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高値の女王様

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 皮肉には皮肉で返すという、まるでジュリアス・シーザーのような言い回しではないか。だが、その後、譲二は必至で謝った。譲二という名前にふさわしくない慌てふためきようだ。少年だと思えば、いかにもその通りなので、気になることはないのだろうが、やはりどこか曖昧な雰囲気に、どう考えていいのか、迷うところであった。
 それでも、ベタでもいいから、何かを言ってくれるかと思ったが、結局は気まずくなっただけで、彼は何も言おうとしない、モジモジした態度で、その様子を見ていると、
「何よ、結局最後は何もできずに、私に丸投げじゃないの。どうして私は、こんな人と付き合うことにしたんだろう?」
 と自分に訴えかけてみた。
 図書館で出会ってから、二度目もやはり同じ図書館の同じ席に座った。その偶然をいたく喜んだのは譲二だった。
「いやぁ、こんな偶然ってあるんですね。僕は感謝しかないけど、ひなたさんも感謝してくれれば嬉しいな」
 と言っていた。
 これが彼の、付き合ってと思った気持ちなのかどうかは分からなかったが、本心なのだろうという気持ちに変わりはなかった。
「ええ、私も何か嬉しいと思っていますよ。漠然とした思いではあるんですけどね」
 というと、
「運命を感じる時なんて、そんなにたくさんはないと思うんだけど、こうやって今感じることができて嬉しい」
 という彼を見ていると、何やら不思議な気持ちになってきて、少し腹立たしくもなった。
 こういうベタなセリフというのは、相手によっては、無性に腹が立つものだということは高校時代から知っていたが、譲二に関しては、無性に腹の立つ部類の人であった。
 少年のように無垢で、素直な性格だということを最初に感じてしまったことで、ひなたは彼の中に勝手な、彼のイメージを作ってしまった。だから、少しでも違和感があれば、そこに腹が立つのだ。
 ひなたには昔からそういうところがあった。人の性格を勝手に想像して、勝手に決めつける。だから、最初に
「この人は、どうも苦手だ」
 と感じた相手と、その後心境が変わって、親密になったということは皆無だったのだ。
 譲二もそういう相手なのかも知れないと思った。せっかく偶然が重なって、再会できたというのに、再会したことが、苦手意識を作ることになってしまったのだという今までになかった皮肉めいた状況に、今度は、彼のことが変な意味で気になり始めたのだった。
 人の顔を覚えることのできないことは、初めて会った時に話をしていた。ひなたは、初対面の人でも臆することはないので、二回目以降に急にぎこちなくなることもあるので、男性から見ると、きっと取り扱いが難しい女なのだろうという自覚はあった。
 それで偶然二回目の再会ができたことで、彼も有頂天になったのだろう。言葉とすれば、まるでプロポーズのようだとも受け取れがちで、そのために、相手のことを考えない無神経な発言に聞こえたのだ。
 ひなたが、戒めたことで、譲二はひなたが、自分を無神経な男だと思っていると感じたのだろう。だからこの時は言葉で何を言おうとも、同じだと思ったのだ。
「これ以上何かをいうと、火に油を注ぐようなものだな」
 と感じたのだろう。
 だから、その後後ろ髪を引かれる思いでありながら、結局何も言えなかったのだ。
 だが、ひなたは、それからも譲二と会い続けた。いつの間にかデートに出かけるようになり、何も言わなくてもお互いの気持ちは分かっているという状態は、どうやらその緩和には、時間だけで十分だったようだ。
 それだけお互いに、一緒にいない間は、相手を気にしていて、気が付いたら気になっていたというそんな関係になっていったのだった。
 ひなたは、相変わらずm人の顔をなかなか覚えられなかった。最初に言っていたように、
「俺が、ひなたちゃんの代わりに、人の顔を覚えてあげる」
 と言っていたのだが、そうもいかなくなった。
 最近では、譲二の方が、人の顔を覚えきれなくなったようだ。
「おかしいな、こんなに若いのに、痴呆症なのかな?」
 と、冗談を言っていたが、それは強がりでしかなかった。
 なぜなら、顔が笑っていなかったからである。
 とは言っても、ひなたほどの重症というわけではなく、あくまでも覚えが悪くなったというだけで、まだ人並みのレベルである。
 しかし、ひなたのように、小さい頃からのことではないので、少々のことでも深刻だ。若いと言っても、実際には若年性痴呆症という言葉があるくらいなので、細かいところを気にする人は、どうしても、気になって仕方がないだろう。
 譲二は、神経質で細かいところを気にするわりには、大雑把だと言える。
「大雑把の反対語って何なんだろう?」
 と考えてしまうが、ここでいう反対語というと、神経質ということになる。
 しかし、神経質というのはあまりいい意味で使われることがないイメージなので、その反対が悪いことだというのは少し変な気がする。そういう意味での大雑把の反対語はというと、
「綺麗好き」
 という言葉に代表されるような、細部にまで気を配るという意味になるのだろう。
 実際に辞書で調べてみると、大雑把の反対語は、
「細かい」
 ということであった、
 つまりは、すべての面において、細かいという広義の意味が反対語になるようだ。
 そういう意味でいけば、神経質というのも、一緒に細かいということになるのではないだろうか、そもそも神経質というのは、意味としては悪いことではない。細部に気を配ることに変わりはなく、ただ神経質な人が引き起こす問題に対して、いい意味で取られないということであり、しでかしたことの結果が影響してくることではないはずだ。
 大雑把という意味で。最近叙実に感じることとしては、
「モノが捨てられなくなってしまった」
 ということだった。
 一度、何も考えずに、モノを捨ててしまい、その時に捨ててはいけないものを捨ててしまって、それが友達から借りた、友達にとっては大切なものだったことで、たくさん謝罪をしたが、それでは収まることのない蟠りができてしまったことで、二人の間に亀裂が生じた。
 そして、一度掛け違えたボタンは元に戻ることなく、仲たがいをしたまま、絶交することになってしまったのだ。
 その経験からか、モノを安易に捨てられなくなった。
 そのうちに、部屋の掃除もしなくなり、掃除をしないから、何がどこにあるのか分からなくなる。そもそも大雑把だったことから、そうなってしまうと、部屋をいじるのが怖くて仕方がない。掃除をするということ自体が怖いのだ。
 それは、面倒くさいなどという感情とは違う。
「自分が何もしなければ、何も悪いことは起こらない」
 という発想から来るものだった。
 ひなたは、譲二のそんな気持ちがなぜか手に取るように分かったのだ。最初はなぜ分かるのか理解できなかった。分かるとすれば、同じところがどこかにないと分からないはずだ。
「自分も整理整頓ができないのかな?」
 と感じた。
 今のところ、部屋が散らかっているということも、大雑把ということは気にならなかった。
作品名:高値の女王様 作家名:森本晃次