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クラゲとコウモリ

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「そうね、私も綾香さんのことを前から知っていたような気がするのよ」
 というと、
「それは、あなたのいう私の親近者を知っているからということでなの?」
「ええ、それもあるわ。でもそれだけではないの。私のことを好きになってくれた人だけが、私の後ろに回って、後ろから見ることができる人なんだって思っていたんだけど、あなたは、私に興味を持ってくれていないのに、後ろから見れる人ではないように思うのよ。今までに私が知っている人の中にはいなかった人。そういう意味で、興味もあるし、私があなたを知る前から、あなたが私のことを知っていてくれていたんじゃないかって感じたの」
 と、あいりはそう言った。
 あいりは、じっと、綾香を見つめていた。その目線の先に自分がいるのだと綾香は感じたが、どこか違和感があった。
――あれ? あいりの目線は本当に私を捉えているのかしら?
 という思いであった。
 目の前にいる綾香を捉えているはずなのに、視線はずっとその先を見ているような感じがした。
 あいりは、自分がクラゲのように、後ろから見つめられると、自分が透けて見えるということを分かっている。綾香も、あいりがいうように、後ろから見ている感覚があり、後ろから見ると、あいりが透けて見えるのが分かるのだ。
 その透けて見えるその姿は、くらげのような軟体動物ではなく、昔でいうところの、
「ぜんまい仕掛け」
 とでもいえばいいのか、カラクリ人形とでもいえばいいのか、絶えず動いていて、最近アンティークショップで見た、昔の柱時計を思い出していた。
 その柱時計は、機械部分が透けて見えていて、絶えず、ぜんまいがまるで人間の心臓のように動いていたのだった。
「チックタック」
 音が静かな部屋に共鳴していた。
 しかし、その音は意識していれば、次第に大きくなって、耳から離れないのだが、意識しなければ、音が鳴っていることを感じることはできない。
「意識しているのに、見えていない感覚だ」
 というと、少し語弊があるが、どう表現しても、ピタリと当て嵌まる言葉がなかった。
 そう思うと、どこか落としどころがなければいけないだろう。それを思うと、この言葉が一番しっくりくるのだ。
 だが、本当に自分が意識しているのだろうか? それが分からないだけに、やはり、柱時計の音は永遠に頭の中に残ることにはなるのだろうが、次第に意識としては、消えていくものだという矛盾した状況を頭の中で形成しているように思えて仕方がなかった。
「あいりが、自分のことを意識してくれているということは分かったが、それは、自分があいりの中で、他の女性とは違った何かを持っているということで、興味を持っているからだということだ」
 と綾香は感じていたが、あいりに対して、自分がどうしても、好きだという感覚になれないのは、どこかあいりに対して気持ち悪さのようなものを持っているからなのではないだろうか。
 あいりと綾香の関係は、どうしても、
「あいりが綾香を意識しているが、綾香の方は、そこまでは感じていない」
 ということになるのであろうか。
 さらに、あいりが綾香を意識する理由の一つに、
「自分の自論とは初めて違う相手が現れたことで、少なからずの動揺を抱いている」
 という感覚になっているからであろうか。
 どちらにしても、綾香はあいりにとって、無視しようにも無視できない、そんな関係になってしまったということは否めない。
 綾香はあいりを見ていて、
「ぜんまい仕掛けのアンティークショップで見た中が透けて見えた柱時計のようだ」
 と思っていることだろう。
 あいりの視線は、目の前に見えているはずの綾香と、倫太郎の彼女の間で、お互いに、日になり影になりというイメージがあったからだ、
 片方が表に出ている時は片方は隠れている。だから、二人はお互いの存在を知らないのではないかと思えたからだ。
 だが、綾香には倫太郎の彼女の存在が見えていた、ただし、あいりを通してでないと見えていないのだ。だから、
「倫太郎の彼女は、あいりと何か関係がある女性なのではないか?」
 と感じていたのだ。
 あいりの方では、あやかと倫太郎の彼女に何か関係があると思えていて、お互いにその感覚が、ほぼ間違いないと思っていたのだった。
 そのうちに、倫太郎がどれだけ彼女のことを好きなのかということが気になっているのはあいりの方になっていた。
 あいりにとって、倫太郎という男は、自分が好きになる男ではないと思っていたのに、なぜか引かれてしまっている自分に気づいた。
「惹かれるのではなく、引かれる感覚」
 だったのだ。
 あいりには、自分が、
「クラゲなんだ」
 という意識があった。
 海の中で自由に泳ぎ回っているという感覚だったのだが、実際のクラゲは、自分で泳ごうとしてしまうと死んでしまう。だから、水流を利用して、浮き上がったりしなければいけないのだ。そういう意味で、クラゲとしては、何かを利用して生き残るという感覚は、「卑怯なコウモリ」のように、うまく立ち回って生き残ろうとしていたコウモリと似ているのかも知れない。
 まわりから見ると、まったく共通点など見つけることのできないクラゲとコウモリであるが、冷静に考えると同じところは結構あるようだ。
 それを最初に見出したのは、倫太郎だった。
 綾香とあいりの、平行線のように交わることのない二人をいかにどの角度から見ることで、自分との距離を保とうから感じた時、
「倫太郎の彼女」
 と言われるその女性を、自分に見立てて、二人には見せているような気がしていたのだ。二人には、
「倫太郎の彼女」
 という女性は存在している。
 しかし、まわりから見てそんな女性はどこにも存在せず、実際にもいなかった。
 ただ、以前、倫太郎が付き合っていた女性の中に、一番親しい女性がいて、その女性が数か月前に自殺をしたということがあった。
 彼女は倫太郎以外にも付き合っている人がいたようで、その人の存在は明らかになっていない。警察の方も一応は調べてみたが、やはり見つからなかった。
 倫太郎も彼女の死に対して何らかの責任があるのではないかと言われ、調べられたが、実際に、彼女の死に関わっているということはないようだった。
 その時の倫太郎は実に真面目で、彼女と付き合い始めてから、彼女以外と付き合うことをやめてしまったようだ。
「俺は、彼女だけを愛していくので、今後他の人を好きになることもないし、今までのように、他に女を作るなんてこと、もうしない」
 と言っていた。
 実際に、それまで関係があった女性たちともきっちりと別れたようだ。
 その時にトラブルがあったわけではない。元々、倫太郎との関係は身体だけの関係で、お互いに束縛はしないという約束だったのだ。
 当然、自分を含めた女性たちにも誰か一人を決めたのであれば、束縛をするようなことはしないという約束を交わしていた。
 だが、その約束に従って、一人を愛したいと言い出したのが、倫太郎だっただけに、さすがに最初は皆ぎこちなかった。
「誰か一人が抜け駆けしたんじゃない?」
 という話もあったくらいだが、実際にはそんなことはなかった。
作品名:クラゲとコウモリ 作家名:森本晃次