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高値の女王様

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「このままだったら、先生が二人のことをもし、他の先生や学校側から聞かれたすると、簡単に白状してしまうかも知れない」
 と感じた。
 その感情を抱いてしまったことで、冷めた気持ちは加速していった。それまでは先生は自分の不利になることは絶対にしない人だと思って、ある程度の安心していたのだが、今回のような落ち込みの前兆のような姿を見せられると、それまでの先生に対してのイメージが、どんどん崩れていっているようだった。
「先生と一緒にいられれば、それだけでいい」
 などと、健気に思っていた自分がバカみたいな気がしてきた。
 それでも、すぐに先生から離れることができないところまで関係は深くなっていたので、ひなたは、逆にゆっくりと状況を見つめることができる時間もあったということである。
 先生と一緒にいる時間が徐々に短くなっていった。あれだけ、
「毎日でも一緒にいたい」
 と思っていた気持ちが萎えてくる。
 今度は他の生徒と同じ目線で他人事のように先生を見ていると、
「先生って、こんなに生徒に対して厭らしい目をしていたんだ」
 と、やっと他の生徒と同じ感覚がもてるようになってきた。
 ひなたは、その時やっと、自分がいよいよ潮時であるということに気づいた。
「今までは、自分ではそんなことはないと思っていたが、ただ、学校の先生というものに憧れていただけで、特定の先生を好きだったというのは、錯覚だったに違いない」
 と感じたのだ。
 あれだけ好きだったと思っていたのは、ひょっとしたら、感情というよりも、セックスの相性が良かったからなのかも知れない。それとも性癖にマッチしていたと言ってもいいであろう。そうやって考えると、大好きだと思っていたことが錯覚だったとしても、それほどのショックではなかった。逆に、
「お互いに入れ込む前でよかったかも知れない」
 と思った。
 先生の方も、ひなたが冷めるよりも前から少し冷めていたようだった。それは、一緒にいれば分かるというもので、自分が先生のことを好きだと思っていたことで、まさか先生の方も自分を好きではなくなるなどありえないと、勝手に思っていたのだった。
 学校の方も家庭の方も、誰も本当に気付いていなかったというのは、本当なのだろうかと思ったが、それほど二人に関係が深くない人であれば、下手に介入しない方がいいと思って、様子を見ていたとも思えるが、どちらにしても、騒ぎになる前に、自分たちで収束させたのは、事なきを得たというべきなのだろうか。
「ひょっとすると、そういうケースも結構あるのかも知れない」
 と感じた。
 実際には先生と生徒の関係というのは、表に出ているのは実に氷山の一角であって、学校側の体裁からまわりに隠そうとしていたり、二人のように、誰にもバレなかった場合もあれば、処分だけは行われ、公表されないだけなのかも知れない。
 どちらにしても、実際にそれまで、
「私は先生になんか嵌るわけはない」
 と思っていたはずの人間が、いとも簡単に嵌ってしまうのだから、世の中というのは表だけを見ているだけでは分からない部分がかなりあるということであろう。
 さらにタイミングがよかったのは。先生が新学期になると、他の学校に転勤していったことだった。
 中途半端な時期だったので、何か不審なところはあったが、誰も先生のことなんか気にもしていない。そもそも、もう転勤して行ってしまったのだから、いまさら話題にしたとことで、何らメリットがあるわけでもなかった。
 ひなただけが、
「私とのことで、左遷させられたんだ」
 と感じたのだ。
 先生の相手が誰なのかということを調査している様子はなかった。たぶん、先生を処分することで、うまく収めようとしたのだろう。だから、
「先生が生徒に手を出した」
 などというウワサも広がることはなかった。
 もし、後で、何らかの問題が起こったとしても、学校側が先生を処分したということであれば、それ以上の詮索はないだろう。
 少なくとも、現時点で何か問題が起こっているわけではない。生徒が妊娠してしまったり、あるいは、その女の子の親が学校に責任を追及しに来なければ、何もなかったということで、時間の経過が、先生を処分したということで、解決したということにしてくれるに違いない。
 そんな状態だったので、先生の相手が誰だったのかを詮索されることもなく、何とか汚点を心の中に残したままではあったが、高校を卒業し。大学に入学できたのだ。
 ひなたは、結構すぐに重大なことであっても、忘れてしまうタイプであった。
 学校で問題にならなかったのをいいことに、大学に入学する頃には、先生と愛し合った時期があったこともすっかり意識の中で薄れて行っているようだった。
 ひょっとして、問題になっていたとしても、退学にでもならなければ、それほどのことをしたという意識が、ひなたの中に残っているわけではないだろう。
 ひなたは、大学に入ると男女共学になったので、誰かを好きになることもあるかと思ったが、意外とそういうことはなかった。
 男子の方も、ひなたに対して、高校時代と同じように、
「高値の女王様」
 のイメージが強いようで、声を掛けてくることはなかった。
 そもそも、この、
「高値に女王様」
 という、キャラクターは、先生との仲のカモフラージュに使っていたつもりだった。
 ただ、あまりにも露骨な態度を取ると、ひなたに対してのやっかみや厭らしいという思いから、その態度の裏を見てしまう人も出てくるかも知れない。あまりにも露骨にならないように、それでいて、実際にひなたに興味を持たないようにするには、
「高値の女王様」
 というイメージが一番よかったのかも知れない。
 他の先生もひなたには一目置いていて、まさか、特定の教師と、付き合っているなど、想像もしていなかったに違いない。
 高校時代の黒歴史は、ひなたが、喫茶店でのアルバイトを見つけたその時には、ほとんど意識の外にあった。記憶としては残っているのだろうが、それも、まるで他人事としてしか意識しておらず、今の高校生が、教師と不純異性交遊などという記事を見れば、
「今の高校生は何を考えているのかしら?」
 という人がいれば、隣で、
「うんうん」
 と頭を何度も上げ下げしていることであろう。
 これはもし、自分が何かの処分を受けていたとしても、時間的にほとぼりが冷めていれば、同じように他人事だったであろう。
 何かがあったその時、ひなたは、必死に自分の中での黒歴史になりそうなことを打ち消そうとする。そして、ほとぼりが冷めた頃には、
「もういいよな?」
 という気持ちになるのか、すっかり意識から記憶へと、封印されていくのだった。
 これが、都合のいい考え方ではあるのだが、ひなたは、簡単にそういう考えに持っていくことができるのだった。
 だから、実際に悩んでいるように見えても、実際にはその時だけであった。
 友達ができると、その中に必ず一人はそんなひなたの性格を看破する人がいて、彼女はひなたに決して近づこうとはしない。だからいつも仲間と思しき人ができても、少なくとも一人は、
「この人とは友達にはなれない」
 という人だったのだ。
作品名:高値の女王様 作家名:森本晃次