「借金って、どれほどなんだい?」
「何でも、一社だけではなく、複数から借りていて、数百万にはなるようです。とても今の彼の収入では、帰せるあてもないでしょうね。何しろ、もう他からは借りれないほど、金融界のブラックリストにも載っているくらいですからね。取り立てもかなりのものだったんじゃないでしょうか?」
 ということだったが、
「だからと言って、空き巣くらいで、借金が返せるまでになるんだろうか? 強盗傷害になった家だって、小金は十分にためていただろうが、空き巣に入ってすぐに手に入るような金を家の中に貯め込んでいるとは思えないけどな」
「それは、やはり、今回のようなずさんな計画から言っても、計画性はなかったんじゃないですかね? とにかく目の前のことをいかにして、逃れることができるかしか考えていないでしょうからね」