小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

高値の女王様

INDEX|26ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

 バレてしまえば、人生が終わりであることは分かっている。そうなれば、できることなら自分と相性が合う人がいいだろう。見た目で身体の相性が合うのは分からない。ただ、少なくとも身体の相性が合わないと不倫をしても意味がないと思った。
「だけど、一回くらいであれば」
 という思いがあり、合わなければ、相手も分かるはずなので、合わないことを理由に別れることも可能なはずだ。
 だとすれば、最初の感情としては、性格的な相性が合う人を求めるのが心情である。
 そのためには、同じ趣味を持っている人を選ぶのは当たり前だ。不倫というただでさえ後ろ向きの関係で、そこに会話もなければ、最初から悲惨が見えているようで、何が楽しいというのか。
 気まずい相手を自らで選ぶ必要などないのだ。それだけ不倫相手を探すというのは、基本的に誰にも知られてはいけないという意味で、自由なのである。この言い方は適切ではないかも知れないが。自由な相手を探すのだから、ある意味気は楽である。
 そう思っていると、きっと、ひなたの目には、コンビニの店長に対して、
「この人も、寂しい家庭の中にいるのかも知れない」
 と感じた。
 どこで感じたのかというと、それは、店長の雰囲気が、
「旦那に似ている」
 と感じたところからである。
 前から見た時と、横から見た時、そして、後ろから見た時と、それぞれで佇まいに違いを感じる。
 これは、ひなたが旦那に対して、結婚してから、感じたことだった。結婚前には決して感じたことのないこの感覚が、結婚前には分からなかったことだという意識があったのだ。その時思わず、
「それぞれの顔をデッサンしてみたい」
 と思った。
 大学に入って小説を書くようになったその前後に始めたデッサン、その感覚を思い出した。店長の顔を前から、横から、そして後ろからと描いた時のデッサンで、どのような濃淡が描けるかということと、描く顔が見る方向によって大きさが微妙に違っている気がする。それが、距離感とバランスの違いであり。同一人物で、デッサンの特徴をすべて網羅できるようなサンプルが、店長の表情に現れているのを見ると、
「不倫の相手とS手ふさわしいのではないだろうか?」
 と感じたのではないかと、思うのだった。
 その時はまったくの無意識で、感じたことすら忘れてしまったかのように感じたが、ひなたにとって、明らかに誰でもいいわけではなかったはずだと思うと、次第に思い出せたような気がした。
「他に不倫をする人はどうなのだろうか?」
 と思った。
 自分の不倫相手である、店長は、どういう気持ちでひなたと不倫をしようと考えたのだろうか?
 ひなたが、店長のことを気にしているのを感じ、好かれているという意識を持ってしまい、家庭で感じることのできなくなった、
「女性から好かれる」
 という、忘れかけていた快感を思い出したことで、ひなたのことを好きになったのではないかというのが、一番の思いであった。
 ひなたは、
「それなら、それでもいい」
 と思う。
 その感情が、実は人との恋愛のそもそものスタートだからと思うからである。
 ひなたは、そのうちに、譲二の様子が今度は気になってきた。それまでは、自分のことしか考えられず、不倫に走ってしまったことで、後ろめたさもあるからか、旦那を正面から見るどころか。横眼にも見ることができなくなっていたのに、なぜ、今になって旦那が気になってきたのかというと、旦那が自分を見る目というものが分かってきた気がしたからだ。
 最初は、旦那もひなたと同じように、まったく視線を合わせようとはしていなかったが、最近では、ひなたへの視線を感じるようになった。それは、今までに感じたことのないような視線で、今まできにしていなかった相手が気になるほどの視線なので、目力によるものなのだろうと思うのだった。
 その視線は、何か助けを求めるような視線だった。
 そういえば、ひなたが一番最初に、不倫相手に感じた視線と同じような気がしたのだ。
「この視線をどう解釈したらいいのだろう?」
 と、ひなかは感じた。
 今のひなたの旦那への視線、。
「私を見ないでよ」
 という恫喝にも似た感覚だった。
 それは、ひなたの中に、
「私をこんな風にしたのは、あなたのせいよ。あなたに責任があるんだから、私を見るなんて許されない」
 という理屈である。
 あくまでも、自分中心の考えであって、旦那へのリスペクトなど、まったく存在しない。すべての原因が旦那にあると思わないと、逆に自分の不倫を正当化できないという考えであり、それを旦那が感じれば、きっと旦那だって、自分と同じように不倫に走るかも知れないと思った。
 それはそれでいいと思った。
 同じように不倫をしてくれれば、こっちだって、不倫への言い訳になるわけだから、すべて、状況的には自分のプラスになると思ったのだ。
 ただ、それは状況という意味でだけで、精神的にはまったく違う。
 すべてが相手との間の優劣であったり、立場関係によるものではないか・果たして夫婦関係を営んでいる中で、このままこんな関係でいいのだろうかとも思う。
 しかし、今のまま別れるということになれば、明らかに自分は不倫をしているわけだから、相手と離婚はできるかも知れないが。離婚をしてから、慰謝料を請求などされてしまうと、とても払っていけるだけの算段はない。路頭に迷うも同じことである。
 不倫相手が独身で結婚してくれるならば話は別だが、相手も既婚者。結婚などできるはずもない。それどころか、離婚して慰謝料を払っている女を、誰が貰ってくれるというのか、最初から爆弾を抱えて、墓場に突っ込むようなものではないか。
 どんなに愛している相手であったとしても、結婚はありえないことだろう。
 そんなことを考えていると、自分がしでかしてしまった不倫は後悔でしかないような気もしてきた。もし、離婚ということになれば、相手がどう感じるか。
 普通であれば、
「旦那と離婚が近いということで、自分たちの関係がバレれば、自分にも慰謝料請求がくるのは当然のことで、自分もこの女と一緒に破滅の道に入り込んでしまうかも知れない」
 と感じるだろう。
 そうなると、一刻も早く、相手から離れ化ければいけない。相手は今、自分の旦那との交渉などで、いっぱいいっぱいであろう。そう考えると、別れるなら今が一番いいに違いない。
 そう考えると、不倫はぎこちなくなり、お互いに気まずく、すれ違いが多くなる。別れるなら早い方がいい。旦那に気づかれる前にである。
 気付かれてしまい、証拠でも握られてしまうと終わりだ。いかに、円満に不倫を終わらせるかということになるだろう。
 こういう話を、店長の小説で見たことがあった。店長の経験からなのかどうかは分からないが、今旦那がひなたに対して助けを求めている視線を送っているような気がするというところまでは事実であり、その先の話は、ひなたが、店長の小説を読んで、想像したことであった。
「店長が引き際について考えているということが、この小説を見ていて分かることだった」
 と感じたが、果たしてその通りなのか、何とも言えないところであった。
 ただ、不倫の場合は、
作品名:高値の女王様 作家名:森本晃次