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バラとスズラン、そして、墓場まで……

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 だから、いちかの強い部分と、弱い部分を見ているので、先ほどの刑事に対する毅然とした態度に対して、最初は、
――これって本当にゆい?
 と感じたが、すぐに我に返ったように、
――ああ、やっぱりゆいなんだ――
 と感じたのだった。
 いちかはそんなゆいを見ていると、本当に自分も自分に自信がないのかも知れないと感じるようになっていた。
 ゆいは、自分で感じているよりも、よっぽど自分に自信を持っている。いや、自信を持てるようになってきたのだということを感じてきたのだ。
 刑事はゆいの毅然とした態度に驚いて、いや、驚いたように見えたが、結局、それ以上は何も聞かなかった。いちかは、この事件に興味を持ったのか、
「刑事さん、お話できるところでいいので、この事件が一体どういうことだったのかというのを、教えてくれると嬉しいですね」
 と言われた刑事は、
「そうですか。お二人とも、まったくこの事件について知らないわけですね?」
 と言われて、いちかは。
「ええ、知りません。今初めて聞いたというのが事実です。ゆいは、どうなの?」
 と聞くと、
「ええ、私も知りませんでした」
 という答えが返ってきた。
「そうですか、最近、この街は平和だったので、警察では今、一番の事件にしていたんですよ。言われてみれば、新聞の記事も小さなものでしたからね」
 と言って。事件のあらましを話してくれた。
「じゃあ、防犯カメラと指紋が決めてになったというわけですか?」
「ええ、それだけでも起訴するには十分なんですが、これだけの証拠があっても、山内は白状しません。そのために、アリバイの裏付けを取っているわけです」
「それで、私たちのところに来たわけですね?」
「ええ、山内は、大学時代の友達である袴田と出会ったと言った。それで袴田さんに聞いてみたわけですが。袴田さんは、どうも煮え切らない。ハッキリ分からないという感じでしょうか? それで、袴田さんと山内の人間関係を調べてみると、松下さんに行き当たった。そして、山内の証言の中で、永瀬さんの話も出てきた。それでまず永瀬さんのところを訪れたというわけなんですが、まさかそこに松下さんもいるとは思ってもいなかったので、こちらもビックリです。ちなみに。山下さんが、ストーカー被害に遭われていて、うちの生活安全課に相談に来たという情報も得ています。何でもバラとスズランの二つがキーになっているようなことを聞いたんですが、それは分かりましたか?」
 と刑事に聞かれて、
「いいえ、まだ分かっていません。でも、そのことと、今回のことが何か関係があるというんでしょうか?」
 とゆいが聞くと、
「いいえ、ハッキリとは分かりません。ただ、事件の捜査の上で浮かんできたあなたが、ストーカー被害に遭っていて、謎のキーワードが残っているというのは、何か繋がりがあるのではないかと思うのも、無理のないことではないでしょうか?」
 と、刑事は、何か話を無理やりにでも結び付けようとしているようだった。
「ひょっとして、山内という人、他に何か秘密があるのかも知れませんね。今回の事件でも、それなりに話をしているけど、あれだけの証拠があるのに、余裕があるわけですよね? この事件で起訴されてもいいと思っているのかも知れません。もしそうだとすると、起訴される方がマシな何かが彼の後ろにはあって、そっちのことがバレてしまうことを怖がっているとすれば、不思議な様子も理屈に適っているのではないでしょうか?」
 と、ゆいはいうのだった。
「じゃあ、松下さんの考え方としては、山内が今逮捕されて尋問を受けているのは、何かわざとのような気がすると言いたいんですか?」
 と刑事がいうと、
「いえ、ハッキリとした確証があるわけではないのですが、今の時代、何かの犯罪を犯そうとするには、結構大変な時代ですよね? いたるところに防犯カメラはあるし、車にだってボイスレコーダーがついている。科学捜査も発展していて、髪の毛からDNA鑑定ができたりする。アリバイトリックや、死体損壊トリックなどというと、ほぼ、昔の探偵小説でしかないですよね、しかも、探偵小説の中のトリックは、ほとんど出尽くしているんですよ。つまり、後はそのトリックを生かすために、ストーリーを豊かにするバリエーションを展開させることが、ストーリー上のトリックであるかのようなものだと私は思うんですよ。実際に最近のミステリー小説、特に海外モノはそういう話が多いと聞いたことがあります。だから、表に出ている事実だけをまともに信じて読んでいると、見えてくるものも見えてこなくなるんじゃないでしょうか?」
 とゆいが言った。
「でも、これは実際に起こった事件の捜査なので、ミステリー小説を持ち出してくるのはちょっと違うんじゃないかしら? 特に昔の探偵小説ともなると、本当に作風が違っていたりするから、捜査上混乱するような気がするんだけど」
 と、いちかが言った。
 その話を訊きながら、刑事は黙って聞いていたが、それは、ゆいが何かに気づいたことを、いちかが引き出しているかのように思い、
――これが、この二人の人間関係なのかも知れないな――
 偶然とはいえ、一人の事件関係者のところにいくと、そこにもう一人の事件関係者がいた。二人は本当に関係のある二人だとは思っていなかったので、意外ではあったが、話をしてみると、二人は鋭いものを持っていた。
 刑事もゆいが何かを感じているのが分かった。そもそも、鋭いところがある人なんだろうという思いを抱いた。そして、そのことを少なくともいちかは分かっていて、いちかの方もゆいとの会話の中で、自分の言葉が助言となって、ゆいの鋭い考えと一緒になって、さらに意見を誘発しているのかも知れないと感じているのではないかと思えたのだった。
 いちかの疑問に対して、ゆいが答えた。
「ええ、確かに実際の事件と小説を混同するのは、混乱を招くことになると思うんだけどね、でも、もし自分が犯罪を考えるとすれば、何もヒントがないところから考えたりする? 少なくとも、何かの題材になるものがないかということで、ミステリー小説を読み漁ったりしないかしら? もちろん、ミステリー小説を読んだからと言って、簡単にトリックが思いつくわけでもない。だけどさっきも言ったように、トリックというのは、ある程度出尽くしていて、あとはバリエーションなので、トリックからストーリーを紡いでいくと考えると、それこそ、作家の手法でしょう? だとすれば、事件を解明していく方は、犯人が考えたであろうと思われる段階を、最初から、自分が犯人になったつもりで、時系列で追いかけていくか、あるいは逆に出てきた結果から遡って行って、事件の全貌を見つけようとするかのどちらかになるのよね? 多分、刑事さんたちは後者なんでしょう。事実から、裏付けを取りながら、証拠を固めていって、犯人を割り出し、その時には、言い訳できないほどの証拠を持っているのが前提なのよね。今回のように防犯カメラであったり、指紋などというのが、いわゆる動かぬ証拠ということになるんでしょうね」
 とゆいがいうと、