高値の女王様
「必ず、最後は訪れる。消滅するか、形を変えるかは別問題であるが……」
と感じていた。
そもそも、自分は不倫には向いていないように思っていたのに、こうやって不倫をしてしまうのは、過去の記憶が重なってくるからなのかも知れない。甘い臭いや、芸術に誘われることで、自分の感情が煽られて、不倫をしてしまうと、それが旦那にも分かるようで、旦那も、
「自分もしていいんだ」
と思うようだ、
そんな香りを、ひなた自身が醸し出しているのかも知れない。不倫をするメカニズムのようなものが、ひなたの中に備わっているのが感じられた。
ひなたは、旦那が浮気をしていても、それで咎めるつもりはない。自分がしてるのだから当然であるが、怒る資格がないだとかいうレベルの問題ではないのだ。
旦那は、ひなたが不倫をやめれば戻ってくる。そのことも分かっているような気がした。ひなたは、店長にいかに言えば、不倫を終わらせてくれるのかを考えた。
「そうだ。店長をしているくらいだからな」
と思って、店長に直接話に言った。
「私、あなたとの不倫、やめます」
というと、
「そういうことだい?」
と店長が少しビビっているかのように顔色が真っ青だったが、それを見て。言葉だけで大丈夫だと感じた。
「私、高校時代、高値の女王様と呼ばれていたのよ。店長で大丈夫かしら?」
というと、店長は、顔色が元に戻り、
「そうなんだ。私は、これでも、ドンファンと言われていたんだよ。君以外にもたくさんの女がいるので、お互い様だね」
と言った、
もちろん、どこまでが本当なのか分からない。お互いに機会をうかがっていたのだろうか?
出会うべくして出会った相手だったが、別れの時が少しでもずれれば、悲惨な結果になったかも知れない。お互いに別れを切り出すタイミングだったのかも知れないが、切り出した方が女だったというのも、正解だったに違いない。
「高値の女王様」
何とも、意味深なあだ名であろうか……。
( 完 )
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