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高値の女王様

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「先生はああいう子が好みなんだ」
 と、クラスの委員長の子にばかり視線を送っているのを見逃さなかった。
 先生を見ていれば見ているほど、その露骨さがハッキリしてきて、ある日、いつものように放課後授業の後に、
「先生は委員長が好きだって、皆に言いふらしちゃおうかな?」
 と今までにない小悪魔的な笑みを浮かべた。
 すると先生はあからさまに焦った顔になって、
「おいおい、何を言っているんだ。そんなことはない」
 と言って、必死に言い訳をしていたが、その様子がこれまたかわいいではないか。
 ひなたの中にS性があったというのは、自分でも分かっていなかったが、その時点でどちらが優位なのかということは決着したようだった。
 先生は困った顔をしていたが、次第にまんざらでもないようになってきた。ひなたは、それがなぜなのか、すぐには分からなかったが、それは、きっと先生がひなたのことを気になり始めた瞬間だったのではないだろうか。
 先生はツンデレ系の女の子が好きだったのだ。
 委員長のように澄ましたタイプの女性から、苛められたいというような感情を持っていたのかも知れない。だから、ひなたの小悪魔的な表情に、それまでひなたを相手に感じたことのなかったM性を自分に感じたのであろう。
 これはひなたが、
「自分にS性がある」
 と感じたことと、直接的に関係があるわけではないのだが、先生の方でも、自分たちの間に、もう一つの優位性が生まれたのを感じたのだ。
「学校では、先生と生徒という立場。そして学校を離れれば、男と女という立場、そこには、正反対の優位性が潜んでいる」
 というものだった。
 ひなたの方は、先生と生徒という立場の中に、男と女の関係が入り込んできたと考えているところが、先生との感情とのずれだったと言ってもいいだろう。
 学校においては、先生と生徒に変わりはなかった。お互いに意識しないようにしていたが、先生も生徒の顔をなるべく直視しないようにしていたのは、やはり女子高だからだろうか。
 先生から見つめられたと思った生徒は、その気はなくても、急にドキドキしてくるものだ。
「先生と生徒の関係なんて、ただの他人よ」
 と言っている女生徒ほど、男性教師を意識しているものである。
 女生徒の中には男というと、一番最初に思い浮かぶのは父親であろう。クラスに男子はいないので、他の学校の男子と付き合ってでもいない限り、父親がイメージされるに違いない。
 男性教師も当然、男性として意識することになるのだが、
「先生と生徒」
 という関係は、少女漫画の世界の中だけのことのように思っておかないと、嵌ってしまうと、まずいことになるのは分かっていた。
 学校を退学になるのは当然のことで、近所からも白い目で見られたりするだろうし、肩身の狭い思いをするくらいなら、誰も知らないところに引っ越すなどということもありえるだろう。
 当然、父親の仕事もあるので、簡単にはいかない。母親は娘を庇うだろうし、そうなると、夫婦関係もガタガタになってしまい、家庭崩壊への道をまっしぐらということになる。
 厄介なのはその時の生徒の気持ちである。まだ先生のことが好きだったりすると、思春期の一直線な考えが、何をしでかすか分からない。自分でも制御できないくらいになり、
「先生と駆け落ち」
 などということにもなりかねない。
 先生が彼女のことを真剣に好きだった場合は、駆け落ちなどもあるだろうが、先生の方が遊びであれば、先生が迎えに来てくれることもない。
 ただ、先生の方が悲惨なのかも知れない。
 学校を辞めなければいけなくなるだろうし、
「生徒に手を出した先生」
 ということになり、教職から追放されるということにもなりかねない。
 もっと最悪な場合は、女生徒が妊娠でもした場合は、もう二人だけの問題ではない。家族や学校、教育委員会などもひっくるめた問題になるというものだ。
 そうなってくると、すでに個人の気持ちなど関係がなくなってくる。
 先生か女生徒のどちらかが、
「妊娠という既成事実を作り上げれば、まわりも渋々認めてくれる」
 などという甘い考えを持っていたりすれば、さらに話がややこしくなる。
 先生の側にそんな気持ちの人はいないと思うが、生徒の方が先生を好きすぎて、そこまでの非常手段に訴えたとすれば、彼女の精神状態も問題にしなければいけない。
 当然、カウンセリングの対象になるかも知れないし、世の中はそんなに甘いものではないということを彼女だけではなく、まわりにも知らしめておかなければ、同じようなことが再発することにもなる。それだけ大きな問題だということである。
 生徒が先生に迫るというのが、一番考えられることであるが、事態が発覚すれば、まず最初に疑われるのは、先生が生徒を誘惑したかどうかということである。
 対処しなければならない学校側は、まずそのあたりの真意を確かめる必要がある。もし先生が誘惑したのだとすれば、先生をクビにしたくらいでは収まらない。学校関係者にも処分の対象になることは必至である。
 だが、先生が悪くないとすれば、問題の生徒をどのように処分するかということだ。妊娠の有無も問題になるが、妊娠していない場合は、密かに他の学校に転校させて、ある程度外部に漏れないようにするという方法もあるが、下手に退学処分にでもして、彼女が非行に走れば、退学になった理由を警察や教育委員会から責められるのではないだろうか。
 そうなると、生徒の人生も先生の人生も破滅でしかない。家族まで破滅してしまうと、取り返しのつかないことになる。そういう意味で、先生は生徒に手を出すことは決してしてはいけないのだと、先生の方の頭にはあった。
 それでも、生徒が勉強ということであるが、家に来るようになると、学校と違って、ついつい甘い考えが先生の頭の中をよぎってしまう。
 まるで従姉妹の子が遊びにでも来たかのような感覚で、肉親のような感情が生まれてくるのは、ひょっとすると、私服だからだろうか?
 制服の方が危ない感情を抱くことになりかねないと分かっているだけに、制服を着ていないことで、自分の警戒心が緩んでしまっていることに、先生は気付いていないのかも知れない。
 ひなたも、その思いがあってか、わざと先生の家には私服で行くようになったのだ。
 ひなたは、大人ぶっていたので、香水もしっかりとつけていった。ひなたが好きな香水は柑橘系のもので、ミカンやレモンは本当はあまり好きではないのだが、香水は柑橘系をつけるようにしていた。
 食べ物としては、甘いものが好きだった。食欲をそそるものは確かに匂いなので、甘い匂いが好きなはずなのに、甘い匂いの香水はつけようとはしなかった。
 理由は二つあった。
 一つは、柑橘系の匂いが、汗と混ざっても、きつくないからである。甘い香りだと汗と匂いが混じってしまうと、気持ち悪い臭いになってしまい、耐えられないからだ、柑橘系であれば、匂いが混ざることもなく、匂いが変わることもない。だから、ひなたは自分の部屋も柑橘系の匂いにしていた。
作品名:高値の女王様 作家名:森本晃次