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バラとスズラン、そして、墓場まで……

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 その友達というのは、ゆいが勤めている会社の先輩だったが、二年前に結婚し、警察署の近くのマンションに住んでいる奥さんだった、
 仕事は寿退社ということになり、子供はまだなので、余裕のある時間、、スーパーにバイトに出るくらいのものであった。
 さっそく連絡すると、
「そう、近くまで来ているのであれば、寄って行けばいい」
 ということで、とりあえず、先輩のところに行ってみるころにした。
 先輩は名前を永瀬いちかと言った。二人はお互いの名前を下の名前で呼び合うほど気心が知れていて、今までにも何度もお互いの恋愛相談に乗ってきた。
 今でこそ、幸せな新婚生活を送っているいちかであったが、結婚前には結構いろいろあって、それは、旦那にウワサが結構あったことがその理由だった。
 実はその旦那は、ゆいの会社に勤めている人であり、ゆいとは部署がちがっていたので、普段はあまり顔を合わすことはない。旦那は営業ということもあり、ほとんど事務所にもいない。会社で顔を合わすことは稀だった。
 いちかのマンションは、警察署から歩いてもいけるところで、ゆいもせっかく行くのだからと、近くの洋菓子屋さんでケーキを買って、それを持っていくことにした。
 普通にいちごのショートケーキと、プリンを買った。その店の人気商品はプリンであり、以前、いちかが、まだ在職中の外出時、帰社する時の手土産にと、皆にそのプリンを買ってきてくれたことがあったのを思い出したのだ。
 いちかは、その時すでに婚約していて、実に楽しそうだった。だが、それは表向きのことで、実際にはいろいろ悩みを抱えていたのである。
 その悩みであるが、最初の頃はいちかが一人で抱え込んでいたのだが、さすがに見かねたゆいが、声を掛けた。
「大丈夫であうか? いちか先輩、最近顔色がよくないようですけど」
 他の人の目は騙せても、この自分の目はごまかせないとでも言いたげな真剣な目で、ゆいはいちかを凝視した。
 さすがにそれにはいちかもビックリしたようで、その時の目力もさることながら、空元気を張っていたことに気づかれるとは思っていなかった。
 いや、本当は虚勢もいちかのSOSのサインだったのかも知れない。いちかにとって、ゆいでなくても、誰でもいいから助けてほしいという思いはあっただろう。だが、でくることなら、相手はゆいがいいと思っていたのだった。
「いったい、どうしたというんですか? まもなく結婚しようという人がそんな雰囲気、見ていられないんですよ」
 と言って、ゆいはまるで自分のことのように、いちかを気遣っていた。
 ただ、この時のゆいの中に、
「マウントを取りたい」
 という気持ちがまったくなかったと言えなくもない。
 そのことは後になって自覚もするようになった。いちかにとってゆいは、ある意味、絶対的な優劣に値する相手で、いちかが、劣等感を抱いてしまうほどになっていた。
 だが、それはいちかがそれだけ悩みを抱えているということで、いちかとすれば、
「藁をも掴む」
 という思いがあったに違いない。
 話を訊いてみると、やはり、いちかの悩みは婚約者のことであった。
 婚約者のことは、実はゆいの耳にも少しは入ってきていた。ゆいというのは、思ったよりも会社の中で、情報網を持っているようで、いろいろなウワサを耳にしているようだ。
 ただ、いちかが、どうしてそんなウワサを知ったのかがよく分からなかったが、いちかというのは、自分の仲間内であれば、非常な気遣いのできる人で、それについての信頼も厚いのだが、仲間内から少しでも外に出れば、まったくコミュ力が定価してしまう。悪く言えば、
「内弁慶」
 と言っていいのかも知れない。
 仲間内では、リーダーであったり、姉御肌とも取れるような切符の良さもあったりした。いちかは、そんな状態で、仲間内のマウントを取っていた。だから、仲間に対しては、絶対の信頼を持っていた。その仲間というのはゆいを含めて、四人だったのだが、いちかもゆいも、その仲間内の一人が、性悪女であることに気づいていなかったのだ。
 そのオンナは、日和見的なところがあり、
「卑怯なコウモリ」
 と、揶揄する人もいるくらいだったが、それを揶揄しているのが、仲間の外の人間なので、いちかもゆいも意識していなかった。
 そのオンナが、いちかに、あることないこと吹き込んだようだ、
 もちろん、それは婚約者のことであり、元気にはしていたが、少しマリッジブルーになりかけていたいちかに、追い打ちをかけるような結果になってしまっていた。
 いちかは、普段であれば、そんなウワサは気にしなかっただろう。ただ、彼女は仲間内であるということ。そしていちかが仲間内の言葉であれば、ほぼ信用してしまうほど、内弁慶であるということ。
 いちかは、自分には仲間内に対して、絶対的なマウントが存在していると思い込んでいた。
 確かに、そのマウントは、いちかにとって大きなもので、普段の元気の原動力であった。
 しかし、しょせんマウントなどというものは、人間社会では、それほど長く続けられるものではない。特に日本のように民主主義国家としての教育を受けている人間は、
「自分たちは自由であり、何人からも束縛されない」
 と思っている以上、必要以上なマウントは、仲たがいの原因になったり、相手が反旗を翻してきても、その本心に気づかないというのが本当であろう。
 ゆいは、そんな中で唯一、いちかが退職するまでずっと維持できた唯一の相手だった。
 いちかにあることないこと吹き込んだと言ったが、どこなでが本当で、どこまでがウソなのか分からない。
 ウソだと思うことでも、実際には本当だったりする。もし、ゆいも同じことをいちかと一緒に聞いていたら、さすがに、ゆいにはどれが本当なのか分かったかも知れない。
 それほど、いちかは彼のことを好きだったし、それゆえの悩みであった。気の毒といえば気の毒であるが、いちかという女性の元々の性格が、
「躁鬱の気があって、二重人格なところがあった」
 と、いうことである。
 二重人格だから、躁鬱に見えるのかも知れないが、いつもいちかを見つめているゆいにとっては、彼女に限って、
「二重人格と、躁鬱症は関係ない」
 と言えるのではないかと感じていた。
 それはm躁鬱になった時の性格の開きがかなりあり、ゆいを驚かせたほどだ。だからと言っていちかから離れようとは思わない。逆に引き寄せられるような気がした。それでもいちかから逃げだろうとしなかったのは、
「私と似たところがあるのかも知れない」
 と感じたことだ。
 しかも似ているところは、二重人格性を持っているとこrで、ただ、ゆいは自分が二重人格だと思っているが、もう一つの性格がどのようなものなのか分からない。まるでジキル博士が薬を飲んで、まったく別の人格を持ったハイド氏という悪魔のような男を作り出したのに、当の本人が分かっていないかのようである。
 そんなことを考えながら、ケーキを買って、いちかのマンションまでやってきて、オートロックのブザーを推すと、
「待ってたわよ」
 という懐かしい声が聞こえて、オートロックが解除された。