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高値の女王様

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 どこか卑屈なところがあるのは、父親からの遺伝だったような気がする。それを確信したのは、母親に詫びを入れる父親を見たからだった。
 詫びを入れながらも、その気持ちはかなり屈辱的だったのではないかと感じた。父親にとって家族は自分へのご褒美のように思っているところがあった。
 毎日仕事をしてきて、帰ってくれば暖かい家庭が待っているという、そんなベタな気持ちを抱いていたようだ。
 まるで昭和の頃の家庭のように、ひなたが小学生の頃は、
「基本は家族そろって夕飯を食べることだな」
 と言っていたくらいで、実際にできるだけ、家族団らんの食事を心がけていた。
 それが母親の性格で、ひなたの小学生の頃は完全に父親のいうことをすべて正しいという感じで、家族に接していた。
 時々。理不尽なことを言われても、父親に逆らうことはおろか、意見をいうこともなかった。そんな花親を、
「献身的な主婦なんだ」
 と思っていたが、実際にはかなりの我慢があったようだった。
 父親がいつも言っていた家族団らん。それを真剣に考えていたようだ。しかも、
「この家族だったら、団欒を続けていけるに違いない」
 と考えていたようで、実際にひなたに対しても、家族団らんという言葉を口にしていた。
「ひなたは、ちゃんとお父さんのいうことをいつも聞いてくれるから、お母さん、嬉しいわ」
 とよく言っていたが、それは裏を返すと、
「ひなたがお父さんに逆らわないおかげで、家族の平和が守られているのよ。うちはすでに一触即発那状態なので、余計な火種は作らないでね」
 と言っているようなものだった。
 だが、一度の喧嘩で仲たがいをしてしまった両親を見ると、それまで好きだった両親に対しての愛情が一気に冷めてきた気がした。その時に感じたのが、
「本当は両親のことなんて、どうでもよかったのではないか?」
 ということだったような気がする。
「両親が仲良くしてくれれば、自分が怒られることはない」
 という思いが最初だったのかも知れない。
 元々、親から怒られることがあまりなかったのだが、あれは、小学二年生の頃であったか、まだ、あまり判断がつかない頃だったので、分からなかったのだが、思い切り母親に叱られたことがあった、
 たぶん、本当にヤバいことだったのかも知れないが、何しろ小学二年生。母親がなぜそんなに剣幕で怒るのか分からなかった。
 その剣幕ぶりに度肝を抜かれたひなたは、それまで怒られたこともなかっただけにかなりビックリした。その状況は、普段から怒られたことがなかっただけに、怒られている時も、いつになったら、許してくれるのか分からないと思ったくらいで、実際には十分ほどしか怒られていなかったのに、本人の感覚としては、一時間以上だったような気がする。
「お母さんが、あんなに怒るなんて」
 という恐怖がいつの間にかトラウマになっていたのだが、そのトラウマは、いつの間にか、見えないところでのトラウマになっていた。
 実際にそれから母親から怒られることは皆無であり、父親からも怒られることはなかった。父親の場合は寡黙で、何を考えているか分からないところがあることで、却って気持ち悪かった。そんな父親との間のクッションになってくれたのが母親であり、怒られたという記憶が薄れていくくらいに普段は優しかった。
 そんな家庭が、
「うちほど、うまくいっているところはないわね」
 と思わせるだけのものであり、実際に他の家庭がどういうものなのか知らなかっただけに、自分の家庭がある意味歪だったことに気づきもしなかった。
 小学生の頃は友達の家によく遊びに行ったが、見る限りは家庭円満のようであったが、実際にはそんなことはないようだった。
 中学生になってから、遊びに行った友達の家の話を訊いた時、
「ひなたは、うちの家庭が円満だったって思っているの? まあ、そうね、他人には分からないように演技していたものね。私だって演技していたのよ。ひなただって分かっていると思ったわ。でもね、うちに限らずどこの家庭だって演技しているのよ。世間体というやつかしら? ひなたもそのうちに分かるようになってくるわ。私には本当に最近よく分からなくなってきたから、ひなたのような純粋に見れる人が羨ましい。といっても、これは半分皮肉だからそう思って聞いてね。私たちは、今思春期にいるのよ。子供から大人になるために時期なんて、きれいごとでしかない。実際にこの時期にいると、なんだか身体がムズムズするのよ。例えば、身体にどこか痒いところがあると思って指で掻くんだけど、でも、それで満足することはない。またすぐに痒くなって、また掻いてしまう。悪循環なんだよね。最初に我慢すればよかったということなのかな? でも我慢できるわけもないし、そんな状態が思春期での精神状態なんじゃないかって私は思うの。まるでアリ地獄のような感じだっていえばいいかしら?」
 と、いう話をしていた友達がいた。
 しかし、その友達も半年もしにうちに家族で引っ越していった。どうやら、家庭崩壊のようなことだったらしい。風に聞いたウワサなので、どこまで信憑性のあることなのか分からないが、父親と母親はダブル不倫をしていて、離婚しようにも泥沼に嵌ってしまっているという。
 さらに友達の方は怪しい連中とつるんでいて、警察沙汰になったことも数度あり、さすがにこの街にいられなくなったということで、急遽引っ越していったということだ。
 親に借金があり、そのための夜逃げだったというウワサすらある。あまり真剣に聞かなかったのは、それ以上聞いても意味がないと思ったのと、想像を絶することに、頭がマヒしてしまいそうで、訊く必要はないと感じたのだ。
 その友達はあまりにも極端ではないかと思ったが、ある意味、それこそが典型的な転落人生だと言っている人もいた。
「こんなのは、本当に稀で悲惨な状態なんじゃないのか?」
 と聞くと、
「何言ってるのよ。こんな状態は普通にどこにでもあるわよ。一歩間違えれば自分がそうなっていたかも知れないと思うと怖いわね」
 と別の友達に言われたが、その言葉もあまりにも想定外だったことで、何も言えなくなってしまった。
 感覚はマヒしてしまって、どういえばいいのか分からなくなってしまった。頭が勝手にその言葉を記憶の奥に封印しているかのようだった。
 ひなたは、中学生までは清楚な女の子だったが、高校生になって急に大人びた雰囲気になった。しかも、あまりまわりに人を寄せ付けない雰囲気が漂っていることから、
「高値の女王様」
 などというあだ名がついたのかも知れない。
 ただ、それは半分は皮肉が含まれているため、決して褒め言葉でもないのだが、その言葉の裏に、本当のひなたが隠れているということを、その時にひなたには分からなかった……。

              匂いの条件反射

 大学に入ってからのひなたは、自分が平均的な女の子で、平均的な受験をして、平均的な大学に入学したことで、あまり自分が目立たない女の子だという意識を持っていた。
 高校時代に、
「高値の女王様」
 などと言われていたことは知っていたが、だからと言って、その言葉を真に受けていたわけでもなかった。
作品名:高値の女王様 作家名:森本晃次