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クラゲとコウモリ

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 二人は実にうまく立ち回った。ただ、何もすることができなかった綾香は、自己嫌悪に陥ったのだが、何よりも気になったのが、
「自分だけが何も知らなかった」
 ということだった。
 すべてがうまくいき、その日は、それで解散ということになったが、何か翌日から気まずくなってしまった。
「どうして、私だけが知らないの?」
 と聞くと、
「前に彼女が痙攣を起こした時に一緒にいたのが、私たち二人だったのよ。その時に彼女のお母さんからね、対処方法などを教えてもらったので、今回はうまく立ち回れたということなの」
 というではないか。
「でも、私と一緒の時もあるじゃない。その時はどうすればよかったというの?」
 と聞くと、
「綾香と二人きりにならないように、気を付けていたの」
 というではないか。
「どうして? それじゃあ、まるで私が役に立たないみたいじゃない?」
 というと、
「申し訳ないけど、そういうことになったのよ。あなたの今までの行動や言動から、二人きりにしてしまうと、きっと慌ててしまって、何もできない。それどころか、まわりに間違ったことを言いかねないと判断したから、あなたには教えなかったのよ。いい? これは命に直接かかわってくることなの。中途半端な気持ちで関わるなら、関わらない方がマシだという世界なのよ、それが綾香には分かってる? 分かっていなかったら、関わってはいけないのよ」
 ときつい口調で言われた。
 さすがに、その通りだとその時は思って、反省をした。しかし、反省はしたが、納得できることではなかった。
「いくらなんでも、目の前であそこまで自分を否定するなどありえない」
 と思うと、何が一体中途半端に見えるのかと思うと、その時、母親の態度を思い出した。
「そういえば、お母さんも、まわりの人に対しておせっかいを焼いて、結局、余計なことをしてしまうような形になって、まわりから疎まれているような感じがするわ」
 と思うと、自分がその母親に似ているのではないかと思い始めたこともあって、母親のような性格を、友達が見ているのを想像すると、
「確かに、この人だったら、中途半端に見えるかも知れないわ」
 と感じた。
 しかし、だからと言って、友達を許す気にはなれなかった。次の日から気まずくなってしまった。発作を起こした友達に対して、どう接していいかも分からない。さらに、面と向かってあそこまで暴言を吐かれてしまうと、いかにも、
「もう、あなたなんか友達とも思っていないわ」
 とでも言われたような気がして、ぎこちない中、自分が合わせるなどということはプライドが許さなかった。
 次第に三人から離れていき、孤立してしまった。
 後の三人は、最初はそれなりに付き合っていたが、やはりぎこちなくなったのか、しばらくして分裂してしまったようだ。
「やっぱり、綾香を含めた四人だったからバランスが取れてよかったのかな?」
 と、一人が言っていたということを聞いたが、綾香は、
「ざまあみろ」
 としか思わなかった。
 友達関係において、一人が離脱したからと言って、すぐに分裂してしまうような関係は、、本当に四人というバランスがよかったのか、綾香がいることで、一足す一が、三にも四にもなっていた関係だったことを、ぎこちない形で、最後は相手を罵るという形で終わってしまったことが、しこりになったとも言えるだろう。
「綾香はいつも余計なことしか言わないような気がしていたんだけど、綾香が言っていたことって、意外と的を得ていたとは思わない?」
 と、綾香が離脱したことで、関係が崩れたと思っている女の子が言った。
「確かにそうかも知れないけど、そういう子がいるだけで、和が乱れるというのも確かなことだと思うの。だから私は綾香が嫌いだったし、綾香から好かれたいとは思わなかった。むしろ、どうしてあの子が私たちの中にいるのか分からなかったくらいよ。私があの子を避けていたの、気付かなかった?」
 ともう一人が言った。
 確かに綾香の方では気付いていた。三人の中で一人、
「めっちゃ、自分をガン見してくる人がいる」
 という感じであろうか。
 見られていて、これほど気持ちの悪いものはなかったが、綾香の方もなぜ、彼女が輪の中にいるのかが分からなかった。
 綾香は、
「もし、離脱した人が自分ではなくて、その子だったら同じように分裂したのかも知れないわ」
 と感じた。
 お互いに嫌いではあったが、どこか引き合うものがあったのだろう、それがもう一人の彼女を中心にバランスを保っていて、一人を中心に、この時も、
「歪な四角関係」
 と描いていたのだろう。
 その時、自分が歪な四角関係の中にいることから、自分が表から見ると、さぞや嫌な性格であることが分かった。
 そして、この性格がどこから来ているのかと思って、自分のまわりを見渡すと、一番嫌いな人が誰かということに気づいたのだ。
 今までもウスウスであるが気付いていたのだが、その時にハッキリと、
「母親の性格だ」
 と思ったのだ。
 母親もきっと、主婦たちの間に入って、自分一人が浮いてしまっていて、下手をすれば、いつも貧乏くじを引かされているのかも知れない。
 しかも、皆からは嫌われていて、あたかも、
「踏んだり蹴ったりの状態だ」
 ということになっていたのではないだろうか。
 その時は、父親の不倫にも嫌気がさしていたので、今までは主婦連の中で解消しようと思っていたのが、逆にいいように使われて、精神面でも自分でコントロールできなくなっていたのだろう。
 それを本人は分からない。だから、密かに自分も不倫をしたのだ。これがバレてしまうと、もう自分の居場所はどこにもなくなってしまうと思ったからだろう。ある意味追い詰められていたと言ってもいい。
 そんな母親の一番近くにいつもいたのが綾香である。母親のことを分からないわけもないではないか。
 自分が母親と似ていると感じたのは、歪な四角関係によるものだったのだろう。
 そんな母親が一言多いと感じたのも、自分が中学生の頃だった。
 町内会の会合に、週に一度出席することで、夕飯は一人になってしまっていたことがあったが、その頃の母親は、まだ地域への貢献には積極的だった。
 本音は、父親の不倫というのもあったが、
「複数の人間の中に埋もれていると、嫌なことが忘れられる」
 というものであった。
 確かに、たくさんの人の中にいて、自分が歯車のようなものだと思うと、感情を持つ必要などなく、気が楽になれるというものだ、
 楽しいことを考えても、それは勝手な思い込みであって、誰に迷惑を掛けるわけでもない。
 達成できないことを勝手に想像するのも、自分がそれでいいなら、別に嫌でもないだろう。
 母親もきっとそう思っていたに違いない。
「悪い方に考えれば考えるほど抜けられなくなる」
 というのが鬱状態であり、そんな状態になりかかっているのを分かっていたのだろう。
 しかし、鬱状態になると、思ったよりもきつかった。最初は。
作品名:クラゲとコウモリ 作家名:森本晃次