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蘇生の成功術

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 河合教授も尊厳死に関しては。不公平さを感じていた。
「科学や医学が万能ではないのだから、生きる屍になっても、まだ生きながらえらせなければいけないという道理はないはずだ。植物人間になった人の保証に関しては、最大限の国家で保証をしなければ、尊厳死を認めないというのであれば、片手落ちということになる」
 と言っていた。
 そういう意味では、冷凍保存という発想を考えた時、河合教授はこの研究に対して、
「まるで、もろはの剣のようだ」
 と言っていた。
 そこで河合教授にとっては葛藤があった。精神的な矛盾だったと言ってもいい。だから、冷凍保存や、その蘇生を研究するということになった時、たぶんであるが、
「自分の時代には完成に至ることはないだろう。だから、後世にノートで残しておくことにするのだが、このノートこそが、冷凍保存のようなものではないか?」
 と言っているような気がした。
「ところで、失敗したというのは、どういうことなんだろうね?」
 と、そこまでの情報はなくて元々と思って聞いたのだが意外なことに、
「聞いた話によると、主語というか、目的語もハッキリしないので、よく意味が分からなかったんですが、まったく別の人間の記憶がよみがえったと言っているそうなんです。どういうことなんでしょうね?」
 と、いうので、それを少し考えてみると、元々そんな大事なことを簡単に人に漏らすというのが、いかにもあざといという観点に立ったとして、
「よくは分からないけど、わざと、そのような情報を流しているように思えるね」
 と山沖が聞くと、
「それでは、私がもたらした情報はフェイクのようなものだとおっしゃるんですか?」
 と、研究員は少し不満そうな表情をした。
「いいや、そうは言わない。ひょっとすると、本当のことかも知れない。わざと本音を聞かせて、こちらがどう感じるかというのを探っているようにも感じるんだ」
 と、山沖は言ったが、まだ研究員は不満そうな顔をして、
「僕にはよく分かりませんが、山沖教授が研究しているのも、冷凍保存なんでしょう?」
 と言われて、
「ああ、そうだよ、河合教授が以前研究していたんだけど、河合教授の時代ではとても研究が完成するわけもない。そこで私がその後を引き受けることになったのだが、なかなか当時の教授の考えが分からなくてね。ノートはもらったのだが、なかなか解読できないんだ」
 というと、研究員は、
「我々も研究に協力しますよ」
 と言ったが、
「いや、それはできない。河合教授から、このノートは誰にも見せないでほしいと言われているからね」
 と、山沖教授は言ったが、それは実はウソだった。
 本当に、河合教授から誰にも見せてはいけないと厳密に言われたわけではない。どちらかというと、何も言われなかったのだ。
 何も言わないのであれば、見せてはいけないのだろうと思っていたのだが、今から思うと、見せてほしいという逆の意味だったのではないかとも思えてきた。河合教授は昔からそういうところがあり、ノートの内容が曖昧な暗号のような書き方をしているところからも、その性格を垣間見ることができるだろう。
「別の人間の記憶がよみがえってきたということは、そちらの研究所では、冷凍保存の時に、肉体と魂を同時に冷凍したということなんだろうか? それとも分離して保存したのだろうか?」
 と、山沖教授は不思議なことを言い出した。
「えっ、それはどういうことですか?」
 と研究員に言われて、自分が思わず本音を口走ってしまったことにビックリしてしまった。
 そのままごまかそうとも思ったが、ここでごまかしては、せっかくの情報をこれ以上もらえないような気がして、損得を考えると、ここで下手にごまかさない方がいいと思うのだった。
「冷凍保存をそのまますると、身体と魂を両方冷凍保存することになるだろう? 私は蘇生させた時、魂が身体の中に入ったままだと、身体が精神に同化して、そのまま年を取ってしまうのではないかと思っているんだよ。魂が身体に入っている間は寝ているんだけど、目が覚めると、魂が活動を初めて、遺伝子と結合することで、自分の体内時計が勝手に動き出す。つまり、眠っている間に取らなかった年を、一気に取ってしまうということになるんだよね」
 と山沖は言った。
「なるほど、浦島太郎が玉手箱を開けた時と同じですね。そういえば、私が子供の頃に見たSF映画で、人間の冷凍保存をする話があったんですが、何だったか理由は忘れてしまったんですが、冷凍保存の機械が故障したか何かで、冷凍保存の機械の蓋が開いてしまったんですよ。すると、中に入っていた人が皆、瞬間的に猛スピードで腐敗していき、そして白骨化してしまったんですよね。その時の話を思い出しました。ところで、このように急激に時間が進む時というのは、急激なコマ送りのように、段階を踏んで見えてくるものなんでしょうかね?」
 と、研究員は言った。
「それはどういう意味だい?」
 と山沖が聞くと、
「瞬きの間くらいに一気に白骨化しているわけではなく、スピードはハンパではないが、段階的に時間が経過しているということを我々に悟らせるような形で、時間というものは進んでいくのかなと思いましてね」
 と研究員は言った。
 研究員の疑問はもっともだった。正直、山沖にも分からない。
「想像でしかないが、段階を経るものだと思う。いや、そう思いたいというべきなのではないかな?」
 と、山沖は言った。
 どちらにしても山沖は、今の話を訊いて、
「なるほど」
 と感じた。
 確かに、ここまでの発想はなかった。いや、あったのかも知れないが、皆が信じているほどに信憑性はなかったと言ってもいいかも知れない。
 それは、あくまでも、そのまま冷凍保存すると、肉体はそのまま保存されるが、魂も一緒に保存され、蘇生の時の反応まで今の段階では想像していなかった。正直にいえば、この発想はもっと後の段階で研究するつもりだったと言ってもいい。だから、下手に考えないようにしていた。だから、発想になったのだ。
 今回、研究員に聞かれて、どう答えていいのか分かっていなかったこともあって、何とかごまかそうと思った結果、思いついた言い訳がさっきの発想だった。
 だが、自分の中で、その思いついた発想が、まんざらでもないと思ったのも事実で、
「咄嗟の時に、意外といい発想が生まれてくるのではないか?」
 と考えたのだ。
 今の自分の発想が、研究員の昔見た映画の発想をすぐに思いつかせるものだったというのは、結構、的を得ていた考えだったと言えるのではないだろうか。
 そんなことを考えていると、失敗したとはいえ、冷凍保存に関して、研究していたその組織も。
「肉体と魂の分離について考えていたのではないか?」
 という思いを抱かせるのであった。
 本当であれば、彼らと意見交換がしたいくらいであった。研究者にとって失敗というのは、成功へのパスポートであり、すべてを失敗ありきで考えなければいけないという思いを忘れてはならないと思うのだった。
作品名:蘇生の成功術 作家名:森本晃次