小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

バラとスズラン、そして、墓場まで……

INDEX|22ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

「だって、占い師としての職業でもないし、友達としてアドバイスをしていると言えば、騙しているわけではないという風に見えるわよね。騙されている方も、騙されているなどと思っているわけでもないし、友達などが、あの子騙されていると思って、下手に忠告しようものなら、自分が幸運を掴もうとしているのを邪魔するのか、嫉妬しているだけではないかと却って、責められるのは分かっているから、どうしようもないよね。マインドコントロールというのは本当に怖いし、そのための常套手段が、人間の心理を裏側から見ているようなバーナム効果というのは、相当の威力があるんでしょうね」
 と、いちかがいう。
「今のお話で、バーナム効果や、マインドコントロールということは分かったような気がするんだけど、さっき話していた、逆バーナム効果というのはどういうことなの?」
 と、ゆいに聞かれ、
「ああ、あれはね。さっきあなたが、少し私に対して嫌な思いをしたでしょう? 私があなたの傷をほじくり返しているかのようないい方をしたからね。あなたにとっては、今まで信じていた人に対して。怪しいと思うようになってきただけど、そう思った矢先に、私がズケズケとあなたの領域に入り込んで行って、あなたはそれが訝しかったはずよ。私が私のことで悩んでいるのに、そんなにズケズケと入り込んで、しかも悪口をいうなんてと思ったでしょうね。そして、悪口を言えるとすれば、私だけのはずなのにと思ったはず。それも私には想定範囲内のこと。私はそこで、あなたに対して遠慮なく、あなたの傷口を探しあて、そこに、塩を塗るようなマネをした。あなたは、痛みから、平静さをうしなって、とにかく私に負けないように言い訳しなければいけないというジレンマに陥ったのよね。そして、私が繰り出すマシンガンを、ひとつ残らず打ち返すことだけに集中した。どんな言葉でもいいので、何とか言い返すということだけでもできればいいと思ったことで、あなたの中で、普段から感じている誰にでも当てはまるような言葉が無意識に口をついて出てきたというわけなの。つまり、人は、誰でも自分が人と同じであることに安心しているのよ、人と違うと言われると、普通だったら嫌だって思うじゃない。それは今までそういう教育を受けてきたからなのよ。特に親からの世間体を気にすることなんかがいい例でしょう? ご近所が見てるんだから、恥ずかしい恰好しないでよ、などというのは、あれこそ、一番のマインドコントロールなのよ。皆、大なり小なり、自分の中にバーナム効果を持っているということ、だから心理学の現象として、学説が成立しているんじゃない」
 と、いちかは言った。

                  刑事の訪問

 ゆいに、いちかがいろいろ話をしていて、逆バーナム効果の話に入ってくると、気付かなかったが、時間はすでに夕方近くになっていた。午前中にやってきていたのに、まさかこんな時間になっているとは思っていなかったというのが、いちかの考えであったが、それ以上にゆいの方では、
「あれだけ悩んでいて、顔色も悪かったであろう自分が、こんなに元気になるのだから、これくらいの時間が経っているとしても、それは別におかしなことではないわよね」
 と思っていた。
 だが、話に切れ目がなく、ずっと話をしていたのだから、二人は基本的に時間の感覚がマヒしていたことは間違いないようで、完全に二人だけの世界に入り込んでいたと言ってもいいだろう。
 それをぶち破ったのは、激論を重ねているはずなのに、静寂の感覚があったのか、急に電子音が鳴って、それが来客を告げるものであることに、来訪者のゆいはおろか、住人であるいちかまでが気付いていなかったということは、やはり、それだけ二人だけの世界に入り込んでいたということだろう。
「ごめん、誰か来たみたい」
 と言って、いきなり現実に引き戻されたゆいは、しょうがないと思いながらも、セックスをしていて、いけなかった時のような不満がたまってしまったような気がして、若干苛ついていた。
「はい、どなたでしょう?」
 といちかが、インターホン越しにそういうと、
「私はこういうものです」
 と、写真付きの黒い手帳を示された。
「刑事さんが私に何か?」
 と、ゆいが一緒にいることで気まずいと思ったが、却って、度胸が出た気がしていた。
「ええ、ちょっと、永瀬いちかさんにお伺いしたいことがありましてね」
 と言うので、
「ええ、どうぞ」
 と言う会話を聞いたので、
「じゃあ、私はこのあたりでお暇しますわね」
 とゆいが立ち上がったが、その前に刑事が入ってきた。
「ああ、ご来客中でしたか?」
 というので、
「ええ、前に勤めていた会社の同僚だった女の子なんですけどね」
 というのを聞いた刑事は、少し考えてから、
「あなた、お時間おありですか? よければ、ご一緒にお話が伺えればいいんですか」
 ということであった。
 普通であれば、一人の主婦を訪ねてきたのに、もう一人を一緒に聞き取りをするというのは、別に、犯人扱いをしているわけではなく、ただの参考意見を伺うという意味での訪問ということなのか。そして、その案件と、いちかが前に勤めていた会社とが何か関係があるということなのか、そんなことを考えながら、刑事が話し始めるのを待った。
 とりあえず、紅茶をさっき作ったので、来訪してきた二人の刑事の分を作って、二人の前に置いた。
「ほう、ローズの香りですね」
 と言って、刑事は、紅茶の香りに感じ入っていた。
 ローズと聞いて、ビクッときたのは、ゆいだった。さっきまでバラの話をしていたからだったが、さっきは、話に夢中になりすぎていたからなのか、ローズの香りにさえ気づかなかったということは、それだけ話に集中していたということであろう。
「おかまいなく」
 と口では言った刑事だったが、一口おいしそうに口に含むと、
「これはうまい」
 と、感心していた。
 それを見て、いちかは微笑んでいたが、先ほどとは明らかに違う。さっきまでは完全なマウントを自分が握っていたにも関わらず、突然の刑事の出現で、さっきまでマウントを握っていた相手の前で、このような醜態を曝け出すことになるなど、想像もしていなかったと感じていることだろう。
「ところで刑事さんは、何を聞きたいのでしょうか?」
 いちかが聞いた。
「あなたは、袴田正幸という男性をご存じですか?」
 と刑事に聞かれて、いちかは、一瞬声も出ない様子だったが、それよりも、奇声を挙げたのは、ゆいの方だった。
「えっ?」
 と思わず声が漏れてしまった。
 それには、その場にいた三人が、ゆいを見つめることになったのだが、最後に遅れて顔を見たのが、いちかだったのだ。
「あなたは、袴田という男をご存じなんですか?」
 と言われて、
「ええ、袴田さんは、、私の婚約者なんですよ」
 というのを聞いて、二人の刑事はビックリしていた。
 しかし、それを聞いてもいちかはビックリしていなかったが、いちかは知っていたのだろうか?
 少なくとも、ゆいが自分から話したという覚えはなかった。ゆいの中でいちかに対しての疑惑が盛り上がった。