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高値の女王様

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 しかし考えてみると、モノを捨てられないということだけは、自分の中にあると思っていた。今まで考えたこともなかったが、それが、自分の中の何かを誘発しているのではないかと思った。
 これが起爆剤かと思っていたが実は違った。かつての大きなトラウマから、モノを捨てられない感情になってしまったのだ。
 それが何かというと、それは、
「人の顔を覚えられない」
 ということだった。
 人の顔を覚えられないのは、きっと大雑把という感情の裏返しなのかも知れない。

              不倫をうう思い

 お互いにずっと一緒にいると二人は本当に似てきたようだ。男の方が女に近づいてきたかのように表面上は見えるが、実際には、お互いに、それぞれで近寄っている。
 二人の優劣は明らかに男の方が上に見えた。男が上というよりも、女の方が下だと言った方が分かりやすい。だが実際には男も他の男性に負けないほどの能力を備えていたのは間違いないようだ。
 少なくとも、ひなたを夢中にさせるだけの何かがあったはずだ。最初の頃のひなたは、譲二に対して、あまりいいイメージを持っていたわけではなかった。明らかに年下で、
「付き合うなら、年下がいいな」
 と思ったのも、高校時代の先生との一件があったからだ、
 先生に対して、自分から誘惑したくせに、先生と別れてしまうと、そんな自分の行動をすっかり消し去ってしまっていた。それは、単純に時間が経ったというだけのことで、時間の経過というものが自分にもたらす力の偉大さを、思い知らされた気がしていた。
 それでも、自分でも知らない間に、年上の男性に対して、何かトラウマのようなものができていたのか。それとも、出会った年下の譲二が、あまりにも年下の印象が強すぎて、最初から筋書きがあったのではないかと思うほどだったのだ。
 頭の中では、すでに先生の記憶は希薄になっていた。もし、今先生と街ですれ違ったとしても、気付かないと思うレベルである。
 ひなたは、人の顔を覚えるのが苦手ではあるが、人の顔を忘れることに対しては、そこまで他の人と差異はないと思っていた。しかし、先生の顔がまるでのっぺれぼうのような気持ち悪さでしか覚えていないことで、人の顔をすぐに忘れてしまうようになってしまった。
 これは先生の影響が大きいのは明らかで、高校時代は先生に溺れていたのは確かであるし、自分から誘惑したというのもあったが、付き合っている間は、
「本当に私は、この人のことを好きなのだろうか?
 と思っていた。
 その理由の一つに、
「先生と付き合っている以上、卒業するまで、誰にも知られてはいけないんだ」
 という思いがあった。
 付き合っていることをまわりに自慢することが、男女交際の醍醐味であり、まわりに自分たちのことを嫉妬してもらうことで、優越感に浸りたいと思っているのが、ひなたの恋愛論だったはずなのに、相手が先生であれば、付き合っていることを公開するわけにはいかない。
 下手をすると、退学になりかねないし、先生はクビになってしまうだろう。
 それに近いことになったわけだが、付き合っている時は、そのことを無性に恐れた。しかし、まわりに公表できないという思いをどうすることもできず、まわりへの自慢はできないが、密かに自分の中でまわりに対して、
「どうだ。羨ましいだろう」
 と言わんばかりの視線を送っていた。
「最近、ひなたの視線、おかしいんだよね。何かを訴えているような気がするんだけど、人にはいえない何かの秘密があるのかもね」
 と、そこまではある程度、まわりは分かっていたようだ。
 ただ、まわりからは、
「ひなたに、どこまで度胸があるかだよね」
 と思われていたようだ。
 ひなたは、どちらかというと小心者だと思われていた。友達と一緒にいても、時々上の空であったり。自分の殻に閉じこもっているように見えることがあった。
 それが小心者に見えるのだろうが、実際にはそうであった、
 しかし、先生とお付き合いをしている時は。別に小心者だとは思わなかった。もし、そう感じていたとすれば、いくら先生と一度過ちを犯したとしても、それ以上深入りはしなかっただろう。
「ひょっとすると、私って、男に溺れてしまうほどの淫乱なのかしら?」
 と真剣に悩んでしまったこともあった。
 だが、先生との間がぎこちなくなってくると、その思いも瓦解してきた。お互いに冷めてくると、後は破局は早かったからである。まさか、他の人にバレルとは思わなかったのは、冷めてきた時に、ガードが緩くなってしまったことだった。先生を見ていないつもりでも見てしまっていたり、先生も同じようにひなたを見てしまったりしていたのだ。やはり、ひなたは小心者だったということだろう。
 大学に入ってからは、そんな小心者のような自分をなるべく感じないようにしようと思った。自分が感じていると、それ以上にまわりが察知すると思ったからで、
「他人のことは自分の目で直接見ることができるけど、自分のことは、鏡などの媒体を使わないと見ることができない」
 という構造理論を頭の中に思い浮かべていた。
 そのことがあって、今度は自分から彼氏を作ろうとは思わないようにしようと思った。
 もし、自分が、自分で感じているよりも成長できていれば、勝手に男が寄ってくると思ったからだ。
 しかし、一つ懸念があったのは、
「ロクでもない男が寄ってきた時、本当に自分がちゃんと、その男を見極められることができるか}
 ということだった。
 その男が口八丁と寄ってきたとすれば、その言葉に惑わされないほど、自分が信じられるかであるが、今の自分だったら、男が寄ってきたことで、かなり成長したと思い込み、有頂天になって、自分をなるべく否定しないように考えるであろう。
 そうなってしまうと、今度は口八丁だけではなく、手八丁まで使われると、簡単に騙されてしまう気がしたのだ。
 特に、まずは口だけで相手を油断させるという男性のテクニックもあるらしい。まずは口だけで相手を安心させる。これは、最初から自分に邪な気持ちがないことを示したいという思いと、口八丁でも引っかかるほどの相手であれば、安心させてしまってからは、少々積極的になっても、失敗はないということで、相手に自分の感覚の確信を抱かせることになるということであった。
 ひなたは、そのあたりの見極めに対して、まだまだ自信はなかった。元々自分に自信があるわけでもない。小心者だという思いはないくせに、思い切ったことができないのは、自分に自信がないということに気づいていなかったのは、この見極めに自信がなかったからだ。
 そんな思いを打ち消してくれたのが、譲二だった。
 譲二は、ひなたと似たところがあった。
「俺には、大きなコンプレックスがあるんだ。こんなに子供のようで、しかも、女っぽいところがあるのは、自分で好きでやっているわけでもないのに、まわりは絶対にわざとやっていると思っている感覚があるからなんじゃないかって思うんだ」
 と言っていた。
 それを聞いたひなたは。
作品名:高値の女王様 作家名:森本晃次