小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

高値の女王様

INDEX|4ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

 それは、家族の仲に微妙な亀裂が入りかけていることで、余計なことを考えないように、感覚をマヒさせようという意識があったからかも知れない。
 その思いが、大学の入学も、大学生活も、余計なことを考えないでもいいような、波風の立たないように、感覚をマヒさせていこうという考えを持つようになったのだった。
 ただ、大学生になると、アルバイトをしなければならないと思うようになった。
 他の人がどのように感じているのか分からないが、ひなたは、それほどお金に執着しているわけではなかった。洋服に興味があるわけでも、化粧品にもさほど興味があるわけではなかった。さらに、彼氏がいて、彼とのデートにおめかしをするわけでもない。彼氏がいない歴は、年齢と同じだった。
 その思いもあってか、
「アルバイトというものは、しないといけないものなんだ」
 という感覚になっていたのだ。
 皆は、お金を稼ぐことで、好きなものを買ったり、旅行に行ったり、楽しむための軍資金を稼ぐという意識が強いのだろうが、もちろん、アルバイトをすることで、新しい出会いを求めようと思っている人も少なからずいるのも知っていた。
 だから、一緒にアルバイトを探す友達からは、
「ひなた、これなんかいいんじゃない?」
 と言って、喫茶店やファミレスのウエイトレスという接客業を推してくるのだった。
 嫌ではなかったが、どうもずっと立っているのが辛い気がしたので、渋っていると、
「それを言っていると、どこもないわよ」
 と言われてしまった。
「立ち仕事が辛いという意識を感じさせないような楽しい仕事を見つけるしかないのかな?」
 と感じたので、ひなたはその中から、喫茶店をチョイスした。
 その店は、いわゆるチェーン店のカフェという雰囲気ではなく、昔からの純喫茶という雰囲気のところであった。大げさに言えば、
「昭和の匂いがする喫茶店」
 という雰囲気なのか、だが、そういうレトロな感じも嫌いではないひなたは、そこでアルバイトをするようになった。
 時間帯は朝の七時から、夕方の四時までということであり、少し早い気がしたが、早起きは苦手でもないことと、四時終わりであったら、夕方結構早く上がれることで、帰りにどこかに寄ったりすることもできるのがありがたかった。
 友達は、
「それいいんじゃない。ひなたにはピッタリだと思うわ」
 と言って賛成してくれたのだが、その友達もどこか皮肉っぽいところがあったので、ひなたに似合うと言ったのは、半分皮肉でもあったのだ。
「ありがとう、これ連絡してみることにする」
 と言って、ひなたはすっかりその気になっていた。
 もう、友達のことなんか、どうでもいいという感じだったが、これもひなたの性格であり、自分が何かを決めてしまうと、そこで自分だけ先に進んでしまって、まわりの人を置いてけぼりにしてしまうところが往々にしてあった。
 そのあたりが、まわりから非難されるところでもあるのだが、ひなた自身はまったく自覚がなかった。
 人によっては、
「あれが、ひなたの天真爛漫なところで、癒されるのかも知れないわね」
 と贔屓目に見てくれる人もいたが、実際には、
「何よ、あの子は勝手に自分だけで突っ走って、結局自分だけがよければそれでいいのよ」
 と言われることが多かった。
 本人にそんな自覚がないため、余計にたちが悪いのだった。
 天真爛漫というのは聞こえはいいが、まわりから見ていると、
「いいところだけを一人で持っていってしまって、結局出がらししか残っていないのを、私たちが面倒見る形になるのよ。理不尽極まりないわ」
 と言われるだろう。
 しかし、なぜかそんな風にまわりから言われているわりには、ひなたから離れていく友達はそれほどいない。一つには、天真爛漫さによって、心の中で理不尽だと思いながらも、癒されているという意識は友達にあるからなのかも知れない。ひなたから離れることのメリットとデメリットを比較すると、離れない方がメリットが大きいという思いがあるのかも知れない。
 だが、そのような損得勘定だけで、ひなたから離れないというわけではないだろう。癒しというものが、その時だけではなく、じんわりとその人の中で継続していくことで、次第に自分が離れられなくなっているという意識が強いのかも知れない。
 ひなたが、嫌われていることを危惧している友達が一人いた。彼女は他の友達とは一線を画していて、皆がひなたと一緒にいる時は自分だけではなく、他に誰かがいないとダメだということを感じているのだったが、つまりは、ひなたと二人きりで会うということはなかったのだが、その友達だけは、いつもひなたと二人きりで会うようにしていた。
 他の人との会話が明らかに違っていることをひなた自身も分かっていたし、そういう意味では、
「必要な友達なんだ」
 という意識は持っているようだった。
 他の女の子は、ひなたに対して、決して余計なことはいわない。それなのに、その友達だけは、嫌われても構わないという気持ちがあるのか、言いにくいことでも結構ズバズバ言ってくるのだ。
 たまに、
「そんなにひどいこと言わないでよ。あなたはいつも私に対して辛辣で厳しいことしか言わないんだけど、どうしてなの?」
 と聞いてしまうことがある。
 訊いてしまってから、
「聞かなければよかった」
 と思うことが結構あるのだが、訊いてしまった以上後には引けない。
 彼女は、普段は辛辣にズバズバ言ってくるくせに、ひなたが、優勢に攻撃してくれば、自分が完全に臆してしまうのが分かっているのか、何も言えなくなってしまうのだ。二人の立場が逆転した瞬間だった。
 だが、これはお互いの関係の均衡を保つという意味でちょうどよかったのだ。二人の県警は、それぞれにイーブンであることが均衡の取れている関係なので、日頃ひなたに対して強く言える友達も、たまに、こうやって逆襲を受けることで、我に返るというか、その時にひなたとの関係を顧みることができるというものであった。
「ひなたとは、ずっと友達でいられる気がするわ」
 と言っていたが、実際に友達関係は長く続いていくことになる。
 その友達の名前は、彩名と言った。
 彩名は、大学を卒業すると、就職した会社ですぐに彼氏ができて、就職二年目で結婚し、そのまま、寿退社をしたのだった。
 これは、今後の話の展開でも出てくることなので、まずは話を時系列に戻すことにするとしましょう。
 彩名以外の友達との話で、アルバイトを喫茶店にしようというところまで話をしたが、その喫茶店に面接に行ったのは、電話をかけてから、三日後のことだった。
 お店は家から近いということも、朝が早くてもいい理由の一つだったのだが、その喫茶店が、住宅街にあるということで、ひなたは何か嬉しい気持ちになっていた。
 店構えが昭和で、住宅街にあるということは、有閑マダムなどという言葉を思い起こさせるものがあり、思わず自分が高校時代に、
「高値の女王様」
 と言われていたのを思い出した。
 果たして、その記憶がどのように作用したのか、自分でも分からなかった。
作品名:高値の女王様 作家名:森本晃次